11 / 12
第十一話
しおりを挟む
「俺とお試しで付き合ってみない?」
そう言われた瞬間、僕はすぐにどうやって断ろうかを考え始めていた。これ以上飯塚くんにダメージを与えたくない。でもここで流されるのも後で彼を傷付けることにならないか?
どう言おうか悩み口を噤んでいると、彼は焦れたように言葉を重ね始めた。
「和泉くんの嫌なことはしないし、俺のことが嫌になったらすぐに離れていい。今まで通り一緒に授業受けたり、ご飯行ったり、たまにちょっと出かけたり。それだけでいいから」
いつになく必死な様子で飯塚くんは僕に懇願した。
気付けば僕は首を縦に振っていた。
彼の言う通り、僕の飯塚くんの関係は一見何も変わらなかった。しかし、僕の方はそうもいかなかった。
どうやら僕は彼といると緊張するようになってしまったようだ。彼からの好意を匂わせるような言動を受け取るたびに、僕はどう応えたらいいのか分からず、ただただ言葉を詰まらせるばかりであった。
そしてもう一つ問題があった。例の夢をたびたび見るようになってしまったのだ。内容は何一つ変わらない。誰もいない街を手を繋いで歩く。そして路地に連れ込まれ、彼の顔が近付いて——。夢はいつもそこで終わる。
いつの間にか、彼のことを考えない日の方が少なくなっていた。それに気付いたとき、僕は本当にもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
分からないことをいくら考えても分からないものは分からない。そう結論付けた僕は有識者に助言を求めることにした。
「……っていうことがあったんだけどさ、もう何をどうしたらいいのか分かんなくて」
ぼやく僕の目の前には呆れた表情をした桜子の姿が。
「なんだよ、その顔」
ムッとしてそう言うと彼女は深くため息をついた。
「こんな顔にもなるわよ。健はさ、流されやすい性格ではあるけど、なんでもかんでも受け入れられるほど度量の大きな人間でもないじゃん」
「うん、まあそうだね」
彼女の言葉に僕は複雑な気分になったが、事実であることに間違いはないので大人しく同意することにした。
「飯塚くんだっけ? その子の行動が嫌なわけじゃないんでしょ? じゃあもう健が覚悟決めるだけでしょ」
「……他人事だからそんな簡単に言えるんだよ」
「簡単なことでしょ。彼は健に気があって、健は彼を意識してる。それだけの話でしょ?」
「そう、なのかな」
本当にそれだけでいいのか? もっと考えるべきことがあるのではないか? そもそも飯塚くんと僕では釣り合わないのでは?
「そうなの。健は余計なこと考えすぎなんだよ。中学のときだってさ……」
そこから先はいかに僕が事を複雑に考えてきたかを小一時間ほど説明され、言いたいことを言うだけ言った彼女は満足そうに帰って行ってしまった。
残された僕は頭を抱えるばかりであった。
そう言われた瞬間、僕はすぐにどうやって断ろうかを考え始めていた。これ以上飯塚くんにダメージを与えたくない。でもここで流されるのも後で彼を傷付けることにならないか?
どう言おうか悩み口を噤んでいると、彼は焦れたように言葉を重ね始めた。
「和泉くんの嫌なことはしないし、俺のことが嫌になったらすぐに離れていい。今まで通り一緒に授業受けたり、ご飯行ったり、たまにちょっと出かけたり。それだけでいいから」
いつになく必死な様子で飯塚くんは僕に懇願した。
気付けば僕は首を縦に振っていた。
彼の言う通り、僕の飯塚くんの関係は一見何も変わらなかった。しかし、僕の方はそうもいかなかった。
どうやら僕は彼といると緊張するようになってしまったようだ。彼からの好意を匂わせるような言動を受け取るたびに、僕はどう応えたらいいのか分からず、ただただ言葉を詰まらせるばかりであった。
そしてもう一つ問題があった。例の夢をたびたび見るようになってしまったのだ。内容は何一つ変わらない。誰もいない街を手を繋いで歩く。そして路地に連れ込まれ、彼の顔が近付いて——。夢はいつもそこで終わる。
いつの間にか、彼のことを考えない日の方が少なくなっていた。それに気付いたとき、僕は本当にもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
分からないことをいくら考えても分からないものは分からない。そう結論付けた僕は有識者に助言を求めることにした。
「……っていうことがあったんだけどさ、もう何をどうしたらいいのか分かんなくて」
ぼやく僕の目の前には呆れた表情をした桜子の姿が。
「なんだよ、その顔」
ムッとしてそう言うと彼女は深くため息をついた。
「こんな顔にもなるわよ。健はさ、流されやすい性格ではあるけど、なんでもかんでも受け入れられるほど度量の大きな人間でもないじゃん」
「うん、まあそうだね」
彼女の言葉に僕は複雑な気分になったが、事実であることに間違いはないので大人しく同意することにした。
「飯塚くんだっけ? その子の行動が嫌なわけじゃないんでしょ? じゃあもう健が覚悟決めるだけでしょ」
「……他人事だからそんな簡単に言えるんだよ」
「簡単なことでしょ。彼は健に気があって、健は彼を意識してる。それだけの話でしょ?」
「そう、なのかな」
本当にそれだけでいいのか? もっと考えるべきことがあるのではないか? そもそも飯塚くんと僕では釣り合わないのでは?
「そうなの。健は余計なこと考えすぎなんだよ。中学のときだってさ……」
そこから先はいかに僕が事を複雑に考えてきたかを小一時間ほど説明され、言いたいことを言うだけ言った彼女は満足そうに帰って行ってしまった。
残された僕は頭を抱えるばかりであった。
1
あなたにおすすめの小説
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる