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GKBRロックンロール
15:さねかつら
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階段を降りた先で、二人は天井を見上げそして見渡した。
巨大な空間。体育館程度の広さ、そして、見上げるほどの高さを持ったその場所である。
壁や床、そして、天井はコンクリートであり、その壁や天井を樹木の根のように金属製のダクトが張り巡らされていた。
また、壁には今降りてきたのと同様の上り階段が四つと、奥へと続くドアが一つあり、部屋の奥には巨大な金属製の扉がある。
床には何らかの材料でも詰まっているのか、金属製のコンテナがいくつか置かれていた。
その脇をすり抜けその巨大な鉄扉を確認する。
「上層部につながったエレベータみたいだな」
「となると、ここは搬入庫かしら」
そうだな、とつぶやく連慈に私は注意を促す。
「連慈よ、注意して進め」
「敵か?」
「いや、ここは音が聞こえずらい。結界が敷かれているか、何らかの端境があるようだ。かなり索敵がしづらい」
結界や端境があると、我々妖怪は、十分に力が発揮できなくなる。
異能や魔術も同様である。
が、結界にせよ端境にせよ、範囲が広くなるとそれに反比例するようにその効果も薄まる。
二人の様子を見る限り、戦闘に負担がかかるほどではないようだ。
二人は、私の発言を気にした様子もなく、次の部屋に続くのであろう扉に向かう。
そして、絵瑠が無線中継器を配置するべく適当な場所に陣取った。
連慈は手近のコンテナに背を預ける。
「要は、単なるカラスになっちまったわけだな」
そういい連慈が底意地の悪い笑みを浮かべ、くつくつと笑う。
それに対して私が反論しようとした瞬間であった。
奥のドアノブが回る。
人並みに下がった私の聴覚は、そこでやっと索敵を完了させた。
現れたのはグレーの戦闘服の男達が四人、そして、赤茶けたアタッシェケースを手に提げた禿頭の白衣の男が一人。
突然であったため、両者は一瞬見合わせる。
彼我の距離は、三十メートル弱。
両陣営はそれを同時に確認する。
そして次の瞬間両者は一斉に動き出した。
「ここにも侵入者かよ!」
禿頭白衣が叫び、アタッシェケースを抱えながら男達の後ろに隠れる。
それを待たず、戦闘服の男達は肩にかけていたライフルの銃口を向け、それが大体二人に合った所で発砲を始める。
四点から放たれる銃弾。
空間を引き裂きながら二人に殺到する弾丸。
コンテナが火花をあげ、コンクリート壁に穴が穿たれていく。
二人はそれらを完全に無視しコンテナの一つの後ろに走りこんだ。
「敵いないって油断したなぁ」
「余裕ぶってないでなんとかしなさいよ!」
絵瑠は拳銃だけコンテナから出すと適当に発砲する。
怒号と砲声。
弾丸のぶつかったダクトから高音の蒸気が吹き出す。
連慈は腰袋から白いチョークを取り出すと口に放り込む。
そして、それを慣れたように歯で噛み砕き飲み下すと絵瑠に右腕を突き出す。
「弾ぁ貸してくれ」
絵瑠からマガジンを受け取ると、全弾を抜く。
そして、弾丸を無造作にポケットに突っ込み、マガジンは反対のポケットに突っ込む。
その間も周囲ではコンテナやコンクリート壁が火花を散らしている。
「どうすんのよ!」
「やつらの頭押さえててくれ」
そういうと、連慈はコンテナ陰から飛び出した。
瞬間、砲口は連慈に向けられるが、連慈が臆することはない。
断続無く咆哮が続き、銃弾が飛来するその空間をジグザグと動き回る。
体重と円匙の振りを利用し疾走し、弾丸は連慈のギリギリをすり抜けていく。
「早く! 早くあいつをなんとかしろ!!」
禿頭白衣の男が、戦闘服の身体を揺すった。
一瞬、僅かの隙。
飛び回る弾丸の数が減る。
連慈は、ポケットから弾丸を取り出すとアンダースローで投擲。
手から離れる瞬間、火薬の破裂音が響く。
投擲による速度を遥かに超えたそれは、男達の上を走るダクトに直撃。
瞬間、ダクトから高熱の蒸気が吹き出した。
