215 / 324
久遠と海神 1
しおりを挟む
海神に浴場へ案内された久遠は、あまりに日常からかけ離れた情景に、目をむいていた。
脱衣場で濡れた衣を脱ぎ、湯殿への戸を開けると、その先に広がっていたのは、洞窟のような場所だったのだ。
さほど長くはない洞窟の向こうは外界へと繋がり、海原が美しい青を広げている。
岩壁に空いた5か所ある滝口からは、透明な湯が等々と流れ続けていた。
「ここで身体を流すといい。」
呆然としたまま、久遠は海神にならい身体を流すと、こんこんと湧き出している岩風呂の中に身体を沈めた。
暖かな湯に包まれ、ようやく人心地ついた久遠は、海神へと視線を向けた。
黙ったまま少し離れた場所で湯につかっている海神は久遠の視線に気づくと、冷淡な表情を崩さずそっと目を伏せた。
橙の灯りが美しい顔を柔らかく照らし、長いまつ毛が頬に影を落とした。
流れる艶やかな黒髪も、なめらかな肌も・・・・しっとりと湯を含み、しなやかな筋肉の落とす陰影は同じ男である久遠の目から見ても、思わず見とれてしまうほどに美しい。
「すまなかった。」
突然の海神の言葉に、いぶかし気な表情を浮かべた久遠を寂しげな色を纏った瞳で見つめ、海神は再び口を開いた。
「・・・・町の者は明日、必ず弔う。」
「・・・・・海神様。なぜ、あなたが謝るのか、私には思い当たるところがない。あなたは、私の恩人だ。感謝の言葉を尽くしても足りないほどの恩があるのに、謝罪の言葉など受けられようはずもない。」
「・・・・・。」
「感謝しているのです。・・・・・・心から。」
久遠の言葉に、海神は再び目を伏せてしまった。
海神が水妖の頭目となり、千年程の時が流れていた・・・・。
その間に彼が駆け付けた事例の中には、今回ほどの規模ではなくとも、やはり同じように救えなかった命もあった。
そんな時人は、救いを求め願う時と同じように、神としている彼をひたすら呪った。
「なぜ、救ってくれなかったのだ」「なぜ、一緒に逝かせてくれなかったのだ」と・・・・。
理不尽にぶつけられる八つ当たりなど、怒って背を向けてしまえばいいものを・・・・だが、哀しいことにその感情を誰よりも、深い傷として理解しているのは海神本人だったのだ。
彼自身が、自分が兄と慕った師を失った直後、残酷な現実を受け入れられず、同じように嘆いていたことがあったのだから。
海神は、投げつけられる礫も罵詈雑言も、全てを受け入れ、ひたすら独り傷を負っていく・・・・。
美しい顔にほとんど感情をあらわにしない彼が傷ついていることに気づくものは、白妙以外にはいなかった・・・・・。
脱衣場で濡れた衣を脱ぎ、湯殿への戸を開けると、その先に広がっていたのは、洞窟のような場所だったのだ。
さほど長くはない洞窟の向こうは外界へと繋がり、海原が美しい青を広げている。
岩壁に空いた5か所ある滝口からは、透明な湯が等々と流れ続けていた。
「ここで身体を流すといい。」
呆然としたまま、久遠は海神にならい身体を流すと、こんこんと湧き出している岩風呂の中に身体を沈めた。
暖かな湯に包まれ、ようやく人心地ついた久遠は、海神へと視線を向けた。
黙ったまま少し離れた場所で湯につかっている海神は久遠の視線に気づくと、冷淡な表情を崩さずそっと目を伏せた。
橙の灯りが美しい顔を柔らかく照らし、長いまつ毛が頬に影を落とした。
流れる艶やかな黒髪も、なめらかな肌も・・・・しっとりと湯を含み、しなやかな筋肉の落とす陰影は同じ男である久遠の目から見ても、思わず見とれてしまうほどに美しい。
「すまなかった。」
突然の海神の言葉に、いぶかし気な表情を浮かべた久遠を寂しげな色を纏った瞳で見つめ、海神は再び口を開いた。
「・・・・町の者は明日、必ず弔う。」
「・・・・・海神様。なぜ、あなたが謝るのか、私には思い当たるところがない。あなたは、私の恩人だ。感謝の言葉を尽くしても足りないほどの恩があるのに、謝罪の言葉など受けられようはずもない。」
「・・・・・。」
「感謝しているのです。・・・・・・心から。」
久遠の言葉に、海神は再び目を伏せてしまった。
海神が水妖の頭目となり、千年程の時が流れていた・・・・。
その間に彼が駆け付けた事例の中には、今回ほどの規模ではなくとも、やはり同じように救えなかった命もあった。
そんな時人は、救いを求め願う時と同じように、神としている彼をひたすら呪った。
「なぜ、救ってくれなかったのだ」「なぜ、一緒に逝かせてくれなかったのだ」と・・・・。
理不尽にぶつけられる八つ当たりなど、怒って背を向けてしまえばいいものを・・・・だが、哀しいことにその感情を誰よりも、深い傷として理解しているのは海神本人だったのだ。
彼自身が、自分が兄と慕った師を失った直後、残酷な現実を受け入れられず、同じように嘆いていたことがあったのだから。
海神は、投げつけられる礫も罵詈雑言も、全てを受け入れ、ひたすら独り傷を負っていく・・・・。
美しい顔にほとんど感情をあらわにしない彼が傷ついていることに気づくものは、白妙以外にはいなかった・・・・・。
0
あなたにおすすめの小説
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~
namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。
父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。
だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった!
触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。
「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ!
「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ!
借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。
圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。
己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。
さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。
「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」
プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。
最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!
公爵家の伝統だと思っていたら、冷徹公爵様の溺愛でした
星乃和花
恋愛
(毎日21:30更新ー全8話)
家族にも周囲にもあまり顧みられず、
「私のことなんて、誰もそんなに気にしない」
と思って生きてきたリリアナ。
ある事情から、冷徹と噂されるヴァレントワ公爵家で働くことになった彼女は、
当主エドガーの細やかな気づかいに驚かされる。
温かいお茶、手袋、外出時のエスコート。
好みの食事までさりげなく用意されて――
けれど自己評価の低いリリアナは、それらすべてを
「これが公爵家の伝統……!」
「さすが名門のお作法……!」
と盛大に勘違い。
一方の冷徹公爵様は、そんな彼女にだけ少しずつ甘さをこぼし始めて……?
これは、
“この家の作法”だと思っていたら、
どうやら冷徹公爵様の溺愛だったらしい
やさしくて甘い勘違いラブコメです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる