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第404話 あちこちから寄ってくるもこもこ達。まったくスムーズに進まないお菓子の豪邸づくり。ご帰還の早い魔王様達。
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現在クマちゃんはお友達の『お菓子のお家ちゃん』を『お菓子の豪邸ちゃん』にレベルアップするため、せっせと肉球を動かしている。
◇
クマちゃんが『クマちゃんリオちゃんレストラン』でお友達の生徒会役員達と語らい、『クマちゃんリオちゃんパーク』で遊びましょうと話していた頃。
クマちゃん達と別れ、関係者以外立ち入り禁止の区画、最奥に位置する自身の部屋に残ったマスターは、書類を片付けつつ、それぞれの部署や研究室から苦情を聞いたり、相談を受けたり、『仕事を辞めてもこもこ王のおわすお菓子の国に移住したい』等の戯言を聞き流したりと、眉間に深い皺を寄せながら真面目に仕事をこなしていた。
「マスター。お客様が応接室でお待ちです~」
「ん? 今度は誰だ」
「商業ギルドのマスターです~」
「……あ~、分かった。すぐに行く」
マスターは今のやりとりだけで、先程帰ったばかりのリカルドに何か問題が起こったことを察した。
『さては、別人だと疑われて中に入れなかったんじゃねぇか?』と。
◇
「お忙しいところ、何度も申し訳ありません……」
「それは構わんが……見た目のことで何か言われたか?」
「何故それを……」
とリカルドは驚いていたが、マスターからすれば『さもありなん』といったところだ。出かけて数時間もしないうちに別人のように若返った人間が帰ってくれば、『親戚』あるいは『他人の空似』と、本人ではないことを疑う輩も当然でてくるだろう。
(とはいえ調べもせずに追い返すのも極端だが……。元の姿に戻してくれってこたぁねぇだろう。……なら、ここに来たのは別件か?)
そうしてマスターは、癒しのもこもこがいる冒険者ギルドではありえない『よそのギルドの事情』を聞いた。
『自身の声で何度も本人であると告げ、服装も変えていないというのに何故か偽者だと思われている』
『魔道具の管理をしている職員が集団で風邪に罹患したせいで、ギルドカードによる本人確認ができない』
『その風邪すらも偽者である自分が仕組んだのではないかと、とんでもない言いがかりを付けられている』
聞いているだけで頭が痛くなってくる話を口を挟まず最後まで聞いたところによると、つまり『表に出しても問題のない〝即効性の風邪薬〟か、それに近いものがあれば売っていただけると大変助かるのですが……』ということらしい。
『心優しい子猫には迷惑を掛けたくないので、不都合があるなら自分でなんとかいたします』
リカルドはそう言っているが、放っておくわけにはいかないだろう。
マスターはこめかみを揉んでから「あ~、調べてくるから少し待っててくれるか……」と悪役顔の美形に告げ、自身の執務室前に設置されている魔法陣でもこもこのもとへと移動した。
◇
マスターが急ぎ足でレストランに入ってきたのは、クマちゃん達が『クマちゃんリオちゃんパーク』へ移動する直前であった。
「クマちゃ……」
『まちゅた……』
「白いの、友達と遊んでたのか」
甘えて抱っこをねだるクマちゃんを、彼はすぐに抱き上げ、優しい手つきで撫でた。
クマちゃんがマスターに会えた喜びでふんふんふん……ふんふんふん……と湿ったお鼻を鳴らす。
そうしてマスターの指を子猫によく似たお手々で捕まえると、はぐはぐあぐあぐにゃしにゃし……と硬いおやつをかじる猫ちゃんのような顔で甘く嚙みしめた。
お友達の生徒会役員達は石像のように動かず、ひたすらクマちゃんの可愛すぎる獣フェイスを凝視している。『ガン見』というやつだ。
「あれ、マスター仕事辞めた系?」
