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第178話 最高のトレイ。「クマちゃん……!」と我が子を可愛がるリオ。
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金髪はまだ、小さなもこもこと謎の作業をしている。
その間ウィル達は「トレイの上で寝ているクマちゃんもとても愛らしいね。どこかへ運びたくなってしまうよ」「ああ」と、もこもこの可愛らしさを讃え、高貴な人外らしきお兄さんはまるで眠っているかのように目を瞑り、暗殺者のような氷職人は幼いもこもこが『クマちゃ……やったたい……』と驚き死んだふりをするほど大きな音を立ててしまったことを猛省し、気配を消していた。
リオが「えぇ……」と言いながら子もこもこを次のトレイに置いたときだった。
愛らしいもこもこの口元がもふっとなり、お目目が若干大きくなった。
まさか、この単純すぎる単純作業に単純でない問題が――?
「どしたのクマちゃん。疲れちゃった?」
リオが優しい声で尋ねる。
横になっていただけのもこもこが疲れるとも考えにくいが、クマちゃんは赤ちゃんだ。そのうえ、いつもよりも小さくなっているのだから、そういうこともあるだろう。
確かに、単純ではない問題である。
クマちゃんは先程と変わらずお昼寝中の子猫の格好のまま、仰向けでコロリと転がり、可愛い口元をもふっと膨らませている。
もふもふした口元が、もこもこと動いた。
トレイ鑑定士クマちゃんが幼く愛らしい声で「クマちゃ……!」と呟く。
『クマちゃ……!』と。
なんとなく、『これは……!』と言っているように聞こえなくもない。
「もしかして気に入った?」
リオはトレイの上のもこもこから両手を放し、丸くて可愛い頭をふわふわと撫でた。
小さなもこもこが「クマちゃ……」と頷く。
このトレイに決めたらしい。直径二もこもこ分くらいの大きさだろうか。
「お兄さんクマちゃんこれがいいって」
彼はよろず屋お兄さんを起こし『もこもこが選んだ最高のトレイはこれだ』と視線で最重要事項を伝えた。
小さなもこもこがもこもこした両手を胸元で交差し「クマちゃ――」と、何かを決意したもこもこのように静かに呟いている。
リオは格好をつけているらしいもこもこへ、冷めた視線を向けようとした。
小さなもこもこはつぶらな瞳で彼を見上げ、少しだけ首を傾げた。
(可愛い……口開いてるけど)
無理だ。可愛すぎて睨むことなど出来ない。
新米ママリオちゃんは「クマちゃんめっちゃ口あいてる」と優しく笑い、開いたままの我が子の口を、そっと指でつついた。
小さなもこもこは薄くて小さな舌で口元のそれをペロペロしている。
何も考えていないようにしか見えない、愛らしい表情だ。
ウチの子可愛すぎる――湧き上がる何かをこらえるように目を細め、リオが自身の手を退けようとすると、もこもこがハッとしたようにお目目を開き、小さな肉球で彼の手をテシ、と挟んだ。
「お手々もちっちゃい……」
かすれた声の新米ママが『ウチの子マジでヤバい』と瞳を潤ませた。
小さなもこもこが「クマちゃ、クマちゃ……」と一生懸命お口を動かし、彼に何かを伝えようとしている。
『クマちゃん、こっち……』と。
クマちゃんはトレイのこちら側がいいと思います、という意味のようだ。
「いやクマちゃんトレイ気に入り過ぎでしょ。そこ寝床じゃないんだけど」
新米ママリオちゃんは「しかも端がいいとか謎すぎるんだけど。寝るなら真ん中でいいじゃん」と可愛いもこもこがずっと硬い場所に寝転がっていることにぶつぶつと文句を言いつつ、小さな我が子の願いを叶えるため、水色のふわふわの布を取り出した。
右側だけふわふわになったトレイ。
準備が整うまでトレイの左側で彼の手に「クマちゃ、クマちゃ」とじゃれていた可愛いクマちゃんを「はいクマちゃんこっちふわふわになったよー」と、リオが移動させる。
快適になったトレイの上のクマちゃん。
もこもこは幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と言った。
『クマちゃ……』と。
これはいいトレイですね……、という意味のようだ。
「いや違いが分かんないんだけど」
素直な男が本音を滲ませる。『どれでもいい』と。
