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本音の寝室
#2
しおりを挟む何だかんだで、“彼”と出会ったのは二週間前。
……寒い。
吐く息は白く染まり、それが追い討ちをかけるように身を凍えさせる。どんなに服を着込んでも、人の集まる店へ行っても、帰る場所のない夜は本当に寒い。眠くて怠くて、朦朧としていた。
いっそこのまま、野垂れ死んだなら。……どうなる?
多分、楽になる。俺が死んでも誰も困らないし、きっと誰も気付かない。俺の存在を認識してるのはせいぜい職場の同僚や上司ぐらいだ。そう考えると虚しくて、何だか笑ってしまう。
何の為に今まで生きてきたんだろう。
どれだけ考えてもさっぱり分からない、その程度の人生だ。
あぁ、でも……大人になりたかった。
夢にも目標にもならないけど、ずっと願っていたんだ。
早く二十歳になりたい。
二十歳は、「自由」らしいから。
「自由」な大人になれたなら……もういいか。
死んでもいいか。
『おーい、こんなとこで寝たら凍死するよ?』
……。
肩を揺すぶられて、閉じていた瞼を開ける。そこには、ひとりの男の人がいた。
『酔っ払いかー……』
黒いコートを羽織った彼は、困ったように俺の目の前に屈んだ。
この人は……そうだ、俺はこの人に会いに来たんだ。やばいやばい、忘れてた。
この人は木間塚。木間塚、
『……准さん?』
声に出して、名前を呼んだ。ずっと、呼んでみたかった名前だ。
本当に……本当に会えた。
十五年前と同じ真冬の夜というのが皮肉だ。
でも貴方はきっと俺のことなんて忘れてる。だからそれは別に気にしなくていいか。
今日の空は、星が出てないけど。
『准さん……』
なんだ。
元気そうで、良かった。
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