5 / 16
#4
しおりを挟む「今夜はここで、俺と寝て」
アケミの“お願い”は、理解するのは易しく、実行するのは難しいものだった。
果たして、添い寝、で済むのか。頭がハテナで埋め尽くされてる自分の腕を引き、無理やりベッドに押し倒した。
「ちょっ、アケミ様っ」
「俺には君を好き勝手する権利があるんだろ?」
ひとつのベッドに男二人で寝転ぶ。向かい合わせな上密着してるせいで、腰から下がいやに当たった。
「ちょっとガチガチ過ぎて抱き枕には程遠い……」
「抱き枕なら持ってきますから、離してくださいっ」
彼の肩を押して叫んだが、力では全然敵わない。簡単に逞しい腕の中に包み込まれてしまった。
「あ……」
いつぶりか分からない温もり。それに、額にあたる吐息と胸の動き。
……生きてる。当たり前過ぎることに気付いたとき、抵抗を忘れた。
「おぉ~、そうそう。その調子で力抜いて……ね」
耳の後ろを撫でられる。さっきまでの恐怖と緊張は攫われて、眠ってしまいそうな心地良さに支配された。
気持ちいい……。
人の手で撫でられるのって、こんなに心地良いものなのか。驚き、むしろ自分の方から彼の胸に擦り寄ってしまう。
「あはは、くすぐったい」
「あ、すみませ……」
「いいよ。天使ちゃんて、何か実家で世話してた白猫みたいで可愛いんだ」
猫って、あの小さくて尾が長い生き物か。類似点なんて一つもない気がするけど。
違和感を覚えながらも、彼のシャツに顔をうずめる。
「もういないんだけどね。安直だけどシロって名前つけた。可愛かったなぁ……大切な家族だった。何でか、君と初めて会った時も思い出してたんだ」
アケミは温もりを確かめるように、髪一本一本梳いていく。
いつもおどけてるように見えて、何でも尊ぶ人だ。
「怖くないんですか。こんな知らない場所に来て……ひとりで」
「……今はひとりじゃないよ?」
つむじを指で押される。くすぐったくて、顔を上げた。
「俺の面倒は、ずーっと君が見てくれてたじゃん」
嘘や世辞なんてこれっぽっちも混じってなさそうな。
明るい笑顔。力強い声。
その全てに目を奪われて、言葉を失った。
何でこんなに強くいられるのか。優しいのか。
……強いから優しいのか、と腑に落ちたり。
アケミの手が頬に触れた時は、涙が零れていた。
彼は俺のことすら許そうとしている。
「わ。……やっぱり、怖がってるのは君の方みたいだな」
「だって……」
溢れ出るそれを袖で必死に拭うけど、全然足りない。結局アケミがタオルをとってきてくれた。
まるで子どもみたいに宥められる。恥ずかしくて、懐かしくて、胸の中がいっぱいになった夜だった。
泣き疲れて眠るなんて、ここに来た時以来だ。
次に目が覚めた時も、アケミの腕の中にいた。
「…………」
随分強く抱き締められていたらしい。軽く腕が痛い。
腰も当たってるし、素足は指先がくすぐったい。
頭は冴えてきたが、しばらくそのままでいた。
できればずっとこうしていたい。アケミの寝顔を見ながらそんな風に思った。
長い睫毛、凛々しい眉、薄い唇。どれも見ていて飽きない造形で、思わず触れたくなる。
迎え入れても冥王が彼に中々手を出さないのは、彼の巧みな距離感と、この圧倒的な美貌故だろう。何がなんでも手に入れたいと思う美しさ。だが下手に触れたら火傷してしまいそうな強さを秘めている。
逆に俺は、いっそ火傷して、ドロドロにとけてもいい。それでも触れてみたい。
そして、触れてほしい。次第に息が荒くなるのも気付かず、彼に顔を近づけた。
彼を嫌いになるなんて有り得ない。この城で唯一、自分が心を許していた相手だったんだ。
最初は罪悪感で。同じ境遇に同情して。でも彼の明るさにいつも救われていた。
「アケミ様……」
傍にいたい。
許されなくても、種族が違くても。愛おしいという気持ちを思い出させてくれたこの人と一緒に。
あと少しで触れる。その時、顎を掴まれた。
「んっ!」
視界と一緒に、唇を奪われる。
一瞬何が起きたのか分からなかったけど、アケミが目を覚ましたらしい。
熱い舌がさしこまれる。息が混じり合い、淫らな糸が絡まる。
初めて聞く、いやらしい水音……。全てに慣れなくて、頭が真っ白だった。
離れて、アケミの顔が視認できてようやく現実に戻る。
「……俺の名前を呼んでたけど、どうして?」
こんなことをしておきながら、わざとらしく尋ねる彼が憎い。目元を擦り、余裕たっぷりの顔に音のなるキスをした。
「……誘い込んだくせに俺を放ったらかして寝てるなんて、呑気だなって思いまして」
あまりに無防備で、無警戒。彼の唇を指でなぞった後、舌なめずりした。
「俺だって人間じゃないんですから。貴方を襲うことだって有り得るんだし、気をつけてくださいね」
0
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
孤独な王子は影に恋をする
結衣可
BL
王国の第一王子リオネル・ヴァルハイトは、
「光」と称えられるほど完璧な存在だった。
民からも廷臣からも賞賛され、非の打ち所がない理想の王子。
しかしその仮面の裏には、孤独と重圧に押し潰されそうな本音が隠されていた。
弱音を吐きたい。誰かに甘えたい。
だが、その願いを叶えてくれる相手はいない。
――ただ一人、いつも傍に気配を寄せていた“影”に恋をするまでは。
影、王族直属の密偵として顔も名も隠し、感情を持たぬよう育てられた存在。
常に平等であれと叩き込まれ、ただ「王子を守る影」として仕えてきた。
完璧を求められる王子と、感情を禁じられてきた影。
光と影が惹かれ合い、やがて互いの鎖を断ち切ってゆく。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる