クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~ほんとは猫なんじゃないの?~

猫野コロ

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第231話 南国のおもてなしとは。常に幸せな彼ら。

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 鮮やかな花々で着飾った美しいクマちゃんは現在、お客様のおもてなしをしている。

 そういえば、彼らはお風呂に入ったばかりなのだった。
 彼らはクマちゃんみたいにふわふわではない。

 うむ。湯冷めしないよう、温かくしたほうがいいだろう。



 リオちゃんが作った素敵なスイカの器からスッと出たクマちゃんは肉球でスッとバーカウンターを指した。


「ヤベークマちゃんめっちゃドキドキしてるっぽい」

 荒ぶる半球の器からスッと助け出したもこもこの荒ぶる鼓動が、リオの手の平を通して伝わってくる。
 小さな心臓がクマクマしている――。
 もしかしたら今はスイカの器から離れたいのかもしれない。

「クマちゃんもう大丈夫だよー。怖いスイカ隠しとくからねー」

 村長リオは『からねー』と言いつつ片手で届く範囲に器をスッと押しやり、もこもこを抱いたまま立ち上がった。

「あっち? カウンター?」

 我が子と我が子の心臓を心配したリオ。
 我が子だけに優しい声をかけつつ、客の前から消える。
 
 硬い床に座っているお客様達の周りでは、カチャカチャという音を鳴らす硬いほうのクマが松明を掲げウロウロしていた。  


「クマちゃ……」

『リオちゃ、これちゃ……』

 リオちゃんこれを持っていきましょう……、という意味のようだ。

「これ欲しいの? いくつ? いや肉球じゃ分かんないから」

 村長は副村長の猫のようなお手々を「これは可愛くてヤバい肉球ですねー」と見つめ

「分かった。十五でしょ」頭を過った数字を口にした。

 ――違うような気がするのだけれど――。

 ――三だろ――。

 壁のない室内に響く助言。

「完璧じゃね?」

 話を聞かない自信満々な村長。
 副村長の願いを完璧に理解したらしい村長はカウンターからそれを十五枚取り、客の方へ戻った。

 ――あ~……客の数も三だからな……――。

 ――…………――。


「クマちゃんこれどうすんの? どっか飾る?」

 副村長の言いなりな村長がもこもこに尋ねた。 

 心優しい副村長が「クマちゃ、クマちゃ……」と子猫のような声でお客様をおもてなす。

『どうぞちゃん、ひざかけちゃ……』

 クマちゃんとリオちゃんが温かいひざかけを持ってきましたよ、どうぞお掛けください……、という意味のようだ。 

「クマちゃんこれひざには掛けにくいと思うんだけど」

 と言いつつ副村長に逆らわない村長。
 お客様へバナナの葉を渡す。

「ハイ。ひとり五枚」

 村長による公平な分配。
 保温されてゆくお客様の膝。

 バサバサ感のあるお客様の周りで、松明を持ったクマの兵隊が彼らを見張るようにウロウロしている。

 副村長クマちゃんがハッとしたように「クマちゃ……」と言った。

『南国ちゃん……』

 とても南国っぽいですね……、という意味のようだ。

「そっかぁ」

 南国を良く知らないリオが雑な相槌を打つ。
 可愛いクマちゃんが『クマちゃ……』というならそうなのかもしれない。


「クマちゃんお茶は?」

 リオはもこもこを撫でながら尋ねた。
 そもそもお茶をどうにかするのではなかったのか。

「クマちゃ……」

 深く頷いたクマちゃんが、肉球で芸術作品を指した。

「あれ並べんの? 中身入ってないけど」

 リオは素晴らしい作品の中から、ヤシの実で作ったように見える器を三つ手元に引き寄せた。
 ――素材は粘土と砂である。

 副村長クマちゃんがそれらの前をヨチヨチ、ヨチヨチと左右に歩く。
 
 ハッとしたように短い足を止めたクマちゃんは「クマちゃ……」と頷き、鞄から杖を取り出した。



 リオの前にはヤシの実風容器の小さくなったものが五つ並んでいる。
 副村長が魔法で小さくしたり増やしたりしたものだ。

「ちっちゃい」

 ひとつを片手にのせ「なんか可愛いような気がする」かすれ声で呟く。

 愛らしい副村長がお手々に何かを持って「クマちゃ……」と近付いて来た。
 芸術作品の一つ、木製にみえるお玉だ。
 ――素材は粘土と砂である。

 村長は『クマちゃ……』を警戒し、声を掛けた。 

「クマちゃんジュース持ってこようか?」

 副村長は村長の気遣いを「クマちゃ……」と断り、コロンとした器の上で小さなお玉を傾けた。

 何も入っていないはずのお玉から、チョロチョロ――と白い液体が出てくる。

「ぜったい牛乳」

 器に白いものが入り、村長の『ぜったい』に力が入った。
 牛乳だ。間違いない。

 ――白いのは本当に牛乳が好きだな……――。

 誰かの渋い、切なげな声が響いた。


 差し出されたお玉。

「なに?」

 村長が小さなお玉を預かり――
副村長が鞄をあさる。

 掲げられた肉球。

 見覚えのある小枝。

 枝が牛乳に差し込まれ――
副村長が素早く混ぜる。

 ――チャチャチャチャチャ――。

「めっちゃこぼれてんだけど」指摘と牛乳が飛ぶ。
 
 真剣な表情の副村長が、スッと肉球を止めた。

 ムニ――。
 クマちゃんは両手で器を掴み――それを彼へと差し出した。

「え、俺にくれんの?」

 リオは驚き、クマちゃんを見つめた。
 
 つぶらな瞳のクマちゃんが愛らしく彼を見上げている。

「クマちゃ……」

『リオちゃ、どうぞちゃ……』


 クマちゃんは上手に点てられたお茶を、仲良しなリオちゃんに一番最初に飲んでもらいたいらしい。
 
「クマちゃん……ありがとー」

 可愛すぎる。ヤバい。
 リオは一瞬目が潤みかけたが、客がこちらを見ている。
 人前で泣くわけにはいかない。

『何という深い絆……』
『感動しました……』
『涙が止まりません……』

 バナナの葉で保温された客が泣いている。
 仲良しすぎる一人と一匹に感動してしまったらしい。


 客を視界から排除したリオは『この枝邪魔なんだけど……』という思いも排除した。
 愛らしいもこもこの大事な枝だ。
 少しくらい刺さっても構わない。

 リオは可愛いクマちゃんが謎の枝で混ぜてくれた牛乳を飲んだ。

「クマちゃんこれめっちゃ美味い。南国っぽい味」

 リオは嬉しそうに笑い、心配そうに彼を見上げるもこもこを抱き上げた。
 
 肉球でサッと口元を押さえたクマちゃんは、愛らしい声で「クマちゃ、クマちゃ……」と答えた。

『ココちゃん、茶柱ちゃん……』

 ココナッツ風味の牛乳です。すごい茶柱ですね。村長にはきっと良いことがありますよ……、という意味のようだ。

「よくわかんないけどクマちゃんめっちゃ可愛い。……良いことってこれじゃね?」


 幸せそうな彼らを見つめ、号泣するお客様達。
 壁のない室内には、松明とバナナの葉におもてなされている彼らの、幸せそうな拍手の音が響いていた。
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