前向き悪妻公爵夫人の、円満離婚奮闘記

光子

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32話 悪党さん登場

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「ありがとうね、お嬢ちゃん」

 看病したおばあちゃんやおじいちゃんから笑顔でお礼を言われると、前世でお世話になった看護師さんみたいになれた気がして、胸が熱くなった。

「早く元気になってね」

 小さな町に一つしかないプライドル診療所は、全員が顔見知りのように仲が良くて、初対面の私にも気さくに声をかけてくれて、とても良い雰囲気。ここは良い場所だね。プライドル診療所が、デレラの町でとても大切な場所になっているのを、ひしひしと感じる。
 そんな大切な診療所を、ファルファナは潰そうとしたんだね。

 大丈夫、今の私は、そんなこと考えてない。考えてないって何回も言ってるのに――

「いい加減にしてよ、ファルファナ! さっさとこんな汚い孤児院潰してよね! 一刻も早く! 急いで!」

 ――プライドル診療所に来ては、何回も入り口付近で待ち伏せしているアイネットに絡まれて悪事を勧められる。お父様といいお母様といい、皆、どれだけ私に悪妻になって欲しいのよ! しつこいなぁ。

「だから何回も言ってるけど、私は悪いことする気ないんだってば。もっと言うなら、プライドル診療所を潰す気は欠片もないよ」

「だから駄目だって言ってるでしょ! 我儘ばっかり! 何なの、何様のつもり!?」

「ファルファナ様! かな」

「ただの断罪される運命の悪妻のクセに!」

 もうこのやり取り、何回目だろ。本当にしつこいんだよなぁ……早く診療所に入りたいのに、入り口を通せんぼしちゃうから入れないし。

「旦那様がアイネットを好きになれば離婚するって言ったよね? それじゃ駄目なの?」

「駄目に決まってるでしょ! 恋は障害があってこそ燃えるものなの! 私とスエイル様の愛には、悪妻は必要悪なの!」

「そうなんだね」

 やり取りの間には、旦那様と離婚して、平民として穏やかに生きるつもりであることも話した。だけどアイネットは納得しなかった。小説通りの展開が最高で幸せだと、一歩も譲らない。私もアイネットのために妥協するつもりはないから互いに譲らず、ずっと平行線のまま。

「大体、スエイル様と『離婚する』って、何様なの? スエイル様が、私と結婚したいためにファルファナを捨てるのよ!」

「そうなんだね」

「ちょっと、ちゃんと聞いてるの!?」

「あんまり聞いてないかな。だって同じ話ばっかりなんだもん。もう飽きちゃったよ」

「最っ低! そんなんだから、皆に嫌われるのよ!」

「そうなんだね」

「ムカつく!」

 ムカつくなら、もう来なきゃいいのに。
 ただでさえ診療所は忙しいから、早くお手伝いに行きたいのになぁ。唯一の救いは、診療所の中に入ってしまえば、アイネットが追って来ないこと。

「前から聞こうと思ってたけど、どうしてアイネットは診療所には入って来ないの?」

 迷惑この上ないけど、診療所に入って来たら、入り口付近で私を待ち伏せなんてしなくて済むのに。

「あんな病原菌塗れなババアとジジイがいる場所に行くとか、嫌に決まってるでしょ! 汚れちゃうじゃない!」

「……そうなんだね」

 聞かなきゃ良かった。が、感想。アイネットはいつも、患者さんが出て来たら逃げるように帰ってたけど、そういうことね! 人それぞれ感性は違うし仕方ないとは思うけど、やっぱりアイネットとは根本的に合わないみたい。

「――お嬢ちゃん? 騒がしい声が聞こえるけど、何かあったのかい?」

「げっ! もーまた邪魔しに来た! 今日のところはこれで帰るけど、ちゃんと物語通りに進めときなさいよ! じゃないと許さないから!」

 診療所から、異変に気付いて出て来た患者のおばあちゃんに気付き、慌てて逃げるアイネット。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「私は大丈夫。おばあちゃん、外に出て来て大丈夫? 体の調子は?」

「もう大分調子は良いから大丈夫じゃよ。それよりも、最近よく来るあの子は何者だい? 診療所に用があるわけでもなさそうじゃし、お嬢ちゃんにちょっかいをかけに来ているようじゃけど……」

「気にしないで」

「本当に大丈夫なのかい? 何か、酷いことを言われたりしてないかい?」

 酷いことは、言われてる。私は何と言われても気にしないけど、診療所や患者さんのことを言われるのは、許せない。

「心配してくれてありがとう! でも本当に大丈夫だよ」

 よそ者の私にも優しくしてくれる心優しいプライドル診療所の皆。
 私はもう、小説通りの悪妻ファルファナじゃない。アイネットが邪魔しようと悪党さん達が来ようと、プライドル診療所は、私が守ってみせるね!

 ◇

 小説でファルファナがプライドル診療所に目を付けたのは、診療所を潰し、エルライン公爵家が援助しているお金を手に入れようと画策したからだ。ファルファナと一緒に悪事を働いた悪党がどうしてプライドル診療所を狙ったかは、小説に描かれていなかったから私には分からない。ただ、悪い人達であることは、ハッキリしてる。

「この土地はエルライン公爵様からの命令で、立ち退きが決まった! 即刻、診療所を畳んでここから出て行け! 因みに、これはエルライン公爵夫人であるファルファラ様から直に頂いたお話だ! 逆らうなよ!」

 ……うん、嘘ばっかりだよね。

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