「そんなわけあるか! 白いのに少し聞きたいことがあってな」
マスターはリオに対して顔を顰めてみせてから、愛らしいクマちゃんにいくつか質問をした。
そしてもこもこから『問題の解決に役立つもの』と、おまけの『健康クマちゃんグッズ・肩用』を受け取り、感謝の言葉と共に何度か丸い頭を撫でると、すぐに仕事場へ戻っていった。
◇
さきほどのマスターとクマちゃんのやりとりを珍しく黙って聞いていたリオは、『クマちゃんリオちゃんパーク』へ向かいつつ、不思議に思ったことを尋ねた。
「牛乳薄めて飲んだら不味くね?」
クマちゃんの作った『凄すぎる回復薬』、別名『甘すぎる牛乳』をそのまま外部の人間に飲ませるわけにはいかないというマスターの心配は分からなくもない。
でもだからといって『あの牛乳は薄めて飲んでも効果があるのか? 風邪をひいた奴らに飲ませたいんだが……』というのはどうなのか。
水っぽくて甘すぎる牛乳を風邪っぴきの口にぶちこめば別の事件が起きる気がするが。
それを聞いた生徒会役員達も、それぞれの感想を述べる。
「うーん……私は氷を入れて飲むということもしたことがないですね」
「俺も普通に飲んだことしかないっす」
「そもそも何故薄める必要があるんですか?」
クマちゃんは「クマちゃ……」と頷いた。
そのまま薄めたらおいちくないちゃ……と。
何でも知っているクマちゃんせんせいは、続けて『牛乳のおいしい薄め方』『風邪に効く』それを教えてくれた。
――なお、ミステリアスな生き物クマちゃん先生の言葉が真実かどうかは誰にも分からない。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『ふるーちゅちゃ、牛乳ちゃ……』
「フルーツ牛乳ちゃん? あー、イチゴ牛乳みたいなやつ? なるほどぉ」
リオは牛乳の上にプカプカと浮かんだ様々な果物を思い浮かべて適当すぎる相槌を打ち、「クマちゃん凄いねぇ。じゃああとでみんなで飲もー」と言いながら、後ろを振り返った。
「そこにあるすげーでかいのが『クマちゃんパーク』ね」
「クマちゃ……」
クマちゃんが彼の言葉を訂正する。
『クマちゃんリオちゃんパーク』ちゃんでちゅ……と。
しかしいきなりとんでもないものを見せられてしまった生徒会役員達は『天界に突如現れた白亜の城下町』をポカーンと眺めるばかりであった。
『昨日まではありませんでしたよね……』と。
◇
生徒会役員達が呆然としたまま連れてこられたのは、さらに驚くべき場所だった。
彼らは『クマちゃんリオちゃんパーク』内の芸術的で美しい建物だけでも十分頭と胸がいっぱいになっていた。
にもかかわらず、金の守護者から『ここ入って』と言われ、逆らうことなく従うと、何故か煌びやかで色鮮やかな〝海底都市と思しき地〟が、彼らの視界にキラキラと飛び込んできたのだ。
建物内に入ったはずが、別の世界へ迷い込んでしまったような、体がぞわぞわするほどの不思議体験である。
「天界というのは本当に不思議なところですね。さすがは私の可愛いクマちゃんの生まれ育った場所……」
天然気味の美形生徒会長は『私の可愛いクマちゃんの生まれ育った場所だから』ですべて納得することにした。
リオは彼らの誤解を解くのが面倒になって「へー。良かったね」と言った。
解いたところで『世界のどこにあるのか分からぬ学園』と『森の街』の関係性など説明できない。それに高位で高貴なお兄さんからは『あの学園は実在する』と言われているが、それ以上のことは何も知らないのだ。
「やべぇ……何だここ海底か? 魚みてぇのが泳いでんな……と思ったら普通に青空もあんじゃねぇか……さすが天界だぜ……」
「美クマちゃんの世界は美しいですね……」
幻想的な『お菓子の国』をぼーっと眺めていた副会長と会計。
そこに、お客様の来訪に気付いてしまった人懐っこいもこもこ達が、ヨチヨチ……ヨチヨチ……と短いあんよを動かし集まってくる。
――――!!!