男の一人に蒸気が直撃し、大声をあげたかと思うとそのまま背中側から受け身も取らずに倒れた。
顔面がケロイド状に崩れ、その痛みに気を失ったようだ。
足並みがずれる。
連慈は、その移動を直線に変え、その距離を数歩で殺した。
そして、その勢いを殺さぬまま、構えた円匙をバットの要領で振る。
一人の男の側頭部に円匙がぶち当たる。
連慈は、腰を入れ振り抜くと、男は糸の千切れた操り人形のように愉快な動きで吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる寸前、バランスを立て直したが、追いすがった連慈の右爪先が男の下腹部に突き刺さる。
男はうぐぅと呻き声とともにくずおれる。
「貴様ぁぁぁぁああ!」
連慈の背面をとった男が叫び、連慈に銃口を向ける。
と、その男の左肩口が弾け血が吹き出した。
絵瑠の撃った弾丸が直撃したのだ。
恩着せがましい視線を連慈に投げかけている。
連慈はそれに視線すら送らず、ライフルを取り落したその男の膝に靴裏を叩き込む。
鉄板の詰まったワークシューズの踏みつけは容易に膝骨を砕く。
まず骨がひしゃげる音がした。
遅れて鮮血が吹き出す。
膝裏から突き出た白い骨が、神経に触ったのか男が絞り出すように叫び声をあげた。
それでも連慈は止まらない。
さらに首を掴むとわずかに力を込める。
バチンと音が響いた瞬間、男は白眼を剥き、赤い泡を吹いて崩れ落ちる。
最後の戦闘服の男の判断は素早かった。
禿頭白衣の男、おそらく護衛対象の手を取ると元来た道を戻ろうと扉へ走る。
勢いあまり禿頭白衣の男の手から赤茶のアタッシェケースが落ち、連慈の方へ滑る。
「待て鞄が!」
禿頭が手を振り払い、走り出す。
それと同時に扉が開いた。
そこには、暗闇の中に幾人かの人影が見える。
絵瑠は銃把を握り直す。
口を動かしている所をみるといざとなれば、魔術を使うつもりなのだろう。
連慈もまた、いつでも飛び出せるよう要不要に分け、筋肉を緊張弛緩させる。
暗闇の中の人陰が動く。
銃を構えそして、発砲。
マズルフラッシュに浮かび上がる人相。
浮かんでいたのは酷薄な笑み。
銃弾を数十発撃ち込まれた最後のグレーの戦闘服の男は、顔から地面に倒れこんだ。
巨大な空間。体育館程度の広さ、そして、見上げるほどの高さを持ったその場所である。
壁や床、そして、天井はコンクリートであり、その壁や天井を樹木の根のように金属製のダクトが張り巡らされていた。
また、壁には今降りてきたのと同様の上り階段が四つと、奥へと続くドアが一つあり、部屋の奥には巨大な金属製の扉がある。
床には何らかの材料でも詰まっているのか、金属製のコンテナがいくつか置かれていた。
その脇をすり抜けその巨大な鉄扉を確認する。
「上層部につながったエレベータみたいだな」
「となると、ここは搬入庫かしら」
そうだな、とつぶやく連慈に私は注意を促す。
「連慈よ、注意して進め」
「敵か?」
「いや、ここは音が聞こえずらい。結界が敷かれているか、何らかの端境があるようだ。かなり索敵がしづらい」
結界や端境があると、我々妖怪は、十分に力が発揮できなくなる。
異能や魔術も同様である。
が、結界にせよ端境にせよ、範囲が広くなるとそれに反比例するようにその効果も薄まる。
二人の様子を見る限り、戦闘に負担がかかるほどではないようだ。
二人は、私の発言を気にした様子もなく、次の部屋に続くのであろう扉に向かう。
そして、絵瑠が無線中継器を配置するべく適当な場所に陣取った。
連慈は手近のコンテナに背を預ける。
「要は、単なるカラスになっちまったわけだな」
そういい連慈が底意地の悪い笑みを浮かべ、くつくつと笑う。
それに対して私が反論しようとした瞬間であった。
奥のドアノブが回る。
人並みに下がった私の聴覚は、そこでやっと索敵を完了させた。
現れたのはグレーの戦闘服の男達が四人、そして、赤茶けたアタッシェケースを手に提げた禿頭の白衣の男が一人。
突然であったため、両者は一瞬見合わせる。
彼我の距離は、三十メートル弱。
両陣営はそれを同時に確認する。
そして次の瞬間両者は一斉に動き出した。
「ここにも侵入者かよ!」
