貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリー

光子

文字の大きさ
3 / 26

3話 空に願いを呟いた

しおりを挟む
 

 ***


「……これから先、どうしよう……」

 ミルドレッド侯爵邸とコンスタンス男爵邸の通り道、貧乏な我が家は馬車もなければ運転手を雇うお金も無いので、片道一時間半かかる道のりを徒歩で通勤している。

 泣いたら少しスッキリして、現実が見えてきた。
 マックスのことはショックだったけど、それよりもまず、働き口が無くなったのが困る。家には病弱な義弟がいて、私が稼ぐお金は、義弟の医療費にあてていた。

 職場環境は最悪だったけど、お給金は良かったのに……だから辞めずに頑張って来たのに……。

 うちの家が貧乏なのは、領地が不作続きなのが一番大きい。
 義父は領民の為に税を極限まで引き下げているし、援助もしているから、その分、うちは貧乏になるけど、私は領民を第一に考えている義父を尊敬しているし、文句は無い。助けになりたいと思うし、病弱な義弟の医療費のためにも、お金はいる。
 お金さえあれば、義弟だって、もっと良いお薬が飲めて、良い治療が受けられて、病気が治るかもしれない。

「仕事……見つかるかな」

 貧乏男爵令嬢が何のコネもなく働ける場所……しかもアシュリーお嬢様のことだから、私を悪く言い広めている気がする……そうなったら、また侍女として働くのは難しいかも……市街で喫茶店とかで働く?でも、そこまでお給金良くないよね……

 家に帰るまでの足取りが重い。いつもより早く家に着くから、家族からは、どうしたの?と尋ねられるだろう。ちゃんと、仕事がクビになったって言わなきゃ……

「……マックスのことも伝えなきゃね……ヴィクター男爵家とは、家族ぐるみで仲が良かったし……」

 私の淡い恋心に気付いていたお義母様とお義父様は、私とマックスの仲を応援してくれていた。
 きっと優しい私の家族は、私が仕事を辞めたことよりも、私とマックスに仲違いに胸を痛めるだろう。

「……私って、男を見る目が無かったのね……」

 マックスは貧乏だった私を見下すことも無く、いつも優しく話かけてくれて、笑顔を向けられるたびにドキドキして……騎士を目指し頑張っているのを、ずっと応援していた。
 幼馴染という、私だけの特別な関係が嬉しかった。この想いが報われなくても、ずっと今まで通り仲良く出来たら、それで良い……そう、思っていたのに、マックスは私の家を貧乏だと罵り、虐めをするような人間だと言い捨て、私との関係をいとも簡単に断ち切った。

「……私のこと……本当は、仲が良い幼馴染みとも……思ってなかったのかな……」

 今まで一緒に過ごしてきた時間は何だったんだろう。長い時間一緒に過ごした幼馴染より、甘い関係に落ちたアシュリーお嬢様を信じた。
 私とは違う、お金持ちの侯爵家のお嬢様。
 上質で綺麗な服、汚れ一つない靴、新品な靴下、毎食出る豪華な食事――ミルドレッド侯爵の一人娘であるアシュリーお嬢様の後ろ盾さえあれば、王宮騎士団での出世もしやすくなる。比べれば、私とは何もかもが違う。そうよね、誰だって、私よりもアシュリーお嬢様を選ぶよね。

 自分の生い立ちを嘆いたことは無い。
 母親が亡くなり、途方に暮れていた私を引き取ってくれた義父に義母、心優しい義弟。
 ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下、一日一食しか出ない食事……だけど、笑顔の絶えない家族が傍にいて、貧乏でも、私はとても幸せ。


 ――でも、今日初めて、自分が酷く惨めに思えた。

 どれだけ理不尽なことをされても、八つ当たりされても、好きな人を奪われても……私は、あのままクビにならなければ、あそこで働き続けていた。例え、マックスがあのままアシュリーお嬢様と婚約をしても、私のことを、軽蔑な眼差しで見続けても――

 お金がないと、生活が出来ないから。お金がないと――病弱な義弟を助けることが出来ないから。

 貧乏でも、不幸だと思ったことなんて無い。
 本当の両親を失い、孤独になった私を引き取ってくれた優しい義両親や義弟に囲まれて、私は幸せ。だけど――ほんの少しだけ、悔しいと――思ってしまった。

 あの人達を見返したい……誰か、助けて欲しい。そう、思ってしまった。


「誰か……私を、私の家族を……助けてよ……」


 助けを求めても誰も手を差し伸べてくれるはずが無いのに、私は青く澄んだ空を見上げながら、そう呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...