生徒会役員達は衝撃で目を見開き、ふたたび石像のように固まった。
幼く甘えん坊な野良妖精クマちゃん達は、まるでミィ……ミィ……と鳴く子猫のごとくぷるぷる震えながら彼らの靴によじよじもこもこと乗り上がった。
「あー、その子達お客さん好きなんだよね。ちょっとあっちに移動するから抱っこしてやって」
リオは一番甘えん坊で生温かい本物のクマちゃんをよしよしと撫でると、あっち、と適当に遠くを指さした。
『遠くにある菓子を集めさせよう』という魂胆が透けて見える。
そこで、クマちゃんはハッとした。
真のリオちゃん王の計略を看破したわけではない。
お友達の豪邸を建てる場所を決めるのを忘れていたのだ。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、お隣ちゃ……』
クマちゃんは不安気な顔で仲良しのリオちゃんに尋ねた。
『クマちゃんリオちゃんハウチュ』のお隣ちゃんがいいでしょうか……と。
「えぇ……。こいつらに家とかいらなくね……?」
リオの口から思わず本音が漏れる。が、我が子の穢れなきつぶらな瞳が、彼を責めている――ような気がする。
うるうるのお目目で『リオちゃ……』とお願いするクマちゃんに『あいつらはそのへんに転がしておけばいいでしょ』などと非道なことを言えば、傷付いてキュオーとお鼻を鳴らしてしまうだろう。
しかし……と巣の管理に厳しいリオは思考を巡らせた。
我が子に異様な執着を見せる彼らを隣の家になど住まわせたくない。
お菓子の国は『クマちゃんを監禁したい』と口走るような変態はお断りなのだ。
とはいえ、僻地に家を建てて、学園に帰れなくなったので永住します……と言われても困る。
「クマちゃん、家建てんならあっちの畑の奥がいいんじゃね。果物採れるし」
リオは今のところイチゴしか採れない畑のさらに奥を示した。
「クマちゃ……」
こうして、素直な赤ちゃんも納得した場所が『クマちゃんのお友達用の豪邸』建設予定地となったのである。
◇
もこもこを抱えたリオは両腕に幻影妖精クマちゃん抱えて震えている彼らを手招きでよんだ。会計の顔色が赤くなったり白くなったりしているが、気のせいだろう。
「このでけー本のコレ。ここに見本と購入に必要なアイテム載ってるから、『クマちゃんカードケース』に素材集めてきて」
お菓子のお家ちゃん、そのいち。最大レベル、五。
お値段。
クッキーちゃん、五個。クマちゃんキャンディ、五個。
白いチョコレートちゃん、一個。
黒いチョコレートちゃん、一個。
イチゴちゃん、二個。
リオが『見本』と指さした幻影のドアが開き、愛らしいイチゴの帽子を被ったもこもこが顔を覗かせる。幻影はお家を買ってもらえると期待した様子で、お手々の先をくわえ、うるうるのお目目で生徒会役員達を見上げた。
「私の可愛いクマちゃんが……! 私の可愛いクマちゃんが本の中にまで……! 私がすぐにそこから出してあげるから待ってて……!」
儚げな生徒会長は妖精ちゃんの誘惑に負けてふらりとよろめいた。が、しかし視線を本から逸らさない。
表情を変えず、小さな声で『私の可愛いクマちゃんが……』と、まるでヤンでいるヤンデレのように繰り返している。
「天使……! いやこっちは妖精か……?! くそ……なんつー危険な楽園だ……。菓子集めも命がけじゃねぇか……」
「…………」
荒ぶる副会長は『デカい商品カタログ』と腕のなかでお手々の先をもぐもぐしている幼いもこもこ妖精を険しい表情で見比べた。
会計は愛らし過ぎる子猫的な妖精を三体も抱えた衝撃で放心している。
「いや正気失いすぎでしょ。一個も集まってないんだけど。これ俺が買ったほうが早いんじゃね?」
まだ何も始まっていないというのに、生徒会役員達はもこもこ妖精に翻弄され、使い物にならない。
もこもこの幻影はもこもこと同じだけ愛らしいのだから、もこもこ愛の強い彼らがこうなるのは仕方がないともいえるが。
やつらが『クマウニーちゃん』に出会ったらどうなってしまうのか。
