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第268話 冒険者とは。赤ちゃんクマちゃんの解釈。「えぇ……」
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現在クマちゃんは大好きなルークの腕の中にいる。
このまま一階へ戻るべきである。
◇
「リーダーまたすぐ帰ってくるし、一緒にここでまってよ。ほら、クマちゃん何かやることあるって言ってなかったっけ」
南国風民家の二階。ずらりと並んだドアの前では――クマちゃーん――という愛らしい鳴き声が響き渡っていた。
ルークと離れたくないクマちゃんが彼の腕にしがみつき鳴いているのだ。
魔王のような男は表情を変えず、愛しのもこもこを大きな手で包み込むように撫でている。
ウィルとクライヴ、マスターはもこもこの声を聞きながら「とても愛らしいね。仕事に行きたくなくなってしまうよ。僕たちもここで働いたらいいのではない?」「――――」「クライヴ。布市場で働こうとするのは止めろ。あそこに戦闘員は必要ない」新しい仕事について話し合っていた。
仲良しなリオちゃんの『クマちゃん――やることある――ケ』を聞いたクマちゃんはハッとした。
いまのクマちゃんはただ悲しむだけで、お別れせずに済む方法を探していない。
『行かないでください』と言う前に、『やること』があるのではないだろうケ。
◇
リオは突然ぴたりと鳴きやんだもこもこを見つめ、今ならいけると思った。
ルークにしがみつくもこもこへそっと手を伸ばす。
だが彼の手が届く前に、もこもこの愛らしい声が響いた。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、冒険ちゃやるケ……』
クマちゃんはルークと一緒に冒険ちゃをやろうと思いますケ……、という意味のようだ。
「いやクマちゃん戦えないし。『冒険ちゃ』は無理だから。ほらおいでー。めっちゃもこもこー」
リオは『やるケ』をスッと躱し、もこもこを抱き上げた。
おっとりしているもこもこは、もこもこもこもこ撫でまわすリオの手に「クマちゃ……」と湿ったお鼻をくっつけ可愛らしくお返しをしている。
「クマちゃん可愛い……めっちゃお鼻濡れてる……」彼は幸せを嚙みしめ、仲間達に告げた。
「早く行って」
「ああ」
「うーん。断りたいけれど、可愛いクマちゃんを危険なところへ連れて行くわけにはいかないからね」
「――――」
「クライヴ。露天風呂にも敵はいない」
彼らは見た目の同じドアから湖につながるものを選ぶと、午後の仕事へと戻っていった。
――クマちゃーん――。
ドアの並ぶ部屋に、別れを悲しむ声が響く。
「いやクマちゃんリーダー達マジですぐに戻ってくるから。いちいち悲しみすぎでしょ」
リオはもこもこを雑になだめると、一階へ降りるため魔法陣に乗った。
下にはお兄さんもいる。寂しくはないだろう。
◇
もこもこの別れの儀に参加しなかったお兄さんは、真っ赤なシーツが敷かれたベッドで横になっていた。
リオは彼を見ながら思った。
置いたのは自分だが、中央のテーブルは気にならないのだろうか。
お腹にもこもこを乗せ円形祭壇風魔法陣ベッドに寝転がり「クマちゃんお昼寝する?」と優しく尋ねる彼の耳に、子猫がミィミィ鳴くような「クマちゃ、クマちゃ……」が聞こえた。
『冒険ちゃ、おちゃかパ……』
クマちゃんが冒険ちゃになるために必要なものは、やはり『おちゃかパ』でしょうね……、という意味のようだ。
冒険ちゃを目指すもこもこはヨチヨチ、ヨチヨチと彼の体の上を歩いている。
「おちゃかパ……? 冒険者に必要な『おちゃかパ』ってなに。……まさか酒場のことじゃないよね」
自力で答えに辿り着いたリオは「えぇ……。その酒場絶対お茶しか出てこないやつでしょ。つーか『パ』も怪しいんだけど」独り言を呟きながらガラスと植物の天井の、どこから射しているのか分からない木漏れ日を見ていた。
