彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
95 / 324

光弘の告白 2

しおりを挟む
 『あの頃は何もわかってなかったけど、今ならわかるんだ。』

 新しく形を作りかえていく景色の中で、光弘の声が響く。

 『幼い頃の俺は見えないはずの者に、気づかずに話しかけてしまうことがあった。だから姉さんは、わざと庭先で見えない者に話しかけてくれていたんだ。祖母や近所の人に見られるように・・・・・。そうすることで、俺を守ってくれた。』 

 光弘の声が響くなか、周囲は色を変え、緑に包まれていく。

 『俺は、そんな姉さんに結局なにもしてやれなかった。姉さんはいつも俺に笑顔を向けてくれた。いつでも俺の味方でいてくれたのに・・・・・。』 

 セミの声が鳴り響く。
 樹々の緑の中たたずむ光弘と楓乃子の姿が現れた。

 「姉さん。僕、やっぱり許せない。なんで姉さんがこんな目に合わなきゃいけないんだ。」

 光弘が楓乃子の手を見つめ、険しい表情で怒りをあらわにしている。
 そこには真新しい傷があり、真っ赤な血が流れていた。

 「そう怒るなって。大丈夫だって言ったろ?みーくんがいつも私の分まで怒ってくれるから、私は全然腹が立たないよ。・・・・ありがとう。」

 そう言って光弘の頭をなでながら幸せそうに微笑んだ楓乃子は、そこで話を終わらせようとしたようだった。
 だが、そんな楓乃子に光弘が食い下がる。

 「なんで知らない子供が、姉さんに石をぶつけてくるの。姉さんは何も悪い事してないのに。・・・・・なんで、お婆ちゃんは姉さんに居候いそうろうなんて言うの。ご飯を1人だけ別にするの?・・・・なんで・・・なんで僕は、本当の事を・・・言いたいことを言っちゃいけないの?」

 ボロボロ涙を溢しながら訴える光弘に、楓乃子は困った視線を向ける。

 「姉さんと同じでいたい。悪口言われるなら、僕も一緒がいいのに・・・・・。」

 楓乃子は、光弘を強く抱きしめた。
 目を伏せ、暗い瞳で何か考え込んでいる楓乃子だったが、ゆっくり顔をあげると、小さく息を吐いた。

 「ごめん・・・・・。これは私のわがままなんだ。私の好きにさせてくれないか・・・・・?」

 楓乃子は泣きそうな瞳で、苦し気に光弘に訴えた。
 それでも納得のいかない表情でいる光弘に、楓乃子は困ったように微笑んだ。

 「その代わり、とっておきの秘密を教えてあげる。」
 「・・・・なぁに。」

 光弘は、少し唇を尖らせて楓乃子に問いかけた。

 「本当はね、私は何も食べなくても平気なんだよ。」 

 光弘は驚いて目を見開いた。

 「お腹が減ることもない。具合が悪くなったりもしない。・・・・だから、本当にお婆ちゃんのやっていることが嫌なら、食べないで残して返したって平気なんだ。それでも私は、あえて食事をしている。」 

 楓乃子は誇らしげに胸をそらし、得意げな顔をした。 

 「悪口を言われるのにどうして食べるの?」 
 「考えてごらん。我が家の食事は、仕事前に母さんが作り置きしてくれているだろう?そして、母さんは婆さんが私にしていることを何も知らない。私に用意した食事が残っていたり、捨てられたりしていたら、母さんはどう思うだろう。」 
 「母さんを心配させたくないから、お婆ちゃんに悪口言われても食べてるの?」
 「・・・・・ほらね。私は、わがままだろ?」

 楓乃子が微笑む。
 光弘は飛びつくようにして、きつく楓乃子を抱きしめた。 

 「僕・・・・・姉さんが大好きなんだよ。」
 
 楓乃子は光弘の頭を抱き寄せ、心から幸せそうに微笑んだ。

 「・・・・・知ってるよ。」 

 その言葉を最後に、再び景色が溶けて行った。 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...