彼呼迷軌(ひよめき)~言霊が紡ぐ最期の願い~

utsuro

文字の大きさ
250 / 324

誘導 4

しおりを挟む
 あおの言葉に、白妙しろたえは無言で返した。

 その場を支配する沈黙が重苦しいものではなく、得体のしれない哀愁に満ちていたから、久遠くおん翡翠ひすいも言葉を発することができないでいる。

 あおは小さなため息をひとつつき、沈黙を破った。

 「…まあいい。」

 諦めたように吐き捨てると、あおはスッと立ち上がった。

 「黒は今、ボクの館で預かっている。しばらくしたら光弘みつひろと共に、人の世にある海神わだつみの神社かどこかに匿い、養生させる予定だ。監禁も監視もするつもりはない。・・・・・・誰が奴の見舞いに来ても、それはボクたちの知るところじゃない。」

 あお海神わだつみに手を差し出すと、彼の手を引いて立ち上がらせる。

 「それじゃ、ボクたちはもう行く。忙しいんだ。・・・あっ、子供たちのことは任せてくれていいよ。面白そうだからね。・・・・・・いいかい。ボクが余計なことを言ったと黒に思われるのは面倒だ。余計なことは、絶対に言うなよ。」

 海神わだつみの肩を抱き、戸を開けたあおは、わずかに振り返ると、一つ言葉を残した。

 「白妙しろたえ。黒は・・・傷を治す気はない。」

 音もなく戸は閉まり、静けさが辺りを包む。
 白妙は、固く目を閉じた。
 何かがおかしいことは、既に彼女にもわかっている。

 だが・・・・・・。

 宵闇よいやみへの想いは、蟲から解放されてからも一切変わることはなかった。
 焼けつくほどの熱と痛みをともなって、白妙しろたえの心は叫ぶように宵闇よいやみを呼び、絶えず求め続けている。

 黒は確かに自分の目の前で宵闇よいやみを斬ったのだ。
 宵闇よいやみを自らの僕として神妖界を滅ぼすための道具にするのだと・・・そのために彼を穢れ堕としたのだと、黒自身が言ったのだ。

 神妖の長を弑し、地界の人間を全て食らい尽くしたというのも嘘だというのか・・・・・・。
 では、あの時地界を埋め尽くしていた青い炎は何だったのだ。
 地界に生きる幾億もの人々は、一体どこへ消えた・・・・・・。

 全てが、偽りだったというのだろうか・・・・・・。

 あの日から二千年もの間、怨んで憎んで・・・黒の妖鬼を滅することを生きる糧とし過ごしてきた。
 それは全て間違っていたというのか・・・・・・。

白妙しろたえは、渦巻く混沌にひたすら心をからめとられていた。
もはや何が正しいのかさえわからない。

 ただひとつ、確かなことは、彼呼迷軌ひよめきが黒の妖鬼をここへ招き入れたということだ。

 白妙しろたえは力なく肩を落とした。

 「白妙しろたえ。何か食べて少し休め。今温かい食べ物を持ってくるから。」

 久遠くおん翡翠ひすいは目くばせすると、白妙しろたえをうながし、強引に布団に横たえさせた。

 あおのおかげで強烈な痛みから解放されたとはいえ、白妙の気はまだ幼子のように弱弱しく儚げだ。

 何かを考え込むように固く目を閉じたままの白妙の手を握り、翡翠ひすいは自分の無力を思い、小さく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

48歳主婦の宅建試験挑戦―そして年下彼がくれた勇気と恋

MisakiNonagase
恋愛
「お母さん」でも「奥さん」でもない、私の名前を呼び止めたのは、26つも年下の彼だった。 「48歳、主婦。私が手に入れたのは、資格(ライセンス)と、甘く切ない自由だった。」 スーパーのパートに明け暮れる平凡な主婦・中西京香、48歳。 目的もなく始めた宅建試験への挑戦が、枯れかけていた彼女の人生を激変させる。 インスタの勉強垢で出会ったのは、娘よりも年下の22歳大学生・幸正。 「不倫なんて、別の世界の出来事だと思っていた――」 そんな保守的で、誰より否定的な考えを持っていたはずの京香が、孤独な受験勉強の中で彼と心を通わせ、気づけば過去問演習よりも重い「境界線」を越えていく。 資格取得、秘めた大人の恋。そして再スタート、 50歳を迎えた彼女が見つけた、自分だけの「地平線」とは。 不動産、法学、そして予期せぬ情熱が交錯する、48歳からの再生と自立の物語。

公爵家の伝統だと思っていたら、冷徹公爵様の溺愛でした

星乃和花
恋愛
(毎日21:30更新ー全8話) 家族にも周囲にもあまり顧みられず、 「私のことなんて、誰もそんなに気にしない」 と思って生きてきたリリアナ。 ある事情から、冷徹と噂されるヴァレントワ公爵家で働くことになった彼女は、 当主エドガーの細やかな気づかいに驚かされる。 温かいお茶、手袋、外出時のエスコート。 好みの食事までさりげなく用意されて―― けれど自己評価の低いリリアナは、それらすべてを 「これが公爵家の伝統……!」 「さすが名門のお作法……!」 と盛大に勘違い。 一方の冷徹公爵様は、そんな彼女にだけ少しずつ甘さをこぼし始めて……? これは、 “この家の作法”だと思っていたら、 どうやら冷徹公爵様の溺愛だったらしい やさしくて甘い勘違いラブコメです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...