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6話、デザートフィッシュ(4)

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 やっとの思いで多くの鱗を半身分剥がしたリリは、身を切ろうとするがあることに気づいた。

「一つ一つの筋繊維のに隙間が空いてる……空気孔? これもエラ?」

(んー、とりあえずは頭を落とすしかないかなぁ)

「内臓、は……流石にやめとこっ、未知のモンスター、内臓なんて怖すぎる!」

 ガリッ! っという音と共に刃の勢いが直ぐに止まる。

(あっ! 骨!)

「これは……無理だ、関節にすら刃が通らない」

 手順は一旦諦めて、色々なところに飛び回っては、手を変え品を変え刃を通そうとする。
 しかし、デザートフィッシュの骨は太く、数も多いので難航していた。

「内臓も骨も捨ーてよっと」
「つーかーれーたー、もう動きたくない!」

 なんとかして少量の切り身を取り出せたが、決して綺麗にできたというわけではない。

(はぁ、これで終わりじゃないのよねぇ、味見もしなきゃ)

 リリはフラフラと飛び、デザートフィッシュの骨に腰かけると、切り取れた切り身を摘まみ上げ観察する。

「思ったよりもぷにぷにしてるのね」

(異世界で始めての食べ物がモンスターかぁ……)

 革鎧は食べ物のカウントには入れていないリリ、少し不安を感じながらも口に運ぶことにした。

「んん! モグ、モグ」

(スカスカなのにジャリジャリじゃない!)

(うぇー! っぺ、っぺ」

 味はほとんど無味、食感は最悪だった。
 砂が中まで入っているのかジャリジャリとした気持ちの悪い歯ざわり、えも言えぬスカスカとした食感、食べたリリは身震いをしてしまう。

「ハァハァ……」

(前向きに捉えれば高野豆腐……無理があるか)

 改めて結論! デザートフィッシュというモンスターは

「ツチノコでしたー!」 

(パチパチパチパチ! 異世界版のツチノコね)

 実際のツチノコなんて見たことない、もちろん食べたことなどあるわけがない。
 しかし考えれば考えるほどに、ツチノコに思える。
 大きな口、三角形の頭、蛇と鮫を足して割ったような鱗、砂を猛スピードで泳ぐ、これだけ揃えばツチノコで良いだろう。

「っま、それは置いといて……」

(とりあえず料理方法と保存方法に、一応のメドはついたかなぁ?)

 捌いている間、食べているとき、今の今までどうしようかとリリは考えていた。
 そして一つの結論になんとか辿り着いたのであった。

「うんうん、これならいけそうかな」

 独り言をつぶやくリリに後ろから声がかかる。

「なにがいけそうなの?」
「ラーナ! 元気になったの?」
「ん? もともと落ち込んではいないよ?」
「じゃあなんであんな顔してたの?」
「それはナイショ!」

 ラーナはニコッと笑って答えた。

「えー、教えてよー」
「ダメ! ぜーったいに言わない!」
「んーわかった! 今は聞かないけど、いつか教えてね」
「覚えてたらね! それで、何がいけそうなの?」
「あぁ、それはデザートフィッシュを保存食にするのよ!」

 リリは導き出した結論を胸を張って答えた。

「今回はデザートフィッシュを食べるの? 不味いのに大丈夫?」
「っえ? 普段は食べないの?」
「ボクは不味いって聞いたから、食べたことがないかなぁ」
「マジか? じゃあなんで狩りでデザートフィッシュを選んだの?」
「たまたま出てきたから?」

 首を傾げて答えるラーナ、本当に分かっていなさそうな態度に、リリはビックリする。

(流石は鬼族、戦いのためだけにやったのね)

「なるほど、わたしには分からないわ!」
「戦うのは楽しいからね、今までは水がないから諦めてたけど……」
「そっか、死にかけてたんだもんねー!」

 今度はリリがラーナにニヤリと笑いかけた。
 しかしラーナはこの言葉にも、あっさりと答えた。

「確かに、リリが居なかったら、死んじゃってたかもねっ」
「明るく言う事じゃないでしょ!」

 声を張り上げたリリに対して、ラーナはニヤリと笑いながら答える。

「悲しく言う事でもないでしょ?」
「それもそーだけどさー」
「それで、リリはボクみたいな『怖い鬼』と一緒にいて大丈夫?」

 恐らくはこれがラーナの本音。
 今回、ずっと聞きたかったことであろう。
 明るく聞いてはいるが、瞳孔まで見開き、リリを真っすぐ見据えている、真剣そのものだ。

「んー確かに戦ってる姿は怖かったわね、アハハ……けどもう怖くないわよ?」
「本当に?」
「さっきも言ったように、得意なことは違うんだし、結果が違うだけよ」
「そっかぁー」
「そうよ! だから気にしなくていいわ」

(ちょっと苦笑いしちゃったけど気持ちは伝わったかな? ラーナの不安も多少は解消されたみたいでよかったわ)

 リリにはラーナの気持ちを推し量ることなど、出来ようもない。
 それならこれからの言動で証明していけばいい。
 いずれはラーナの凍りついた感情が、どうにかなるのでは無いかと信じて。

「気を取り直して、料理を作りましょ、食べ物は大切に! よ!」

(ラーナが手伝ってくれるのならですけど……ね!)

 リリは解体をしてみて、自分が料理が出来ないことを確信していた。

「ラーナ、デザートフィッシュを料理するの、手伝ってもらえる?」
「不味いし、手間かけなくてもよくない?」

 小首を傾げてラーナが聞くと、リリは答える。

「いくら美味しくないっていっても、革鎧よりはマシでしょー」
「リリにはね!」
「ラーナは革鎧が気に入ってたものね」
「うん、美味しかったねぇ」

 ポトフを思い出し、うっとりとした表情で語るラーナ。
 リリは照れながらもこの表情は本物だと感じた。

(食べることには素直なのね!)

「まぁ、やれるだけやってみましょ!」
「わかった、それでボクは、何をすればいいの?」

 ラーナが了承してくれたことに、リリはホッと肩をなでおろした。

「最初は、形がキレイに残ってる物と、そうじゃないものを分けてくれる?」
「りょうかーい」
「ラーナ、手を出して」
「っん? こう?」

 リリに言われ、手のひらを上に向けラーナが右手を前に出す。
 パンッと手のひらを思いっきり叩いたリリは、そのまま右手を上げて掛け声を上げた。

「さぁ、頑張ろっ! イェーイ!」
「イ、イェーイ……」

 リリが半ば強制的なハイタッチ。
 二人は問題だらけのデザートフィッシュの料理を始めた。

「ほとんど粉々ね……」

そう呟くリリに対して、ラーナは肩をすぼめて、ごめんと呟いた

「まぁまぁ、気にしないでいいわ」
「本当に?」
「味に支障は無いから大丈夫よ、後はラーナの頑張り次第ね」
「わかった、ボク頑張るね!」
「ありがとう、ラーナ」
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