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第39話 神秘的な泉でご休憩の麗しき兄妹。只者ではないヒロイン。
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カナデは微かに眉根を寄せた。
偶然か――?
喉が渇いたと言ったハナ。泉へ連れて行くと決めたのはシオンだ。猫が自分で決めたわけではない。
猫の散歩に丁度いい道を選んでいたのはシオンと御剣アヤメだ。大半がシオンで一部がアヤメだが、取捨選択というより赤子に優しい敵について語っていただけで、奴の意見でどこかに誘導されたと断じるほどの影響はなかった。
万が一、こちら側の状況が向こうに伝わっていたとしても、不審者の行動におかしな点があれば伝わるだろう。
視線で続きを促せば、泉へ向かった理由らしきものが明らかになった。
「――胡蝶サクラ様の怪我を治療する場所を遺跡で探すと」
馬鹿馬鹿しい。思わず嗤ってしまう。
そのうえサクラの問いに不明朗な答えをよこしたと。
本当に男の心配をしているなら医務室にでも行くはずだ。
女生徒の怪しい言動はまだまだあるらしい。それなりに長い報告を終えたボディーガードへ、泉への到着を遅らせるよう指示を出す。
猫の水分補給だけなら二時間もあれば十分だろう。
「お兄にゃーん。お水のにおいですにゃーん」
「身を乗り出すんじゃない。危ないだろう」
◇
その部屋には、彫刻が施された柱が並び、中央に美しい乙女の像が置かれていた。
像の持つ水瓶からチョロチョロと水が流れ、その姿は、今にも枯れそうな泉を憂いているようにも見えた。
大聖堂のように高い天井。最頂部の小さな丸窓。悲し気な乙女の像に温もりを与えんと、ひと筋の光が射す。
だが、猫のような生き物、悪役令嬢ハナにゃんがそんな小さなことを気にするはずもない。
「お兄にゃーん。光るお水ですにゃーん」
「待ちなさい。丁度いい物がある」
お兄様はそう言って、黒ずくめの男から銀製のゴブレットを受け取った。
それは猫が宝箱から得た戦利品のひとつだった。裏返すと、プレートの部分に何故か肉球のマーク。兄妹ともに気に入った一品である。
猫を抱えたイケメンが、跪き、神秘の水を汲む。
一人と一匹の美しい銀髪が泉の輝きに照らされ、静謐な青へと変化した。
お兄様が毒見のように口を付け、悪役令嬢が「お兄にゃーん」と猫手をのばす。
「――味に異常はない。肉体的な変化も」
疲労や怪我があるなら、一口で回復するだろう。
そうして彼の手が、麗しい猫の愛らしい猫口に、そっとゴブレットを――。
――ドォン――!
鈍い爆発音。石材がガラガラと崩落する。
大きな猫目を限界まで開いたハナ。光る水が鼻先を濡らす。
可哀相な妹を結界で覆ったシオンは、土煙へクールな視線を向け、カナデ達のほうへクールに移動した。
「や、やっとついた……! 胡蝶くん! ここです……!」
そこで、一つしかないはずの通路――ではなく柱の裏側から、神秘的な空間を物理的に破壊した馬鹿者の声が響いた。騒音を嫌うサクラを大声で呼びながら。
「あ、あれ? 胡蝶くん? ……胡蝶くーん!」
『胡蝶くん』はついてきていないようだ。
不審者がさらに叫ぶ。
腕組みをしたカナデがボディーガードへ視線を向ける。
彼らの仕事を疑っている訳ではない。自分も知らぬ道だ。『足止めが無理なら息の根を止めろ』と言わなかったカナデの落ち度だろう。
偶然か――?
喉が渇いたと言ったハナ。泉へ連れて行くと決めたのはシオンだ。猫が自分で決めたわけではない。
猫の散歩に丁度いい道を選んでいたのはシオンと御剣アヤメだ。大半がシオンで一部がアヤメだが、取捨選択というより赤子に優しい敵について語っていただけで、奴の意見でどこかに誘導されたと断じるほどの影響はなかった。
万が一、こちら側の状況が向こうに伝わっていたとしても、不審者の行動におかしな点があれば伝わるだろう。
視線で続きを促せば、泉へ向かった理由らしきものが明らかになった。
「――胡蝶サクラ様の怪我を治療する場所を遺跡で探すと」
馬鹿馬鹿しい。思わず嗤ってしまう。
そのうえサクラの問いに不明朗な答えをよこしたと。
本当に男の心配をしているなら医務室にでも行くはずだ。
女生徒の怪しい言動はまだまだあるらしい。それなりに長い報告を終えたボディーガードへ、泉への到着を遅らせるよう指示を出す。
猫の水分補給だけなら二時間もあれば十分だろう。
「お兄にゃーん。お水のにおいですにゃーん」
「身を乗り出すんじゃない。危ないだろう」
◇
その部屋には、彫刻が施された柱が並び、中央に美しい乙女の像が置かれていた。
像の持つ水瓶からチョロチョロと水が流れ、その姿は、今にも枯れそうな泉を憂いているようにも見えた。
大聖堂のように高い天井。最頂部の小さな丸窓。悲し気な乙女の像に温もりを与えんと、ひと筋の光が射す。
だが、猫のような生き物、悪役令嬢ハナにゃんがそんな小さなことを気にするはずもない。
「お兄にゃーん。光るお水ですにゃーん」
「待ちなさい。丁度いい物がある」
お兄様はそう言って、黒ずくめの男から銀製のゴブレットを受け取った。
それは猫が宝箱から得た戦利品のひとつだった。裏返すと、プレートの部分に何故か肉球のマーク。兄妹ともに気に入った一品である。
猫を抱えたイケメンが、跪き、神秘の水を汲む。
一人と一匹の美しい銀髪が泉の輝きに照らされ、静謐な青へと変化した。
お兄様が毒見のように口を付け、悪役令嬢が「お兄にゃーん」と猫手をのばす。
「――味に異常はない。肉体的な変化も」
疲労や怪我があるなら、一口で回復するだろう。
そうして彼の手が、麗しい猫の愛らしい猫口に、そっとゴブレットを――。
――ドォン――!
鈍い爆発音。石材がガラガラと崩落する。
大きな猫目を限界まで開いたハナ。光る水が鼻先を濡らす。
可哀相な妹を結界で覆ったシオンは、土煙へクールな視線を向け、カナデ達のほうへクールに移動した。
「や、やっとついた……! 胡蝶くん! ここです……!」
そこで、一つしかないはずの通路――ではなく柱の裏側から、神秘的な空間を物理的に破壊した馬鹿者の声が響いた。騒音を嫌うサクラを大声で呼びながら。
「あ、あれ? 胡蝶くん? ……胡蝶くーん!」
『胡蝶くん』はついてきていないようだ。
不審者がさらに叫ぶ。
腕組みをしたカナデがボディーガードへ視線を向ける。
彼らの仕事を疑っている訳ではない。自分も知らぬ道だ。『足止めが無理なら息の根を止めろ』と言わなかったカナデの落ち度だろう。
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