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第32話 ダンジョンへ肉球を。悪役令嬢ハナにゃんとお兄様。イケメンなきぼくろ教師。
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悪役令嬢ハナ、なきぼくろ教師アヤメは『安全安心学園ダンジョン』へ入る『いかにもな扉』を目指し、ダンジョンエリア内にある森を歩いていた。
左右を見れば、壁のようにそびえる樹。進む道には割れて苔生した石畳。学園らしいとは言いにくい。
普通の生徒であれば、自分を抱える教師に質問するだろう。
『まさか、この先にあるのは、本物の遺跡ですか……?』
『それとも、本物そっくりに作ってあるのですか?』
『もしも本物なら、この遺跡はいつから存在するものなのですか?』
『いつから』『何故』『誰が』『何のために』
ヒトがつくった歴史など人間がそう名づけ、人間が文字として、あるいは絵として残し、人間がその軌跡を追い、ヒトという生き物が起こした悲劇に感情を動かし、想いを馳せるためのものだ。
繰り返してはならぬ。誓いを立てる者もまた人間である。――今現在の人間がどうであるかは置いておく。
知りたい。少しでも多く。そう思うなら避けられぬものがある。
終わりのない勉強だ。
すべてが、猫には関係がない。聞いても『にゃーん』としか答えられないだろう。
「中は少し暗いが、猫は薄暗がりでも見えるのだったか。ふむ、猫について学ぶ必要があるな。『ダンジョンと猫の関係、内部での注意点』について詳しく書かれた本は存在するのだろうか」
「お兄にゃーん!」
苦行。真面目な人間の口を閉じさせてくれ。
勉強が大嫌いな悪役令嬢ハナにゃんは鳴いた。
「ハナ、大丈夫か」
兄はクールに現れた。スッと手を伸ばし。堅物教師アヤメから妹を奪う。
猫を抱えてゆっくりとお散歩中の教師に追いつくぐらい、彼には簡単なことだった。
悪役令嬢ハナにゃんが兄の胸元におでこを付け、苦情をいう。
「にゃーん、にゃーん、お兄にゃーん」と。
「そうか。何を言ってるのか分からない。『とにかくこの中に入りたい』ということで合っているか」
授業は――。というアヤメの視線はクールに無視される。
堅物教師アヤメは悩んだ末、首肯した。やはり、猫を優先すべきである。赤子なのだから。
ずっと兄を呼んでいた猫を想う。
なるほど。猫の望み通り、兄は来た。ならばダンジョンに兄も入るのは当然だろう。
遺跡に感動する人間が不在のまま、重々しい石造りの扉の前に到着する。
苔と植物。うっすらと刻まれた謎の文様。指先でなぞることもなく、魔力を注ぐ。
ズズ……ズズズ……――。重い物が擦れるような、引き摺られるような音にもコメントをしない二人と一匹は、薄暗い遺跡の中へ躊躇なく、足を踏み入れていった。
◇
「わぁ! イラストより不気味。ちょっと感動。あ、胡蝶くーん! ここですー!」
数分後のダンジョン、扉前。先に着いたのは鵯鈴蘭。ヒロインだった。
大声を上げ、手を振る。
「ひとの名前大声で呼ばないでくれる?」
機嫌がよろしくないサクラは、片手をポケットに入れ、微かに首を傾けた。
爽やかな笑顔を消したまま、付け足す。「煩いのも好きじゃない」と。
「あ……ごめんなさい……。……またその目。冷たすぎる……カッコいい……」
「口押さえてしゃべるのは癖なの? まぁどうでもいいけど。さっさと入ったら?」
左右を見れば、壁のようにそびえる樹。進む道には割れて苔生した石畳。学園らしいとは言いにくい。
普通の生徒であれば、自分を抱える教師に質問するだろう。
『まさか、この先にあるのは、本物の遺跡ですか……?』
『それとも、本物そっくりに作ってあるのですか?』
『もしも本物なら、この遺跡はいつから存在するものなのですか?』
『いつから』『何故』『誰が』『何のために』
ヒトがつくった歴史など人間がそう名づけ、人間が文字として、あるいは絵として残し、人間がその軌跡を追い、ヒトという生き物が起こした悲劇に感情を動かし、想いを馳せるためのものだ。
繰り返してはならぬ。誓いを立てる者もまた人間である。――今現在の人間がどうであるかは置いておく。
知りたい。少しでも多く。そう思うなら避けられぬものがある。
終わりのない勉強だ。
すべてが、猫には関係がない。聞いても『にゃーん』としか答えられないだろう。
「中は少し暗いが、猫は薄暗がりでも見えるのだったか。ふむ、猫について学ぶ必要があるな。『ダンジョンと猫の関係、内部での注意点』について詳しく書かれた本は存在するのだろうか」
「お兄にゃーん!」
苦行。真面目な人間の口を閉じさせてくれ。
勉強が大嫌いな悪役令嬢ハナにゃんは鳴いた。
「ハナ、大丈夫か」
兄はクールに現れた。スッと手を伸ばし。堅物教師アヤメから妹を奪う。
猫を抱えてゆっくりとお散歩中の教師に追いつくぐらい、彼には簡単なことだった。
悪役令嬢ハナにゃんが兄の胸元におでこを付け、苦情をいう。
「にゃーん、にゃーん、お兄にゃーん」と。
「そうか。何を言ってるのか分からない。『とにかくこの中に入りたい』ということで合っているか」
授業は――。というアヤメの視線はクールに無視される。
堅物教師アヤメは悩んだ末、首肯した。やはり、猫を優先すべきである。赤子なのだから。
ずっと兄を呼んでいた猫を想う。
なるほど。猫の望み通り、兄は来た。ならばダンジョンに兄も入るのは当然だろう。
遺跡に感動する人間が不在のまま、重々しい石造りの扉の前に到着する。
苔と植物。うっすらと刻まれた謎の文様。指先でなぞることもなく、魔力を注ぐ。
ズズ……ズズズ……――。重い物が擦れるような、引き摺られるような音にもコメントをしない二人と一匹は、薄暗い遺跡の中へ躊躇なく、足を踏み入れていった。
◇
「わぁ! イラストより不気味。ちょっと感動。あ、胡蝶くーん! ここですー!」
数分後のダンジョン、扉前。先に着いたのは鵯鈴蘭。ヒロインだった。
大声を上げ、手を振る。
「ひとの名前大声で呼ばないでくれる?」
機嫌がよろしくないサクラは、片手をポケットに入れ、微かに首を傾けた。
爽やかな笑顔を消したまま、付け足す。「煩いのも好きじゃない」と。
「あ……ごめんなさい……。……またその目。冷たすぎる……カッコいい……」
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