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第15話 冒険開始! 不思議な穴。
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カラカラ――。小石が落ちる音が聞こえる。
「大丈夫か?」
頭上からイケボ。これはミィちゃんの声。
私はハッとした。いつのまにか座り込んでいた私の背中に温かい腕が回されている。
ミィちゃんに「立てるか?」と言われてやっと気付いた。
私が座っていたのはミィちゃんの脚の上だったらしい。
「わ! ごめんなさい」私はあやまりながら彼の上から退いた。
するとミィちゃんもダルそうに立ち上がる。
「ミィちゃん! ケガしてないですか?!」
私をかばってくれたミィちゃんを急いで見上げる。
顔にケガはないように見えるけれど、薄暗いせいでよく分からない。
それに足の方から落ちたんだから、どこかを痛めたとしたらそっちのはずだ。
ドキドキしながら答えを待っていると、ベッカムくんののんびりとした声が聞こえた。
「ミィちゃんは、っていうか誰もケガはないっぽいね。しかも暗いせいかもしれないけど……服も汚れてない気がする」
「え、そんなことってあります?」
「そもそもここに『穴』があることがおかしいだろ。落とし穴って感じでもねぇし」
たしかに、こんな風に落ちたのに、短パンをはいた足を見ても擦り傷はない。
白いTシャツなのに、土の汚れも草の汚れもついていないようだ。
「すっっごく怪しいですね!! これは、異世界的な何かでしょうか?」
「田中カンナ凄いね……。この状況で元気なのはさすがっていうか、もう尊敬に値するレベル」
「暗いよりいいんじゃねーの。……ここから登んのは無理かもな。傾斜がきつすぎる」
ミィちゃんが地上を見上げてそういった。
私とベッカムくんも、つられるように上を見た。
「わー、井戸ってこういう感じなんですかねぇ」
「今から井戸の話は全面的に禁止だから。破ったら罰ゲームね」
「ああ。『ホラー好きなヤツ』がなんか言ってた気がすんな。見たことはねぇけど」
「匂わせるのも禁止だから!」
「え? 最近の映画とかですか? うーん、テレビはあんまり見ないので、聞いても分からないかも……」
私は井戸にまつわる『ホラー』を思い浮かべたけれど、残念ながら何も思いつかなかった。
そんな風に余計なことを考えていられるのは、頼もしい二人が一緒にいるからだろう。
きっとひとりだったら不安でおろおろしていたと思う。
でも一人でも探索はするだろうなぁ。と、実はさっきから気になっていた方向へ、私は視線を動かした。
真っ暗と言うには少し明るいトンネルのような空間が、遠くまで続いているのが見えた。
そう。ここはただの穴ではなく、なんと洞窟のように道が奥へと続いているのだ!
「あっちから異世界の匂いがしますね!」
「待って待って。田中カンナいっかい深呼吸しよ。ほらすーはーって。そしたら絶対に『よーし! 奥まで探検しちゃうぞ!』とか思わなくなるから」
「すーはー。大丈夫です! 落ち着きました!」
「あっちから風吹いてねぇ? 普通に出口とかあるんじゃねーの」
私はミィちゃんの言葉でさらにわくわくした気持ちになった。
おばあちゃんに教えてもらった『女の子が穴に落ちて不思議な世界を大冒険するお話』を思い出したのだ。
「なるほどぉ。これは外に出たら巨大なキノコが生えてるやつですねぇ」
「どういう流れでそう思ったの? なんでそんな自信満々なの?」
「生えてたら面白いけどな」
ミィちゃんはそういって目を細め、クッとのどを鳴らした。
イケメンがやるとなんだか悪役みたいだ。うーん。悪役っぽいミィちゃんも格好いい。黒髪だからかな?
