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17話 私の婚約者②
しおりを挟む衝撃の発言を聞かされた私は、思考停止状態から何とか仕事途中だということを思い出し、仕事に戻ろうとしたが、フィン殿下に止められた。
『今、その状態で仕事したら、絶対に何か失敗して、やらかすと思うよ』
フィン殿下のおっしゃる通り、表面上、落ち着いているように振る舞ってはいたが、内心はパニック状態だった。
――私が、フィン殿下の婚約者?ついこの間まで貧乏男爵令嬢だった私が、この国の第二王子の婚約者?王位継承権をお持ちの、次期国王有力候補の婚約者?全貴族令嬢憧れの人の婚約者?それは……私には不相応過ぎると思うのですが……!いえ、王家からの婚約なんて、一令嬢が断れないですけど……!でも待って、いきなり過ぎて……!――
考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。
そんな私の状態を的確に察知したフィン殿下は、私の仕事を他のメイドに割り振り、午後から休暇を与えて下さった。
そしてそのまま、フィン殿下に促されるまま連れて来られた先は..……まさかの、陛下の執務室だった。
「レイフ、まだキアナ嬢に話してなかったのか?」
「……話そうとは思っていたが……」
「駄目ですよエメラルド公爵、大切な事はちゃんと伝えておかないと」
「……」
――陛下、エメラルド公爵様、フィン殿下と同じ空間にいる自分の場違い感が凄くて、いたたまれない……!
「……キアナ、驚かせてしまってすまない……」
「あ……いえ、確かに驚きはしましたけど……大丈夫ですよ」
エメラルド公爵様があまりにも申し訳なさそうに謝るので、私はあまりお気になさらないようにと、笑顔で応えた。
「……キアナの婚約者を急いで決めたのは、キアナが私の娘だと知られれば、不届きな輩共が、キアナの婚約者の座を狙い、余計な真似をすると思ったからだ」
「私の……婚約者……」
名門貴族エメラルド公爵様の唯一の愛娘。
エメラルド公爵家の力を得る為にも、喉から手が出るほど欲しい逸材。
「フィン殿下は……私が認めた男でもある。キアナのためと思って婚約の話を受けたのだが……キアナの意見も聞かずに勝手に決めてしまったことを後悔している」
「エメラルド公爵様……」
「キアナが嫌ならば、今すぐに婚約破棄を叩き付ける」
「……エメラルド公爵様?えっと、何を仰って……」
「フィン殿下が気に入らないのならば、仕方がない。私の娘の意見が最優先だ」
――王族相手にですか?
すぐ近くにその王族である陛下とフィン殿下がいるのに、婚約破棄を叩き付けるとか言ってもいいんですか!?幸い、お二人は笑顔でこちらの様子をご覧になっておられますけど……
「アッハッハッ!そこは出来れば婚約解消あたりで穏便に済ませて欲しいが……どうかなキアナ嬢?うちの息子は君のお眼鏡にかなっているかな?」
「……私がフィン殿下の婚約者でよろしいのでしょうか?私は特別、秀でた人間ではないのですが……」
学生時代はそこそこの成績を残していたが、それもそこまで。あとは、家のために必死に働いていて、いまだに社交界デビューすら果たしていないような私が、フィン殿下の婚約者だなんて……恐れ多すぎて吐き気と目眩がします……!
「気にする必要は無い、キアナ嬢が王宮で働いて二週間、少しだが君の人となりを見て、問題無いと判断した。キアナ嬢との婚約はこちらから申し出た事だ。勿論、王家だからと婚約を強要する気は無い。あとは、キアナ嬢の判断次第だ」
「……元より、私が選べる立場ではありません……陛下、フィン殿下が私を選んで下さるのなら、謹んでお受け致します」
貴族令嬢として産まれたからには、政略結婚は珍しくない。エメラルド公爵令嬢になるからには……覚悟を決めなくてはならないこと。
「うんうん、真面目だなぁー。いやぁ、良かったよ、レイフの愛娘が良い子で」
「当然だ。私とエレインの子だぞ」
「うんうん、お前も充分、親馬鹿だなー……本当、キアナ嬢がミルドレッド侯爵令嬢のような馬鹿娘じゃなくて良かった」
「!」
陛下の中でも、アシュリーお嬢様の評価はとても低いのですね……あれだけ失態ばかり犯していれば当然か……。
「ミルドレッド侯爵令嬢にはほとほと困り果てていてね。それを好きにさせているミルドレッド侯爵にも問題があるのだが……」
「……前ミルドレッド侯爵様は、とても優秀な宰相だったと聞いています」
アシュリーお嬢様の祖父にあたる、前ミルドレッド侯爵――前王時代、宰相としてこの国を支えた優秀な人材で、ミルドレッド侯爵家が強い力を得たのは、彼の功績が大きい。
「父親が生きていた頃は、まだミルドレッド侯爵も大人しくしていたのだが、亡くなってからはもう駄目だな。偉大な父親の顔に泥を塗り潰すような真似ばかりしている」
父親の目が無くなった途端、傍若無人な態度が見え始め、甘やかして育てた娘の我儘を諌める者もいなくなり、好き勝手に振る舞わせるようになった。
「娘を溺愛するのもいいが、限度がある。その点、キアナ嬢は良い子で良かった。これでレイフまで親馬鹿を発揮されて、好き勝手されたら堪らないからね」
……笑えないお話です。
ミルドレッド侯爵様は宰相の器では無いと早々と宰相候補から外れましたけど……エメラルド公爵様……現王宮騎士団長にそんな好き勝手されたら……国の一大事では?
ミルドレッド侯爵を宰相に選ばなかったのは、父親である前ミルドレッド侯爵の意向でもある。不出来な息子にこの国の宰相は相応しくないと、早々と切り捨てた。
優秀過ぎる厳しい父親に、ミルドレッド侯爵は強い劣等感を持って育ち、偉大な父の死は、ミルドレッド侯爵に強い解放感をもたらした。
「あんな馬鹿娘を王族に加えるのは心底ご遠慮したい。その点、君は礼節も弁えているし、真面目だ。何より、身分が下の者達に対しても見下したりせず、尊重するその姿勢が良い」
「……恐れ入ります」
アシュリーお嬢様と比較されての評価だということは明白なので、陛下からのお褒めの言葉を、素直に受け取る。
「では、まだまだ未熟な息子だが、婚約者としてよろしく頼むよ、キアナ嬢」
「は……はい。こちらこそ……よろしくお願い致します」
……まだ信じられない……私が、フィン殿下の婚約者……?
エメラルド公爵様の娘になって、王子様と婚約して……全てが夢のように進む。これは現実?ほんの少し前まで、私はただの貧乏男爵令嬢だったのに……!
チラリとフィン殿下を見ると、フィン殿下は優しく微笑み返して下さり、心臓がドクンっと跳ねる。
(夢じゃない……!)
高鳴る心臓を抑えるように、私は大きく息を吐き出した。
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