赤ちゃんクマちゃんの『冒険ちゃ説明会』は「クマちゃ、クマちゃ……」と続く。
『お店ちゃ、カウンターちゃん……』
まずはお店とカウンターに、素敵な看板ちゃんを設置しましょう……、という意味のようだ。
「クマちゃんそれより何か作ってたやつあったじゃん。『暮らしの手引きちゃん』だっけ」
村長はもこもこした副村長に『もこもこしているあなたにはやるべきことがある――』と告げた。
赤ちゃんクマちゃんに『冒険ちゃの看板ちゃん』など必要ない。
別のことで忙しくなれば、そのうち忘れるだろう。
副村長のお仕事を思い出してしまったクマちゃんがもこもこしたお口にサッと両手の肉球を当て「クマちゃ……!」と言うと、
「――クマには部下がいるだろう」
寝ていたはずの彼が頭の中に声を響かせた。
「クマちゃ……!」
『部下ちゃん……!』
「お兄さん起きてたんだ……」
不思議なお告げを喜ぶ声と、そうでもない声が上がる。
制止する間も無くベッドの周りに闇色の球体が現れ、そこからクマちゃんの小さな部下達がトトト、と出てきた。
小玉スイカのような猫と、彼らに騎乗したクマの兵隊さん達だ。
「んじゃこれクマちゃんの『お客さん』達に渡してきて」
リオは仕方なくもこもこの作った『暮らしの手引きちゃん』を兵隊達に持たせた。
はじめから若干クシャクシャな紙をそれ以上皺にならないようにくるくると丸め、よろず屋お兄さんから貰ったリボンで結んだものだ。
「クマちゃんお店行く?」
「クマちゃ……」
部下達がトトト、と出て行くのを見送り、彼らも行動を開始した。
◇
店に到着したクマちゃんは、早速魔法で素敵な看板を作った。
一つ目は店の上。
『クマちゃんリオちゃんレストラン』と『何か』が書かれた看板。
もう一つはカウンターの上に置かれた小さな黒板だ。
そこには幼い子供が書いたような文字で
『冒険ちゃのおちゃかパ』
と可愛らしく記されていた。
店の看板の隅に書かれたものと同じ文言だ。
「…………」
リオは可愛らしいがあまり関わりたくはないそれの後ろに、何故か店に戻ってきていた『何かの陰からこちらを覗く可愛いクマちゃん像』を置いた。
『看板の裏から様子をうかがうクマちゃん』の完成である。
ここしかない、という位置だ。
「完璧すぎる……」と呟くリオに「クマちゃ……」と寂しそうな声がかかる。
「どしたのクマちゃん」
彼が視線を向けると、両手を前に伸ばしたクマちゃんはヨチヨチ! と看板の裏へ駆け込み、像が置かれていない方から遠慮がちにお顔を出した。
本物の『看板の裏から様子をうかがうクマちゃん』である。
もこもこは小さな声で「クマちゃ……」と彼を呼んだ。
『リオちゃ……』と。
「なにそれ可愛すぎでしょ」
心臓をもこもこにやられた新米ママは、我が子の愛くるしさに慄き、鼻の上に皺を寄せた。
危険な可愛らしさだ。可愛すぎて誘拐されてしまうかもしれない。
赤ちゃん帽を被ったクマちゃんは看板にちょっとだけ体を隠し、つぶらな瞳で彼を見ている。
リオは寂しげな瞳で彼を呼ぶもこもこをすぐに抱き上げた。
「クマちゃん可愛い。めっちゃもこもこ」
新米ママは目を細め、可愛いもこもこの頭に鼻先を付けた。
帽子の上からでももこもこしているのが分かる。
そしてクマちゃん専用お肌に優しい高級石鹼の香りがする。
なんか落ち着く……、とそのまま動かない彼に「クマちゃ、クマちゃ……」と愛らしい声が掛けられた。
『さっそくちゃ、依頼ちゃん……』
では早速今日の依頼ちゃんを確認してみましょう……、という意味のようだ。
「なに『依頼ちゃん』て。誰からの依頼? お兄さんじゃないよね? めっちゃ怖いんだけど」
顔を上げたリオは店内のテーブル席でくつろぐお兄さんへサッと視線を向けた。
高位な存在なら自身の力でなんでもできるだろう。
わざわざ他者へ依頼するようなことなど、人の手に負えるものではない。
◇
艶のある美しい木製カウンター。そこに置かれた怪しい看板の横。
赤ちゃん帽を被ったもこもこがプキュ、プキュ、と赤地に白い水玉模様のキノコを拭いている。
「クマちゃ、クマちゃ……」
愛らしいもこもこの愛らしい声が響く。
『きょうちゃ、依頼ちゃん……』
今日の依頼ちゃんは……、と格好良く呟いているつもりのようだ。
「…………」
リオは鼻の上に皺を寄せたままカウンター席に座り、もこもこの言葉を待っていた。
片肘を突きその手に顎をのせながら、目の前でキノコを拭く子猫のようなクマちゃんを見ている。
もこもこはお魚さんの鞄にキノコと布巾を仕舞うと、代わりに手帳のようなものを取り出した。
猫のようなお手々で手帳を広げ、ふんふん、ふんふん、と湿ったお鼻を鳴らし、そこに書かれているらしい何かを読んでいる。
よく見ると、小さな手帳の裏には『冒険ちゃクマちゃんの手帳』と書かれていた。
店の一角に、冒険ちゃクマちゃんの愛らしい声が響く。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『依頼者ちゃ、お名前ちゃん……』
本日の依頼者ちゃんのお名前ちゃんは、リオちゃんですね……、という意味のようだ。
「その依頼取り消しといて」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『ご依頼ちゃ、内容ちゃん……』
ご依頼内容は……『伝説のつるぎ』が欲しい――、と書いてありますね……
と冒険ちゃクマちゃんは『冒険ちゃ手帳』に書かれているらしいそれを読み上げている。
「そいつ出禁にしよ」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、頑張るちゃん……』
もこもこした冒険ちゃは完全にくっついていた手帳からもこもこのお顔を離し、目の前の彼に告げた。
それは、『初めてのご依頼ですね……、クマちゃんは一生懸命頑張るので待っていてください……』と言っているように聞こえた。
「めっちゃ可愛い」ともこもこした冒険ちゃを見つめていた依頼者リオも、一応言葉を返した。
「取り消しで」
このまま一階へ戻るべきである。
◇
「リーダーまたすぐ帰ってくるし、一緒にここでまってよ。ほら、クマちゃん何かやることあるって言ってなかったっけ」
南国風民家の二階。ずらりと並んだドアの前では――クマちゃーん――という愛らしい鳴き声が響き渡っていた。
ルークと離れたくないクマちゃんが彼の腕にしがみつき鳴いているのだ。
魔王のような男は表情を変えず、愛しのもこもこを大きな手で包み込むように撫でている。
ウィルとクライヴ、マスターはもこもこの声を聞きながら「とても愛らしいね。仕事に行きたくなくなってしまうよ。僕たちもここで働いたらいいのではない?」「――――」「クライヴ。布市場で働こうとするのは止めろ。あそこに戦闘員は必要ない」新しい仕事について話し合っていた。
仲良しなリオちゃんの『クマちゃん――やることある――ケ』を聞いたクマちゃんはハッとした。
いまのクマちゃんはただ悲しむだけで、お別れせずに済む方法を探していない。
『行かないでください』と言う前に、『やること』があるのではないだろうケ。
◇
リオは突然ぴたりと鳴きやんだもこもこを見つめ、今ならいけると思った。
ルークにしがみつくもこもこへそっと手を伸ばす。
だが彼の手が届く前に、もこもこの愛らしい声が響いた。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、冒険ちゃやるケ……』
クマちゃんはルークと一緒に冒険ちゃをやろうと思いますケ……、という意味のようだ。
「いやクマちゃん戦えないし。『冒険ちゃ』は無理だから。ほらおいでー。めっちゃもこもこー」
リオは『やるケ』をスッと躱し、もこもこを抱き上げた。
おっとりしているもこもこは、もこもこもこもこ撫でまわすリオの手に「クマちゃ……」と湿ったお鼻をくっつけ可愛らしくお返しをしている。
「クマちゃん可愛い……めっちゃお鼻濡れてる……」彼は幸せを嚙みしめ、仲間達に告げた。
「早く行って」
「ああ」
「うーん。断りたいけれど、可愛いクマちゃんを危険なところへ連れて行くわけにはいかないからね」
「――――」
「クライヴ。露天風呂にも敵はいない」
彼らは見た目の同じドアから湖につながるものを選ぶと、午後の仕事へと戻っていった。
――クマちゃーん――。
ドアの並ぶ部屋に、別れを悲しむ声が響く。
「いやクマちゃんリーダー達マジですぐに戻ってくるから。いちいち悲しみすぎでしょ」
リオはもこもこを雑になだめると、一階へ降りるため魔法陣に乗った。
下にはお兄さんもいる。寂しくはないだろう。
◇
もこもこの別れの儀に参加しなかったお兄さんは、真っ赤なシーツが敷かれたベッドで横になっていた。
リオは彼を見ながら思った。
置いたのは自分だが、中央のテーブルは気にならないのだろうか。
お腹にもこもこを乗せ円形祭壇風魔法陣ベッドに寝転がり「クマちゃんお昼寝する?」と優しく尋ねる彼の耳に、子猫がミィミィ鳴くような「クマちゃ、クマちゃ……」が聞こえた。
『冒険ちゃ、おちゃかパ……』
クマちゃんが冒険ちゃになるために必要なものは、やはり『おちゃかパ』でしょうね……、という意味のようだ。
冒険ちゃを目指すもこもこはヨチヨチ、ヨチヨチと彼の体の上を歩いている。
「おちゃかパ……? 冒険者に必要な『おちゃかパ』ってなに。……まさか酒場のことじゃないよね」
自力で答えに辿り着いたリオは「えぇ……。その酒場絶対お茶しか出てこないやつでしょ。つーか『パ』も怪しいんだけど」独り言を呟きながらガラスと植物の天井の、どこから射しているのか分からない木漏れ日を見ていた。
赤ちゃんクマちゃんの『冒険ちゃ説明会』は「クマちゃ、クマちゃ……」と続く。
『お店ちゃ、カウンターちゃん……』
まずはお店とカウンターに、素敵な看板ちゃんを設置しましょう……、という意味のようだ。
「クマちゃんそれより何か作ってたやつあったじゃん。『暮らしの手引きちゃん』だっけ」
村長はもこもこした副村長に『もこもこしているあなたにはやるべきことがある――』と告げた。
赤ちゃんクマちゃんに『冒険ちゃの看板ちゃん』など必要ない。
別のことで忙しくなれば、そのうち忘れるだろう。
副村長のお仕事を思い出してしまったクマちゃんがもこもこしたお口にサッと両手の肉球を当て「クマちゃ……!」と言うと、
「――クマには部下がいるだろう」
寝ていたはずの彼が頭の中に声を響かせた。
「クマちゃ……!」
『部下ちゃん……!』
「お兄さん起きてたんだ……」
不思議なお告げを喜ぶ声と、そうでもない声が上がる。
制止する間も無くベッドの周りに闇色の球体が現れ、そこからクマちゃんの小さな部下達がトトト、と出てきた。
小玉スイカのような猫と、彼らに騎乗したクマの兵隊さん達だ。
「んじゃこれクマちゃんの『お客さん』達に渡してきて」
リオは仕方なくもこもこの作った『暮らしの手引きちゃん』を兵隊達に持たせた。
はじめから若干クシャクシャな紙をそれ以上皺にならないようにくるくると丸め、よろず屋お兄さんから貰ったリボンで結んだものだ。
「クマちゃんお店行く?」
「クマちゃ……」
部下達がトトト、と出て行くのを見送り、彼らも行動を開始した。
◇
店に到着したクマちゃんは、早速魔法で素敵な看板を作った。
一つ目は店の上。
『クマちゃんリオちゃんレストラン』と『何か』が書かれた看板。
もう一つはカウンターの上に置かれた小さな黒板だ。
そこには幼い子供が書いたような文字で
『冒険ちゃのおちゃかパ』
と可愛らしく記されていた。
店の看板の隅に書かれたものと同じ文言だ。
「…………」
リオは可愛らしいがあまり関わりたくはないそれの後ろに、何故か店に戻ってきていた『何かの陰からこちらを覗く可愛いクマちゃん像』を置いた。
『看板の裏から様子をうかがうクマちゃん』の完成である。
