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3話 空に願いを呟いた
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「……これから先、どうしよう……」
ミルドレッド侯爵邸とコンスタンス男爵邸の通り道、貧乏な我が家は馬車もなければ運転手を雇うお金も無いので、片道一時間半かかる道のりを徒歩で通勤している。
泣いたら少しスッキリして、現実が見えてきた。
マックスのことはショックだったけど、それよりもまず、働き口が無くなったのが困る。家には病弱な義弟がいて、私が稼ぐお金は、義弟の医療費にあてていた。
職場環境は最悪だったけど、お給金は良かったのに……だから辞めずに頑張って来たのに……。
うちの家が貧乏なのは、領地が不作続きなのが一番大きい。
義父は領民の為に税を極限まで引き下げているし、援助もしているから、その分、うちは貧乏になるけど、私は領民を第一に考えている義父を尊敬しているし、文句は無い。助けになりたいと思うし、病弱な義弟の医療費のためにも、お金はいる。
お金さえあれば、義弟だって、もっと良いお薬が飲めて、良い治療が受けられて、病気が治るかもしれない。
「仕事……見つかるかな」
貧乏男爵令嬢が何のコネもなく働ける場所……しかもアシュリーお嬢様のことだから、私を悪く言い広めている気がする……そうなったら、また侍女として働くのは難しいかも……市街で喫茶店とかで働く?でも、そこまでお給金良くないよね……
家に帰るまでの足取りが重い。いつもより早く家に着くから、家族からは、どうしたの?と尋ねられるだろう。ちゃんと、仕事がクビになったって言わなきゃ……
「……マックスのことも伝えなきゃね……ヴィクター男爵家とは、家族ぐるみで仲が良かったし……」
私の淡い恋心に気付いていたお義母様とお義父様は、私とマックスの仲を応援してくれていた。
きっと優しい私の家族は、私が仕事を辞めたことよりも、私とマックスに仲違いに胸を痛めるだろう。
「……私って、男を見る目が無かったのね……」
マックスは貧乏だった私を見下すことも無く、いつも優しく話かけてくれて、笑顔を向けられるたびにドキドキして……騎士を目指し頑張っているのを、ずっと応援していた。
幼馴染という、私だけの特別な関係が嬉しかった。この想いが報われなくても、ずっと今まで通り仲良く出来たら、それで良い……そう、思っていたのに、マックスは私の家を貧乏だと罵り、虐めをするような人間だと言い捨て、私との関係をいとも簡単に断ち切った。
「……私のこと……本当は、仲が良い幼馴染みとも……思ってなかったのかな……」
今まで一緒に過ごしてきた時間は何だったんだろう。長い時間一緒に過ごした幼馴染より、甘い関係に落ちたアシュリーお嬢様を信じた。
私とは違う、お金持ちの侯爵家のお嬢様。
上質で綺麗な服、汚れ一つない靴、新品な靴下、毎食出る豪華な食事――ミルドレッド侯爵の一人娘であるアシュリーお嬢様の後ろ盾さえあれば、王宮騎士団での出世もしやすくなる。比べれば、私とは何もかもが違う。そうよね、誰だって、私よりもアシュリーお嬢様を選ぶよね。
自分の生い立ちを嘆いたことは無い。
母親が亡くなり、途方に暮れていた私を引き取ってくれた義父に義母、心優しい義弟。
ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下、一日一食しか出ない食事……だけど、笑顔の絶えない家族が傍にいて、貧乏でも、私はとても幸せ。
――でも、今日初めて、自分が酷く惨めに思えた。
どれだけ理不尽なことをされても、八つ当たりされても、好きな人を奪われても……私は、あのままクビにならなければ、あそこで働き続けていた。例え、マックスがあのままアシュリーお嬢様と婚約をしても、私のことを、軽蔑な眼差しで見続けても――
お金がないと、生活が出来ないから。お金がないと――病弱な義弟を助けることが出来ないから。
貧乏でも、不幸だと思ったことなんて無い。
本当の両親を失い、孤独になった私を引き取ってくれた優しい義両親や義弟に囲まれて、私は幸せ。だけど――ほんの少しだけ、悔しいと――思ってしまった。
あの人達を見返したい……誰か、助けて欲しい。そう、思ってしまった。
「誰か……私を、私の家族を……助けてよ……」
助けを求めても誰も手を差し伸べてくれるはずが無いのに、私は青く澄んだ空を見上げながら、そう呟いた。
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