もこもこしたクマちゃんが「クマちゃ……」と黒髪の高貴な彼に声を掛けた。
『お兄ちゃ……』と。
クマちゃんの愛らしい声が聞こえていたらしい。
トレイの左側に闇色の球体が現れ、木製の皿を置いて行った。
「クマちゃんのケーキじゃん」
濃い木の色のトレイの右側に寝転がる、首元に赤いリボンを結んだ子猫のようなクマちゃん。左側に、クマちゃんの顔のような見た目の可愛らしいケーキが置かれている。
小さなもこもこがお目目をキリリ、とさせた真剣な表情で「クマちゃ、クマちゃ――」と言った。
『リオちゃ……クマちゃ、がんばる――』と。
リオちゃん、クマちゃんが頑張るところを見ていてください、という意味のようだ。
「いやめっちゃ見てるけど。つーかクマちゃん、起きないの?」
新米ママリオちゃんは動揺した。
可愛い我が子が頑張るから見ていてほしいと言ったのだ。見守らないわけがない。
しかし、何かをするならトレイの上でもこもこ寝転がるのを止め、一度立ち上がった方がいいような気もする。
彼の心配に気付かず、仰向けのもこもこが「クマちゃ!」と掛け声をかけ、右手をスッと移動させた。
子猫のようなもこもこと同じくらいの大きさの、お皿が置かれている方へ。
愛らしいもこもこの小さな肉球が、半分だけ、お皿の下に隠れた。
もこもこしたクマちゃんがもふっと口元を膨らませ、「クマちゃ……!」と凄く大変なことをしているもこもこのような声を出している。
「ごめんクマちゃんどこらへんが大変なのか全然分かんないんだけど」
失礼な金髪のかすれ声が響いた。
――どんな時ももこもこを愛し、応援しているもこもこのスポンサーが、金髪野郎に仕事中の暗殺者のような視線を飛ばしている。
ハッとしたリオが真剣な表情で呟く。
「今日寒くね……?」
本日の気温に対する感想が他の人間とはひと味違うリオ。
彼はテーブルに両手を突き、「クマちゃ……!」と何かを頑張っているのかもしれないもこもこを、上からじっと観察した。
もこもこはトレイの右側に仰向けで寝転がり、ケーキの載った皿の下に、小さくて愛らしい肉球を潜り込ませている。
寝転びながら片手間におもちゃ遊びをする猫のようだ。
よく見ると、お皿の下に入れたお手々に、少しだけ力が入っている。
お手々が小さいと、皿が大きく見える。
リオは思った。
今、何か引っかかるものを感じたような――。
トレイに並ぶ、ケーキ皿ともこもこ。
大きなケーキ皿と、子猫のような小さなもこもこ。
大皿を掴む小さな肉球。肉球の先にお手々。お手々の先にはクマちゃん。
小さなクマちゃんが、大きなお皿を、力の入ったお手々で掴んでいる。
もこもこしたお口がもこもこと動き「クマちゃ……! クマちゃ……!」と小さな声で呟いているのが分かった。
『クマちゃ……、頑張って……! クマちゃ……! 負けないで……!』と。
彼は気付いてしまった。
クマちゃんはトレイに寝転がったまま、重くて持てなくなってしまったケーキのお皿を運んでいるつもりなのだ。
小さくなった体で、皆にケーキを届ける方法を一生懸命考えたのだろう。
健気すぎる。なんて健気で愛らしいもこもこなのだろうか。
おそらく〝ケーキ皿を運んでいるつもりのクマちゃんが乗ったトレイ〟を運ぶのは自分だが、そんなことは気にならない。
我が子の愛らしさに感動した新米ママリオちゃんは、瞳を潤ませ「クマちゃん……、めっちゃ可愛い……!」と片手で口元を押さえた。
早く『クマちゃ……!』なこれを仲間達のもとへ配達しなければ――。
もこもこが運んでいるつもりになっているケーキを届ける前に、健気なもこもこの愛くるしさに殺られ、息絶えそうな男がいる。
その間ウィル達は「トレイの上で寝ているクマちゃんもとても愛らしいね。どこかへ運びたくなってしまうよ」「ああ」と、もこもこの可愛らしさを讃え、高貴な人外らしきお兄さんはまるで眠っているかのように目を瞑り、暗殺者のような氷職人は幼いもこもこが『クマちゃ……やったたい……』と驚き死んだふりをするほど大きな音を立ててしまったことを猛省し、気配を消していた。
リオが「えぇ……」と言いながら子もこもこを次のトレイに置いたときだった。
愛らしいもこもこの口元がもふっとなり、お目目が若干大きくなった。
まさか、この単純すぎる単純作業に単純でない問題が――?