禿頭白衣が叫び、アタッシェケースを抱えながら男達の後ろに隠れる。
それを待たず、戦闘服の男達は肩にかけていたライフルの銃口を向け、それが大体二人に合った所で発砲を始める。
四点から放たれる銃弾。
空間を引き裂きながら二人に殺到する弾丸。
コンテナが火花をあげ、コンクリート壁に穴が穿たれていく。
二人はそれらを完全に無視しコンテナの一つの後ろに走りこんだ。
「敵いないって油断したなぁ」
「余裕ぶってないでなんとかしなさいよ!」
絵瑠は拳銃だけコンテナから出すと適当に発砲する。
怒号と砲声。
弾丸のぶつかったダクトから高音の蒸気が吹き出す。
連慈は腰袋から白いチョークを取り出すと口に放り込む。
そして、それを慣れたように歯で噛み砕き飲み下すと絵瑠に右腕を突き出す。
「弾ぁ貸してくれ」
絵瑠からマガジンを受け取ると、全弾を抜く。
そして、弾丸を無造作にポケットに突っ込み、マガジンは反対のポケットに突っ込む。
その間も周囲ではコンテナやコンクリート壁が火花を散らしている。
「どうすんのよ!」
「やつらの頭押さえててくれ」
そういうと、連慈はコンテナ陰から飛び出した。
瞬間、砲口は連慈に向けられるが、連慈が臆することはない。
断続無く咆哮が続き、銃弾が飛来するその空間をジグザグと動き回る。
体重と円匙の振りを利用し疾走し、弾丸は連慈のギリギリをすり抜けていく。
「早く! 早くあいつをなんとかしろ!!」
禿頭白衣の男が、戦闘服の身体を揺すった。
一瞬、僅かの隙。
飛び回る弾丸の数が減る。
連慈は、ポケットから弾丸を取り出すとアンダースローで投擲。
手から離れる瞬間、火薬の破裂音が響く。
投擲による速度を遥かに超えたそれは、男達の上を走るダクトに直撃。
瞬間、ダクトから高熱の蒸気が吹き出した。
男の一人に蒸気が直撃し、大声をあげたかと思うとそのまま背中側から受け身も取らずに倒れた。
顔面がケロイド状に崩れ、その痛みに気を失ったようだ。
足並みがずれる。
連慈は、その移動を直線に変え、その距離を数歩で殺した。
そして、その勢いを殺さぬまま、構えた円匙をバットの要領で振る。
一人の男の側頭部に円匙がぶち当たる。
連慈は、腰を入れ振り抜くと、男は糸の千切れた操り人形のように愉快な動きで吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる寸前、バランスを立て直したが、追いすがった連慈の右爪先が男の下腹部に突き刺さる。
男はうぐぅと呻き声とともにくずおれる。
「貴様ぁぁぁぁああ!」
連慈の背面をとった男が叫び、連慈に銃口を向ける。
と、その男の左肩口が弾け血が吹き出した。
絵瑠の撃った弾丸が直撃したのだ。
恩着せがましい視線を連慈に投げかけている。
連慈はそれに視線すら送らず、ライフルを取り落したその男の膝に靴裏を叩き込む。
鉄板の詰まったワークシューズの踏みつけは容易に膝骨を砕く。
まず骨がひしゃげる音がした。
遅れて鮮血が吹き出す。
膝裏から突き出た白い骨が、神経に触ったのか男が絞り出すように叫び声をあげた。
それでも連慈は止まらない。
さらに首を掴むとわずかに力を込める。
バチンと音が響いた瞬間、男は白眼を剥き、赤い泡を吹いて崩れ落ちる。
最後の戦闘服の男の判断は素早かった。
禿頭白衣の男、おそらく護衛対象の手を取ると元来た道を戻ろうと扉へ走る。
勢いあまり禿頭白衣の男の手から赤茶のアタッシェケースが落ち、連慈の方へ滑る。
「待て鞄が!」
禿頭が手を振り払い、走り出す。
それと同時に扉が開いた。
そこには、暗闇の中に幾人かの人影が見える。
絵瑠は銃把を握り直す。
口を動かしている所をみるといざとなれば、魔術を使うつもりなのだろう。
連慈もまた、いつでも飛び出せるよう要不要に分け、筋肉を緊張弛緩させる。
暗闇の中の人陰が動く。
銃を構えそして、発砲。
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浮かんでいたのは酷薄な笑み。
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