リオはチラリと視線を動かし、野良妖精クマちゃんを抱えている学園生達を見た。
「クマちゃん、こいつらの家建てに行こー」
「クマちゃ……」
最初は簡単な菓子集めをさせて『お菓子の国』での基本的な過ごし方、あるいは『もこもこ沼』を教えてやろうというリオの優しさは無駄になったようだ。
彼らを正気に戻すのを早々に諦めたリオは、集めても集めても残高が減ってゆく『お菓子カード』を使って、彼らのための家を一軒購入したのであった。
◇
「おや? この気配は学園の彼らかな? 遊びに来ているようだね」
「ああ」
「あそこに家が一軒増えているな――」
◇
クマちゃんが『クマちゃんリオちゃんレストラン』でお友達の生徒会役員達と語らい、『クマちゃんリオちゃんパーク』で遊びましょうと話していた頃。
クマちゃん達と別れ、関係者以外立ち入り禁止の区画、最奥に位置する自身の部屋に残ったマスターは、書類を片付けつつ、それぞれの部署や研究室から苦情を聞いたり、相談を受けたり、『仕事を辞めてもこもこ王のおわすお菓子の国に移住したい』等の戯言を聞き流したりと、眉間に深い皺を寄せながら真面目に仕事をこなしていた。
「マスター。お客様が応接室でお待ちです~」
「ん? 今度は誰だ」
「商業ギルドのマスターです~」
「……あ~、分かった。すぐに行く」
マスターは今のやりとりだけで、先程帰ったばかりのリカルドに何か問題が起こったことを察した。
『さては、別人だと疑われて中に入れなかったんじゃねぇか?』と。
◇
「お忙しいところ、何度も申し訳ありません……」
「それは構わんが……見た目のことで何か言われたか?」
「何故それを……」
とリカルドは驚いていたが、マスターからすれば『さもありなん』といったところだ。出かけて数時間もしないうちに別人のように若返った人間が帰ってくれば、『親戚』あるいは『他人の空似』と、本人ではないことを疑う輩も当然でてくるだろう。
(とはいえ調べもせずに追い返すのも極端だが……。元の姿に戻してくれってこたぁねぇだろう。……なら、ここに来たのは別件か?)
そうしてマスターは、癒しのもこもこがいる冒険者ギルドではありえない『よそのギルドの事情』を聞いた。
『自身の声で何度も本人であると告げ、服装も変えていないというのに何故か偽者だと思われている』
『魔道具の管理をしている職員が集団で風邪に罹患したせいで、ギルドカードによる本人確認ができない』
『その風邪すらも偽者である自分が仕組んだのではないかと、とんでもない言いがかりを付けられている』
聞いているだけで頭が痛くなってくる話を口を挟まず最後まで聞いたところによると、つまり『表に出しても問題のない〝即効性の風邪薬〟か、それに近いものがあれば売っていただけると大変助かるのですが……』ということらしい。
『心優しい子猫には迷惑を掛けたくないので、不都合があるなら自分でなんとかいたします』
リカルドはそう言っているが、放っておくわけにはいかないだろう。
マスターはこめかみを揉んでから「あ~、調べてくるから少し待っててくれるか……」と悪役顔の美形に告げ、自身の執務室前に設置されている魔法陣でもこもこのもとへと移動した。
◇
マスターが急ぎ足でレストランに入ってきたのは、クマちゃん達が『クマちゃんリオちゃんパーク』へ移動する直前であった。
「クマちゃ……」
『まちゅた……』
「白いの、友達と遊んでたのか」
甘えて抱っこをねだるクマちゃんを、彼はすぐに抱き上げ、優しい手つきで撫でた。
クマちゃんがマスターに会えた喜びでふんふんふん……ふんふんふん……と湿ったお鼻を鳴らす。
そうしてマスターの指を子猫によく似たお手々で捕まえると、はぐはぐあぐあぐにゃしにゃし……と硬いおやつをかじる猫ちゃんのような顔で甘く嚙みしめた。
お友達の生徒会役員達は石像のように動かず、ひたすらクマちゃんの可愛すぎる獣フェイスを凝視している。『ガン見』というやつだ。
