32 / 37
32話 悪党さん登場
しおりを挟む「ありがとうね、お嬢ちゃん」
看病したおばあちゃんやおじいちゃんから笑顔でお礼を言われると、前世でお世話になった看護師さんみたいになれた気がして、胸が熱くなった。
「早く元気になってね」
小さな町に一つしかないプライドル診療所は、全員が顔見知りのように仲が良くて、初対面の私にも気さくに声をかけてくれて、とても良い雰囲気。ここは良い場所だね。プライドル診療所が、デレラの町でとても大切な場所になっているのを、ひしひしと感じる。
そんな大切な診療所を、ファルファナは潰そうとしたんだね。
大丈夫、今の私は、そんなこと考えてない。考えてないって何回も言ってるのに――
「いい加減にしてよ、ファルファナ! さっさとこんな汚い孤児院潰してよね! 一刻も早く! 急いで!」
――プライドル診療所に来ては、何回も入り口付近で待ち伏せしているアイネットに絡まれて悪事を勧められる。お父様といいお母様といい、皆、どれだけ私に悪妻になって欲しいのよ! しつこいなぁ。
「だから何回も言ってるけど、私は悪いことする気ないんだってば。もっと言うなら、プライドル診療所を潰す気は欠片もないよ」
「だから駄目だって言ってるでしょ! 我儘ばっかり! 何なの、何様のつもり!?」
「ファルファナ様! かな」
「ただの断罪される運命の悪妻のクセに!」
もうこのやり取り、何回目だろ。本当にしつこいんだよなぁ……早く診療所に入りたいのに、入り口を通せんぼしちゃうから入れないし。
「旦那様がアイネットを好きになれば離婚するって言ったよね? それじゃ駄目なの?」
「駄目に決まってるでしょ! 恋は障害があってこそ燃えるものなの! 私とスエイル様の愛には、悪妻は必要悪なの!」
「そうなんだね」
やり取りの間には、旦那様と離婚して、平民として穏やかに生きるつもりであることも話した。だけどアイネットは納得しなかった。小説通りの展開が最高で幸せだと、一歩も譲らない。私もアイネットのために妥協するつもりはないから互いに譲らず、ずっと平行線のまま。
「大体、スエイル様と『離婚する』って、何様なの? スエイル様が、私と結婚したいためにファルファナを捨てるのよ!」
「そうなんだね」
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの!?」
「あんまり聞いてないかな。だって同じ話ばっかりなんだもん。もう飽きちゃったよ」
「最っ低! そんなんだから、皆に嫌われるのよ!」
「そうなんだね」
「ムカつく!」
ムカつくなら、もう来なきゃいいのに。
ただでさえ診療所は忙しいから、早くお手伝いに行きたいのになぁ。唯一の救いは、診療所の中に入ってしまえば、アイネットが追って来ないこと。
「前から聞こうと思ってたけど、どうしてアイネットは診療所には入って来ないの?」
迷惑この上ないけど、診療所に入って来たら、入り口付近で私を待ち伏せなんてしなくて済むのに。
「あんな病原菌塗れなババアとジジイがいる場所に行くとか、嫌に決まってるでしょ! 汚れちゃうじゃない!」
「……そうなんだね」
聞かなきゃ良かった。が、感想。アイネットはいつも、患者さんが出て来たら逃げるように帰ってたけど、そういうことね! 人それぞれ感性は違うし仕方ないとは思うけど、やっぱりアイネットとは根本的に合わないみたい。
「――お嬢ちゃん? 騒がしい声が聞こえるけど、何かあったのかい?」
「げっ! もーまた邪魔しに来た! 今日のところはこれで帰るけど、ちゃんと物語通りに進めときなさいよ! じゃないと許さないから!」
診療所から、異変に気付いて出て来た患者のおばあちゃんに気付き、慌てて逃げるアイネット。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「私は大丈夫。おばあちゃん、外に出て来て大丈夫? 体の調子は?」
「もう大分調子は良いから大丈夫じゃよ。それよりも、最近よく来るあの子は何者だい? 診療所に用があるわけでもなさそうじゃし、お嬢ちゃんにちょっかいをかけに来ているようじゃけど……」
「気にしないで」
「本当に大丈夫なのかい? 何か、酷いことを言われたりしてないかい?」
酷いことは、言われてる。私は何と言われても気にしないけど、診療所や患者さんのことを言われるのは、許せない。
「心配してくれてありがとう! でも本当に大丈夫だよ」
よそ者の私にも優しくしてくれる心優しいプライドル診療所の皆。
私はもう、小説通りの悪妻ファルファナじゃない。アイネットが邪魔しようと悪党さん達が来ようと、プライドル診療所は、私が守ってみせるね!
◇
小説でファルファナがプライドル診療所に目を付けたのは、診療所を潰し、エルライン公爵家が援助しているお金を手に入れようと画策したからだ。ファルファナと一緒に悪事を働いた悪党がどうしてプライドル診療所を狙ったかは、小説に描かれていなかったから私には分からない。ただ、悪い人達であることは、ハッキリしてる。
「この土地はエルライン公爵様からの命令で、立ち退きが決まった! 即刻、診療所を畳んでここから出て行け! 因みに、これはエルライン公爵夫人であるファルファラ様から直に頂いたお話だ! 逆らうなよ!」
……うん、嘘ばっかりだよね。
1,472
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢、魔法使いになる
Na20
恋愛
前世で病弱だった私は死んだ。
私は死ぬ間際に願った。
もしも生まれ変われるのなら、健康で丈夫な身体がほしいと。それに魔法が使えたらいいのにと。
そしてその願いは叶えられた。
小説に登場する悪役令嬢として。
本来婚約者になる王子などこれっぽっちも興味はない。せっかく手に入れた二度目の人生。私は好きなように生きるのだ。
私、魔法使いになります!
※ご都合主義、設定ゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~
Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。
婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。
そんな日々でも唯一の希望があった。
「必ず迎えに行く!」
大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。
私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。
そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて…
※設定はゆるいです
※小説家になろう様にも掲載しています
誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?
miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」
2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。
そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね?
最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが
なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが
彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に
投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。
お読みいただければ幸いです。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
うるさい!お前は俺の言う事を聞いてればいいんだよ!と言われましたが
仏白目
恋愛
私達、幼馴染ってだけの関係よね?
私アマーリア.シンクレアには、ケント.モダール伯爵令息という幼馴染がいる
小さな頃から一緒に遊んだり 一緒にいた時間は長いけど あなたにそんな態度を取られるのは変だと思うの・・・
*作者ご都合主義の世界観でのフィクションです
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
婚姻無効になったので新しい人生始めます
Na20
恋愛
旧題:婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
2025年10月24日(金)
レジーナブックス様より発売決定!
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる