28 / 51
時々雨
#8
しおりを挟む『風月。天気が良いから、今日はドライブに行こうか』
ずっと昔の、色褪せた記憶。
土曜日の朝になると、いつも肩を揺さぶられ、寝てるところを起こされた。
正直まだ寝ていたかった俺は、いつも嫌々起き上がっていた。
なんせ晴れだろうと雨だろうと、結局は車で連れ出されたから。
雨の日はぬれなくていいだろう? と笑顔で言われて。要はドライブしたいだけなんだな、と呆れていた。
俺より子どもらしく、遊び心があったひと。彼の隣に座り、流れゆく景色を眺めていた。
ある日は海。ある日は霧がかった山の中。
夜景を見るのも好きだった。夜に出掛けること自体が非日常感があって、特別な気がしたから。
窓に手をつけ、食い入るように見てると頭を撫でられた。
『綺麗だな。風月も、大人になったらドライブしな。楽しい時も、悲しい時も……走ってるうちに、行きたい場所が絶対見つかるから』
行きたい場所。
そこに行けば、なにか変わるんだろうか。
悩みなんてなかった俺は、その時は何も分からなかった。
でも今なら分かる。答えを知りたくて仕方ないとき、人はじっとなんてしてられないのだ。一目散に走り出して、叫びたくなるときが必ず来る。
走りたい……。
迎は顔を上げ、窓の外を眺めた。
幸耶も今頃頑張ってるはず。公道で走るようになり、これまで以上に気をつけることが増えて。
心に負った傷を、自分の力で塞ごうとしているんだ。
俺は彼を自分に重ねて、それで頑張れる気がしていた。
でもそれじゃ駄目なんだ。……頑張ることが目的なわけでもない。俺はただ、────あいつと。
校内でチャイムが鳴り響く。最終の教習を知らせる音だ。
頭が空っぽなわりに足は自然と動いて、出入り口の方へ向かった。
雨が降っていたから少し肌寒くて、薄いシャツを羽織る。壁に寄りかかり、一斉に散らばっていく生徒達を眺めた。
やっと終わったー、と明るい顔で帰る者達を横目に、疲れた顔で歩く青年の前で足を止める。
「幸耶。おつかれ」
「か、風月? 何で」
声を掛けると、案の定彼は露骨に驚いていた。
一番に怒鳴り倒してもいいと思ったんだけど……狼狽えてる彼を見たら、いやに冷静になった。鞄から教本を取り出し、彼に差し出す。
「忘れ物」
「あ……」
幸耶も分かっていたらしく、徐に教本を受け取った。それから静かに「ありがとう」と呟く。しかし俯いて目を合わせようとしない為、逆に笑ってしまった。
「ふはっ。そんなに俺と会いたくなかった?」
「えっ?」
「めちゃくちゃ気まずそうだから。俺が何かしちゃったなら謝るよ」
今日は、逃げる気も逃がす気もない。
彼の正面を向いて告げると、張り裂けそうな声が返ってきた。
「違う。お前は何も悪くない……!」
誰もいない広い空間だから、声がよく通る。
怖いぐらい静かな場所で、俺達は見つめ合った。
「会いたかったよ。でも、もう会わない方が良いと思ったんだ。俺の存在は、お前にとって悪影響な気がしてならないから」
「何だよ、それ。どこらへんが?」
「……~~っ。……押し倒しただろ」
「あぁ……」
分かってる。それしかないし、それ以上のことは起きてない。
けど狼狽する幸耶と裏腹に、俺は怖いぐらい冷静だった。
ここで幸耶を止められないなら、俺もそこまでの人間ということ。彼を受け止められる器じゃないということだ。
でも、諦める気持ちなんて微塵もない。
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡
濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。
瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。
景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。
でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。
※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。
※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる