彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

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紅葉の心配事

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 一日を終え、眠りについた光弘がいつものように白い世界に目覚めると、表情を険しくした紅葉くれはがいた。

 「どうした?そんな表情かおをして。」

 光弘が問いかけると、紅葉は目を細め、じっと光弘を見つめてくる。

 「今日、君の周りで、知った名を耳にした。嫌な名だ・・・・。奴が絡んでいる痕跡も、見つけた。近くにいれば祓ってしまえたが、姿がなかったんだ。」
 「君がそんなことを言うなんて、よほどな相手なんだな。」

 光弘がそう言うと、紅葉は鼻で笑って苦笑した。

 「いや・・・クズだよ。僕の相手になるようなものじゃない。ただ・・・・あなたをあれに、近寄らせたくないだけ。」

 紅葉は再び真剣な表情になると、光弘を真っ直ぐに見つめた。

 「霊の正体は、死んだ者だけとは限らない。バスで出会ったものは音楽室のものより意思が強く明確だ・・・恐らくあの霊の正体は死んでいない。明日の朝、命逢みおの洞窟で、真也しんやにも伝えて・・・・・。何か、嫌な予感がする。」
 「わかった。」

 光弘は命逢での毎朝の鍛錬を欠かさず行っていた。
 これに数カ月前から真也が合流しているのだ。

 光弘が不安げに瞳を揺らすのを見て、紅葉はとろけるような美しい笑顔を向けた。

 「不安に思わないで・・・・・。僕はいつでも、ここにいる。助けが必要なら、迷わずに僕の名を呼んで。」

 そう言って、光弘の頬に伸ばした手を、紅葉は触れる直前でそっと引っ込めた。
 光弘は寂しそうに目を伏せた。
 相変わらず、紅葉は自分と触れようとはしない。
 紅葉は沈んだ空気を取り繕うように、柔らかい声で光弘に話しかけた。 

 「今日は、僕の番じゃなかったはず・・・・。どこの景色を見せてくれるの?」
 「俺は、君のように長く生きてはいないから、いつも同じような場所ばかりになってしまうな。」
 「いいんだ。君の日常を知れるのは嬉しい。」

 紅葉の言葉に、光弘は小さく首をかしげながら微笑んだ。

****************************

 翌日、俺と勝と光弘は、休み時間を使って、真美という3年生の教室を訪れた。

 今朝、命逢での鍛錬で、光弘が言っていたことが気になっていた。
 考えすぎであればいいが、俺は大きな思い違いをしているのかもしれない。

 都古は、なんだかいい予感がしないと顔をしかめ、今回は教室で待機することを選んだ。

 真美のクラスにつくと、彼女はおとなしそうな4人の女子に囲まれ、化粧とテレビの話なんかをしながら、大声で笑っていた。

 俺たちが声をかけると、すぐに嬉々として走り寄ってくる。

 「なぁに?まさか、君から呼び出されるとは思わなかったなー。」

 そう大きな声で言って、真美は視線をあえて集めた。
 どうやら光弘に呼び出されたということを、周りにアピールしたいようだ。

 俺はなんだか頭痛がしそうだった。
 とはいえ、ここで彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。
 そう思っていると、光弘が口を開いた。
 ゆいがいつの間にか、ごく小さな結界をはっている。 

 「休み時間中にすみません。俺、ちょっと先輩と話したいことがあって・・・・・。放課後時間をもらえますか。」

 光弘の言葉に、真美は化粧の濃い派手な顔を上気させた。

 「えー。放課後ぉ?どうしよっかなぁー。私は別に今でもいいんだけどー。ふふふっ・・・・いいよ。時間作ってあげる。」
 「ありがとうございます。放課後音楽室前でお待ちしてます。」

 3年の教室を後にした俺としょうは、同時にため息をついた。

 「ありゃ・・・ねーわー。」
 「ごめん。俺はノーコメント・・・・。」
 「光弘って大人だよな。俺、無理!」
 「あのタイミングでしっかり結界張ってた癒もすごいよ・・・・。光弘、なんも言ってなかったのにさ。」

 俺の台詞に、癒は当然だというばかりにツンと斜めに顎を上げた。
 2年の廊下に戻った俺たちは、そこで待っていた都古に真美の話を報告した。

 「やっぱ、お前ついてこなくて正解だったわ。真美ってやつ、完全に光弘が告りにきたと思ってるみたいで、ご機嫌でオッケー出してたよ。都古が来てたらへそまげて話になんなかったかもな。」

 真美を見た後だからか、都古がいつも以上に可愛らしく見えて、俺は何気なく都古の頭をなでながら癒されていた。
 都古は不思議そうに首をかしげたが、嬉しそうに目を細めた。
 それをみて、俺も光弘も笑顔になった。

 「なんか、あんなん見た後だからか、都古でも純粋で可愛いい生き物に見えるわー。」

 勝・・・・お前、今日の稽古が荒れても知らないぞ。

 俺はそう思ったが、口にはしなかった。
 俺たちは、放課後落ちあうことにして教室へと戻った。
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