「あれ、マスター仕事辞めた系?」
「そんなわけあるか! 白いのに少し聞きたいことがあってな」
マスターはリオに対して顔を顰めてみせてから、愛らしいクマちゃんにいくつか質問をした。
そしてもこもこから『問題の解決に役立つもの』と、おまけの『健康クマちゃんグッズ・肩用』を受け取り、感謝の言葉と共に何度か丸い頭を撫でると、すぐに仕事場へ戻っていった。
◇
さきほどのマスターとクマちゃんのやりとりを珍しく黙って聞いていたリオは、『クマちゃんリオちゃんパーク』へ向かいつつ、不思議に思ったことを尋ねた。
「牛乳薄めて飲んだら不味くね?」
クマちゃんの作った『凄すぎる回復薬』、別名『甘すぎる牛乳』をそのまま外部の人間に飲ませるわけにはいかないというマスターの心配は分からなくもない。
でもだからといって『あの牛乳は薄めて飲んでも効果があるのか? 風邪をひいた奴らに飲ませたいんだが……』というのはどうなのか。
水っぽくて甘すぎる牛乳を風邪っぴきの口にぶちこめば別の事件が起きる気がするが。
それを聞いた生徒会役員達も、それぞれの感想を述べる。
「うーん……私は氷を入れて飲むということもしたことがないですね」
「俺も普通に飲んだことしかないっす」
「そもそも何故薄める必要があるんですか?」
クマちゃんは「クマちゃ……」と頷いた。
そのまま薄めたらおいちくないちゃ……と。
何でも知っているクマちゃんせんせいは、続けて『牛乳のおいしい薄め方』『風邪に効く』それを教えてくれた。
――なお、ミステリアスな生き物クマちゃん先生の言葉が真実かどうかは誰にも分からない。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『ふるーちゅちゃ、牛乳ちゃ……』
「フルーツ牛乳ちゃん? あー、イチゴ牛乳みたいなやつ? なるほどぉ」
リオは牛乳の上にプカプカと浮かんだ様々な果物を思い浮かべて適当すぎる相槌を打ち、「クマちゃん凄いねぇ。じゃああとでみんなで飲もー」と言いながら、後ろを振り返った。
「そこにあるすげーでかいのが『クマちゃんパーク』ね」
「クマちゃ……」
クマちゃんが彼の言葉を訂正する。
『クマちゃんリオちゃんパーク』ちゃんでちゅ……と。
しかしいきなりとんでもないものを見せられてしまった生徒会役員達は『天界に突如現れた白亜の城下町』をポカーンと眺めるばかりであった。
『昨日まではありませんでしたよね……』と。
◇
生徒会役員達が呆然としたまま連れてこられたのは、さらに驚くべき場所だった。
彼らは『クマちゃんリオちゃんパーク』内の芸術的で美しい建物だけでも十分頭と胸がいっぱいになっていた。
にもかかわらず、金の守護者から『ここ入って』と言われ、逆らうことなく従うと、何故か煌びやかで色鮮やかな〝海底都市と思しき地〟が、彼らの視界にキラキラと飛び込んできたのだ。
建物内に入ったはずが、別の世界へ迷い込んでしまったような、体がぞわぞわするほどの不思議体験である。
「天界というのは本当に不思議なところですね。さすがは私の可愛いクマちゃんの生まれ育った場所……」
天然気味の美形生徒会長は『私の可愛いクマちゃんの生まれ育った場所だから』ですべて納得することにした。
リオは彼らの誤解を解くのが面倒になって「へー。良かったね」と言った。
解いたところで『世界のどこにあるのか分からぬ学園』と『森の街』の関係性など説明できない。それに高位で高貴なお兄さんからは『あの学園は実在する』と言われているが、それ以上のことは何も知らないのだ。
「やべぇ……何だここ海底か? 魚みてぇのが泳いでんな……と思ったら普通に青空もあんじゃねぇか……さすが天界だぜ……」
「美クマちゃんの世界は美しいですね……」
幻想的な『お菓子の国』をぼーっと眺めていた副会長と会計。
そこに、お客様の来訪に気付いてしまった人懐っこいもこもこ達が、ヨチヨチ……ヨチヨチ……と短いあんよを動かし集まってくる。
――――!!!