「どしたのクマちゃん。疲れちゃった?」
リオが優しい声で尋ねる。
横になっていただけのもこもこが疲れるとも考えにくいが、クマちゃんは赤ちゃんだ。そのうえ、いつもよりも小さくなっているのだから、そういうこともあるだろう。
確かに、単純ではない問題である。
クマちゃんは先程と変わらずお昼寝中の子猫の格好のまま、仰向けでコロリと転がり、可愛い口元をもふっと膨らませている。
もふもふした口元が、もこもこと動いた。
トレイ鑑定士クマちゃんが幼く愛らしい声で「クマちゃ……!」と呟く。
『クマちゃ……!』と。
なんとなく、『これは……!』と言っているように聞こえなくもない。
「もしかして気に入った?」
リオはトレイの上のもこもこから両手を放し、丸くて可愛い頭をふわふわと撫でた。
小さなもこもこが「クマちゃ……」と頷く。
このトレイに決めたらしい。直径二もこもこ分くらいの大きさだろうか。
「お兄さんクマちゃんこれがいいって」
彼はよろず屋お兄さんを起こし『もこもこが選んだ最高のトレイはこれだ』と視線で最重要事項を伝えた。
小さなもこもこがもこもこした両手を胸元で交差し「クマちゃ――」と、何かを決意したもこもこのように静かに呟いている。
リオは格好をつけているらしいもこもこへ、冷めた視線を向けようとした。
小さなもこもこはつぶらな瞳で彼を見上げ、少しだけ首を傾げた。
(可愛い……口開いてるけど)
無理だ。可愛すぎて睨むことなど出来ない。
新米ママリオちゃんは「クマちゃんめっちゃ口あいてる」と優しく笑い、開いたままの我が子の口を、そっと指でつついた。
小さなもこもこは薄くて小さな舌で口元のそれをペロペロしている。
何も考えていないようにしか見えない、愛らしい表情だ。
ウチの子可愛すぎる――湧き上がる何かをこらえるように目を細め、リオが自身の手を退けようとすると、もこもこがハッとしたようにお目目を開き、小さな肉球で彼の手をテシ、と挟んだ。
「お手々もちっちゃい……」
かすれた声の新米ママが『ウチの子マジでヤバい』と瞳を潤ませた。
小さなもこもこが「クマちゃ、クマちゃ……」と一生懸命お口を動かし、彼に何かを伝えようとしている。
『クマちゃん、こっち……』と。
クマちゃんはトレイのこちら側がいいと思います、という意味のようだ。
「いやクマちゃんトレイ気に入り過ぎでしょ。そこ寝床じゃないんだけど」
新米ママリオちゃんは「しかも端がいいとか謎すぎるんだけど。寝るなら真ん中でいいじゃん」と可愛いもこもこがずっと硬い場所に寝転がっていることにぶつぶつと文句を言いつつ、小さな我が子の願いを叶えるため、水色のふわふわの布を取り出した。
右側だけふわふわになったトレイ。
準備が整うまでトレイの左側で彼の手に「クマちゃ、クマちゃ」とじゃれていた可愛いクマちゃんを「はいクマちゃんこっちふわふわになったよー」と、リオが移動させる。
快適になったトレイの上のクマちゃん。
もこもこは幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と言った。
『クマちゃ……』と。
これはいいトレイですね……、という意味のようだ。
「いや違いが分かんないんだけど」
素直な男が本音を滲ませる。『どれでもいい』と。
もこもこしたクマちゃんが「クマちゃ……」と黒髪の高貴な彼に声を掛けた。
『お兄ちゃ……』と。
クマちゃんの愛らしい声が聞こえていたらしい。
