上 下
6 / 6

ダークエルフ

しおりを挟む
 朽ち木の沼から救出した娘をのせて、王都への道を馬車はひた走る。

 後部席では、ネルラン王子が娘を膝枕してやさしくその髪をとかす。

「実に美しい髪だ。新雪のように白いな」

 王子の感嘆に、向かい座席のサマークリフがつまらなそうに答える。

「魔力の急激な消耗によるものかもしれませんね。何しろあの『アナセマ』を放ったんですから。――そんなことより、さっきから誰かに追われてる気がしてならないんですがね。追っ手の気配がプンプンする」

 ありそうなことだ。

 呪いにまみれたこの世界で、呪いを解く唯一の魔法『アナセマ』。
 ――呪いを1つ生みだすかわりに、別の呪いを完全に解き消す、呪術系究極魔法。
 闇の理を世界にもたらす、伝説の呪法。

 その使い手が突如として現れたとなれば、
 自分たち以外にもこの娘を欲しがるやからはこれからごまんと出てくることだろう。

 邪には邪を、呪いには呪いを、禁術には禁術を。

 追っ手の目をくらます昼まだきの重たい霧も、風向き次第でやがては晴れてしまうだろう。

 だがそれが何だ?

 ネルラン王子は、微笑みの下で密かに決意を燃やす。

 一国の王太子として、
 民の幸福と王家の財を預かる権力者ギフテッドとして、
 運命が巡りあわせてくれたこの娘を、私はけしてはなすものか。

 彼女は呪われてはいない。――
 そう、おそらく彼女こそは――

 世界を呪縛から解き放つ、ただ1つの鍵。
 けがれをすすぐ闇の巫女。

 ”呪いの妖精ダークエルフ
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...