なんだかすごいですねぇ。洞窟ってもっと薄暗いかと思ってました。
あー、そういう『おかしい部分』を探すのも禁止ね。田中カンナひとりで前でたら危ないって。ほらお兄さんが手つないであげるからこっちおいで。
お前がひとりじゃ怖いってだけだろ。
私が転びそうになったらすぐに離してくださいね。巻きこんじゃったら危ないんで。
田中カンナ優しい……。それに比べてミィちゃんの冷たさといったら……。こういう風に育っちゃだめだよ。
いつものようにスマホを持ち歩いていない私達は、家族に助けを求めることもできず、風を感じる方向へと歩き出した。
何かがおかしいなーと分かっていながら、まるで『こっちへ進みなさい』という何者かの意志に、無意識に従うかのように。
「大丈夫か?」
頭上からイケボ。これはミィちゃんの声。
私はハッとした。いつのまにか座り込んでいた私の背中に温かい腕が回されている。
ミィちゃんに「立てるか?」と言われてやっと気付いた。
私が座っていたのはミィちゃんの脚の上だったらしい。
「わ! ごめんなさい」私はあやまりながら彼の上から退いた。
するとミィちゃんもダルそうに立ち上がる。
「ミィちゃん! ケガしてないですか?!」
私をかばってくれたミィちゃんを急いで見上げる。
顔にケガはないように見えるけれど、薄暗いせいでよく分からない。
それに足の方から落ちたんだから、どこかを痛めたとしたらそっちのはずだ。
ドキドキしながら答えを待っていると、ベッカムくんののんびりとした声が聞こえた。
「ミィちゃんは、っていうか誰もケガはないっぽいね。しかも暗いせいかもしれないけど……服も汚れてない気がする」
「え、そんなことってあります?」
「そもそもここに『穴』があることがおかしいだろ。落とし穴って感じでもねぇし」
たしかに、こんな風に落ちたのに、短パンをはいた足を見ても擦り傷はない。
白いTシャツなのに、土の汚れも草の汚れもついていないようだ。
「すっっごく怪しいですね!! これは、異世界的な何かでしょうか?」
「田中カンナ凄いね……。この状況で元気なのはさすがっていうか、もう尊敬に値するレベル」
「暗いよりいいんじゃねーの。……ここから登んのは無理かもな。傾斜がきつすぎる」
ミィちゃんが地上を見上げてそういった。
私とベッカムくんも、つられるように上を見た。
「わー、井戸ってこういう感じなんですかねぇ」
「今から井戸の話は全面的に禁止だから。破ったら罰ゲームね」
「ああ。『ホラー好きなヤツ』がなんか言ってた気がすんな。見たことはねぇけど」
「匂わせるのも禁止だから!」
「え? 最近の映画とかですか? うーん、テレビはあんまり見ないので、聞いても分からないかも……」
私は井戸にまつわる『ホラー』を思い浮かべたけれど、残念ながら何も思いつかなかった。
そんな風に余計なことを考えていられるのは、頼もしい二人が一緒にいるからだろう。
きっとひとりだったら不安でおろおろしていたと思う。
でも一人でも探索はするだろうなぁ。と、実はさっきから気になっていた方向へ、私は視線を動かした。
真っ暗と言うには少し明るいトンネルのような空間が、遠くまで続いているのが見えた。
そう。ここはただの穴ではなく、なんと洞窟のように道が奥へと続いているのだ!
「あっちから異世界の匂いがしますね!」
「待って待って。田中カンナいっかい深呼吸しよ。ほらすーはーって。そしたら絶対に『よーし! 奥まで探検しちゃうぞ!』とか思わなくなるから」
「すーはー。大丈夫です! 落ち着きました!」
「あっちから風吹いてねぇ? 普通に出口とかあるんじゃねーの」
私はミィちゃんの言葉でさらにわくわくした気持ちになった。
おばあちゃんに教えてもらった『女の子が穴に落ちて不思議な世界を大冒険するお話』を思い出したのだ。
「なるほどぉ。これは外に出たら巨大なキノコが生えてるやつですねぇ」
「どういう流れでそう思ったの? なんでそんな自信満々なの?」
「生えてたら面白いけどな」
ミィちゃんはそういって目を細め、クッとのどを鳴らした。
イケメンがやるとなんだか悪役みたいだ。うーん。悪役っぽいミィちゃんも格好いい。黒髪だからかな?
なんだかすごいですねぇ。洞窟ってもっと薄暗いかと思ってました。
あー、そういう『おかしい部分』を探すのも禁止ね。田中カンナひとりで前でたら危ないって。ほらお兄さんが手つないであげるからこっちおいで。
お前がひとりじゃ怖いってだけだろ。
私が転びそうになったらすぐに離してくださいね。巻きこんじゃったら危ないんで。
田中カンナ優しい……。それに比べてミィちゃんの冷たさといったら……。こういう風に育っちゃだめだよ。
いつものようにスマホを持ち歩いていない私達は、家族に助けを求めることもできず、風を感じる方向へと歩き出した。
何かがおかしいなーと分かっていながら、まるで『こっちへ進みなさい』という何者かの意志に、無意識に従うかのように。
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