ここしかない、という位置だ。
「完璧すぎる……」と呟くリオに「クマちゃ……」と寂しそうな声がかかる。
「どしたのクマちゃん」
彼が視線を向けると、両手を前に伸ばしたクマちゃんはヨチヨチ! と看板の裏へ駆け込み、像が置かれていない方から遠慮がちにお顔を出した。
本物の『看板の裏から様子をうかがうクマちゃん』である。
もこもこは小さな声で「クマちゃ……」と彼を呼んだ。
『リオちゃ……』と。
「なにそれ可愛すぎでしょ」
心臓をもこもこにやられた新米ママは、我が子の愛くるしさに慄き、鼻の上に皺を寄せた。
危険な可愛らしさだ。可愛すぎて誘拐されてしまうかもしれない。
赤ちゃん帽を被ったクマちゃんは看板にちょっとだけ体を隠し、つぶらな瞳で彼を見ている。
リオは寂しげな瞳で彼を呼ぶもこもこをすぐに抱き上げた。
「クマちゃん可愛い。めっちゃもこもこ」
新米ママは目を細め、可愛いもこもこの頭に鼻先を付けた。
帽子の上からでももこもこしているのが分かる。
そしてクマちゃん専用お肌に優しい高級石鹼の香りがする。
なんか落ち着く……、とそのまま動かない彼に「クマちゃ、クマちゃ……」と愛らしい声が掛けられた。
『さっそくちゃ、依頼ちゃん……』
では早速今日の依頼ちゃんを確認してみましょう……、という意味のようだ。
「なに『依頼ちゃん』て。誰からの依頼? お兄さんじゃないよね? めっちゃ怖いんだけど」
顔を上げたリオは店内のテーブル席でくつろぐお兄さんへサッと視線を向けた。
高位な存在なら自身の力でなんでもできるだろう。
わざわざ他者へ依頼するようなことなど、人の手に負えるものではない。
◇
艶のある美しい木製カウンター。そこに置かれた怪しい看板の横。
赤ちゃん帽を被ったもこもこがプキュ、プキュ、と赤地に白い水玉模様のキノコを拭いている。
「クマちゃ、クマちゃ……」
愛らしいもこもこの愛らしい声が響く。
『きょうちゃ、依頼ちゃん……』
今日の依頼ちゃんは……、と格好良く呟いているつもりのようだ。
「…………」
リオは鼻の上に皺を寄せたままカウンター席に座り、もこもこの言葉を待っていた。
片肘を突きその手に顎をのせながら、目の前でキノコを拭く子猫のようなクマちゃんを見ている。
もこもこはお魚さんの鞄にキノコと布巾を仕舞うと、代わりに手帳のようなものを取り出した。
猫のようなお手々で手帳を広げ、ふんふん、ふんふん、と湿ったお鼻を鳴らし、そこに書かれているらしい何かを読んでいる。
よく見ると、小さな手帳の裏には『冒険ちゃクマちゃんの手帳』と書かれていた。
店の一角に、冒険ちゃクマちゃんの愛らしい声が響く。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『依頼者ちゃ、お名前ちゃん……』
本日の依頼者ちゃんのお名前ちゃんは、リオちゃんですね……、という意味のようだ。
「その依頼取り消しといて」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『ご依頼ちゃ、内容ちゃん……』
ご依頼内容は……『伝説のつるぎ』が欲しい――、と書いてありますね……
と冒険ちゃクマちゃんは『冒険ちゃ手帳』に書かれているらしいそれを読み上げている。
「そいつ出禁にしよ」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、頑張るちゃん……』
もこもこした冒険ちゃは完全にくっついていた手帳からもこもこのお顔を離し、目の前の彼に告げた。
それは、『初めてのご依頼ですね……、クマちゃんは一生懸命頑張るので待っていてください……』と言っているように聞こえた。
「めっちゃ可愛い」ともこもこした冒険ちゃを見つめていた依頼者リオも、一応言葉を返した。
「取り消しで」
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