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8話、クエスト受注(2)

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  門の入り口で、恐らく犬人族であろう衛兵に質問をされた。

「観光か? 商売か? 通行か?」

(本物の獣人さんじゃん! ゴールデンレトリーバーみたいー、大きいしモッフモフ!)


 リリは心の中で勝手にこの衛兵をゴールデンさんと呼ぶことにした。
 ラーナの1.5倍ぐらいはあるであろう体躯、整えられたモフモフ。
 触りたい気持ちをぐっと抑え、リリは慣れた旅人を装い、なるべく元気に話しだした。

「観光です! 前の街でいろいろなものがあると聞いていたので、楽しみにしていたんですよー」
「旅人ねぇ……」
「ちょうど保存食も少なくなってきたので、まずは商店を周ろうと思っています」
「何日滞在するんだ? なるべく早く出ていけよ?」

(なんか、態度悪くない?)

「早ければ、今日、明日にでも出ますよ。わたしたちあまりお金を持っていないものですから。長期の滞在は難しいかもしれないんですよねー」
「そうか、それは良かった」

 チラリとリリから視線を外した衛兵は、ラーナを見つめ質問をする。

「それで、お前の連れはこんなに暑いなかで、なんでフードを被ってるんだ?」

(知っていて聞いているわね? フードを取るわけには行かないし誤魔化しますけどー)

「無口で人見知りな子なので、こういう人が多いところでは喋りかけられないように、目線が合わないフードを被っているんです、すみませんね」

 二人は予め話し合い、ラーナの素性は隠していくことにしていた。

(ラーナもわたしもここは我慢よ、ここで揉めたら街に入れない)

「そうか、ならフードは取るなよ」
「はーい!」

 リリは手を上げ、大きな声で明るく返事をした。
 
「ここは多種族が入り交じる街だからな、旅人には街のいざこざに巻き込まれないようにするため、あとはお前達みたいなのが問題を起こしたら分かるように、これを渡している」

 衛兵は冷たい目で二人を見ながらも、緑色のアミュレットを2枚ラーナに投げ捨てるように渡した。

「だからお前達が問題を起こしても分かるからな?、外に出るときは必ず返していけよ? くれぐれも問題は起こすなよ!」

(この人、問題を起こすって三回も言ったわ! ゴールデンさん、いやっもうこんなやつは犬野郎で十分!)

 言われている当のラーナを他所に、リリの方が先にキレそうだ。
 しかしここでリリが怒ってしまっては元も子もない、だからこそ必死に笑顔を作る。

(落ち着けわたし、ここは冷静に)

「因みに、食料やピクシーの服の買える商店はどこにあるか教えてもらってもいいですか?」
「この先のサウエム広場を右に向かった道の先に続くテント街だ。お前等に売ってくれるとは思えんがな」

(あーもう、一言余計だわ! まぁ、衛兵だからなのか、人の目があるからなのか、態度の割には問答無用で無視しては来ないわね……それなら)

 リリは衛兵の態度から情報を集める好機と見込み、手を上げてこれでもかと明るく聞く。

「もう一つ質問させてください! この街でお金を稼ぐにはどうしたらいいんですか?」
「お前等が稼ぐのか? 無理だ、諦めろ!」
「そこをなんとかお願いしますよー、可愛い妖精のお願いじゃあないですかー」
「ッチ! 無駄だろうが、この街でお金を稼ぐなら広場を左に向かった先、冒険者ギルドかオアシス商業組合に聞いてみろ、あとは知らん」

(こいつー、舌打ちしやがった!)

「ご親切にありがとう御座います!」
「そろそろいいだろ? さっさと行け! そしてすぐこの街から出ていけ!」
「どうもー」

 リリは丁寧にお辞儀をし、ラーナは軽く会釈をすると二人は門を後にした。

(ふぅ、イライラしたー、犬野郎が最低限の仕事だけでもしてくれて良かった)

 ラーナは目立っては喋られない、この先リリは住人との対応を一人でどうにかしないといけない。

(まずはどこに行こっかなぁ? ラーナに相談しよ)

 リリはフードに潜り込むとラーナに耳打ちする。

「どうする? お金無いし、真っ先に冒険者ギルド寄る?」
「さっきので分かったと思うけど確実に観光どころじゃなくなるよ?」
「まぁ、そこは覚悟をしているわ」
「わかった、じゃあ二択かな?」
「どんな選択?」
「上手くいけば何ともなく稼げるけど、最悪の場合は牢獄に入る一個目、絶対に大騒ぎになるけど、条件は悪くてもクエストは受けられるであろう二個目」

(やべぇ二択!!)

「な、なるほど……ラーナは寄っておきたい所ある?」
「ママの日記には書いてなかったし、特にないかな?」
「じゃあ、二個目で!」

 お金がないのは困る、リリの衣服や食器や器具は後回しにするとしても、最低限の味付け用の調味料や香辛料だけでもこの街で揃えたい。
 それに、リリは万が一にでも牢獄に入るのはイヤだった。

「じゃあギルドに着いたら、ボクを止めないでねっ」
「なにかするの?」
「んーん、フードを取って名前を書くだけ!」
「……わかったわ」

(犬野郎の態度からしても、確かに騒ぎにはなるでしょうね)

 リリはラーナを守る決意を固めて街の門をくぐった。
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