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#7

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「映画面白かったね! 最後の方ウルッときちゃった!」

翌日、理瑛は付き合い始めた少女と映画館に来ていた。周りはカップルだらけだが、こちらもデートなのでまったく視界に入らない。すごいな。これが彼女パワーか。
「お腹空かない? 俺クレープ買ってくるよ」
「ほんとう? ありがとう!」
彼女が見せる笑顔は自分の中の重苦しい気持ちを吹き飛ばしてくれる。結局、朝も父とは一度も会話しないで家を出たから。

いつもより元気のない姿を見た時は胸が痛んだけれど、良いタイミングだと思う。父のことは好きだけど子離れは勿論、依存だけは直してほしかったから。
「はい、美雨」
「美味しそう! ありがとね、理瑛」
そう。これでいいんだ。
互いの体温を確かめ、絡み合うのは異性で充分だろ。


「はっ……あ、んっ、あぁっ……!!」


現実を忘れるには、幻想に浸るには、セックスが一番。
「り……えい、気持ちいい……っ」
泣きそうな顔の彼女を下に、俺は快感と愛しさと、わずかばかりの罪悪感に酔った。
夜、彼女の家で、彼女と身体を繋げてる。
「んっ……美雨……っ」
「ん、あ、激し……!」
駄目だ。付き合ったばっかりで……こんなこと。

駄目だ。駄目だ。
やばい。……気持ち良い。
自分が人間であることを忘れそうになる。こんな世界があったんだ。
粘膜が絡む度、心も身体も溶けていく。

「ふぅ」

疲れた。
もはや運動じゃないか。誰だ、娯楽なんて言った奴は。
彼女の部屋で着替えた後、密かに背伸びして悶えた。

「じゃ、また月曜日ね」
「うん。……大好き。またね、理瑛」

軽くキスをして、彼女と別れた。
あんな汗をかいた後も、彼女の髪からは花のような香りがしていた。改めて、女の子って良いなって思った。

次はいつシよう。

なんて、まるで醜い欲望の塊。自分が気持ち悪い。とうとう汚れるところまで汚れた気がする。
あの綺麗な娘まで汚すのは嫌だけど、快感に勝てない。

何故だろう。いずれは皆する行為なのに、背徳感を覚えるのは。
考えても考えても答えは見つからないから、家へ帰った。
とりあえず終電に間に合って良かった。

駅のホームで目に入った電光掲示板は、日付が変わっていた。







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