トレイの左側に闇色の球体が現れ、木製の皿を置いて行った。
「クマちゃんのケーキじゃん」
濃い木の色のトレイの右側に寝転がる、首元に赤いリボンを結んだ子猫のようなクマちゃん。左側に、クマちゃんの顔のような見た目の可愛らしいケーキが置かれている。
小さなもこもこがお目目をキリリ、とさせた真剣な表情で「クマちゃ、クマちゃ――」と言った。
『リオちゃ……クマちゃ、がんばる――』と。
リオちゃん、クマちゃんが頑張るところを見ていてください、という意味のようだ。
「いやめっちゃ見てるけど。つーかクマちゃん、起きないの?」
新米ママリオちゃんは動揺した。
可愛い我が子が頑張るから見ていてほしいと言ったのだ。見守らないわけがない。
しかし、何かをするならトレイの上でもこもこ寝転がるのを止め、一度立ち上がった方がいいような気もする。
彼の心配に気付かず、仰向けのもこもこが「クマちゃ!」と掛け声をかけ、右手をスッと移動させた。
子猫のようなもこもこと同じくらいの大きさの、お皿が置かれている方へ。
愛らしいもこもこの小さな肉球が、半分だけ、お皿の下に隠れた。
もこもこしたクマちゃんがもふっと口元を膨らませ、「クマちゃ……!」と凄く大変なことをしているもこもこのような声を出している。
「ごめんクマちゃんどこらへんが大変なのか全然分かんないんだけど」
失礼な金髪のかすれ声が響いた。
――どんな時ももこもこを愛し、応援しているもこもこのスポンサーが、金髪野郎に仕事中の暗殺者のような視線を飛ばしている。
ハッとしたリオが真剣な表情で呟く。
「今日寒くね……?」
本日の気温に対する感想が他の人間とはひと味違うリオ。
彼はテーブルに両手を突き、「クマちゃ……!」と何かを頑張っているのかもしれないもこもこを、上からじっと観察した。
もこもこはトレイの右側に仰向けで寝転がり、ケーキの載った皿の下に、小さくて愛らしい肉球を潜り込ませている。
寝転びながら片手間におもちゃ遊びをする猫のようだ。
よく見ると、お皿の下に入れたお手々に、少しだけ力が入っている。
お手々が小さいと、皿が大きく見える。
リオは思った。
今、何か引っかかるものを感じたような――。
トレイに並ぶ、ケーキ皿ともこもこ。
大きなケーキ皿と、子猫のような小さなもこもこ。
大皿を掴む小さな肉球。肉球の先にお手々。お手々の先にはクマちゃん。
小さなクマちゃんが、大きなお皿を、力の入ったお手々で掴んでいる。
もこもこしたお口がもこもこと動き「クマちゃ……! クマちゃ……!」と小さな声で呟いているのが分かった。
『クマちゃ……、頑張って……! クマちゃ……! 負けないで……!』と。
彼は気付いてしまった。
クマちゃんはトレイに寝転がったまま、重くて持てなくなってしまったケーキのお皿を運んでいるつもりなのだ。
小さくなった体で、皆にケーキを届ける方法を一生懸命考えたのだろう。
健気すぎる。なんて健気で愛らしいもこもこなのだろうか。
おそらく〝ケーキ皿を運んでいるつもりのクマちゃんが乗ったトレイ〟を運ぶのは自分だが、そんなことは気にならない。
我が子の愛らしさに感動した新米ママリオちゃんは、瞳を潤ませ「クマちゃん……、めっちゃ可愛い……!」と片手で口元を押さえた。
早く『クマちゃ……!』なこれを仲間達のもとへ配達しなければ――。
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