生徒会役員達は衝撃で目を見開き、ふたたび石像のように固まった。
幼く甘えん坊な野良妖精クマちゃん達は、まるでミィ……ミィ……と鳴く子猫のごとくぷるぷる震えながら彼らの靴によじよじもこもこと乗り上がった。
「あー、その子達お客さん好きなんだよね。ちょっとあっちに移動するから抱っこしてやって」
リオは一番甘えん坊で生温かい本物のクマちゃんをよしよしと撫でると、あっち、と適当に遠くを指さした。
『遠くにある菓子を集めさせよう』という魂胆が透けて見える。
そこで、クマちゃんはハッとした。
真のリオちゃん王の計略を看破したわけではない。
お友達の豪邸を建てる場所を決めるのを忘れていたのだ。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、お隣ちゃ……』
クマちゃんは不安気な顔で仲良しのリオちゃんに尋ねた。
『クマちゃんリオちゃんハウチュ』のお隣ちゃんがいいでしょうか……と。
「えぇ……。こいつらに家とかいらなくね……?」
リオの口から思わず本音が漏れる。が、我が子の穢れなきつぶらな瞳が、彼を責めている――ような気がする。
うるうるのお目目で『リオちゃ……』とお願いするクマちゃんに『あいつらはそのへんに転がしておけばいいでしょ』などと非道なことを言えば、傷付いてキュオーとお鼻を鳴らしてしまうだろう。
しかし……と巣の管理に厳しいリオは思考を巡らせた。
我が子に異様な執着を見せる彼らを隣の家になど住まわせたくない。
お菓子の国は『クマちゃんを監禁したい』と口走るような変態はお断りなのだ。
とはいえ、僻地に家を建てて、学園に帰れなくなったので永住します……と言われても困る。
「クマちゃん、家建てんならあっちの畑の奥がいいんじゃね。果物採れるし」
リオは今のところイチゴしか採れない畑のさらに奥を示した。
「クマちゃ……」
こうして、素直な赤ちゃんも納得した場所が『クマちゃんのお友達用の豪邸』建設予定地となったのである。
◇
もこもこを抱えたリオは両腕に幻影妖精クマちゃん抱えて震えている彼らを手招きでよんだ。会計の顔色が赤くなったり白くなったりしているが、気のせいだろう。
「このでけー本のコレ。ここに見本と購入に必要なアイテム載ってるから、『クマちゃんカードケース』に素材集めてきて」
お菓子のお家ちゃん、そのいち。最大レベル、五。
お値段。
クッキーちゃん、五個。クマちゃんキャンディ、五個。
白いチョコレートちゃん、一個。
黒いチョコレートちゃん、一個。
イチゴちゃん、二個。
リオが『見本』と指さした幻影のドアが開き、愛らしいイチゴの帽子を被ったもこもこが顔を覗かせる。幻影はお家を買ってもらえると期待した様子で、お手々の先をくわえ、うるうるのお目目で生徒会役員達を見上げた。
「私の可愛いクマちゃんが……! 私の可愛いクマちゃんが本の中にまで……! 私がすぐにそこから出してあげるから待ってて……!」
儚げな生徒会長は妖精ちゃんの誘惑に負けてふらりとよろめいた。が、しかし視線を本から逸らさない。
表情を変えず、小さな声で『私の可愛いクマちゃんが……』と、まるでヤンでいるヤンデレのように繰り返している。
「天使……! いやこっちは妖精か……?! くそ……なんつー危険な楽園だ……。菓子集めも命がけじゃねぇか……」
「…………」
荒ぶる副会長は『デカい商品カタログ』と腕のなかでお手々の先をもぐもぐしている幼いもこもこ妖精を険しい表情で見比べた。
会計は愛らし過ぎる子猫的な妖精を三体も抱えた衝撃で放心している。
「いや正気失いすぎでしょ。一個も集まってないんだけど。これ俺が買ったほうが早いんじゃね?」
まだ何も始まっていないというのに、生徒会役員達はもこもこ妖精に翻弄され、使い物にならない。
もこもこの幻影はもこもこと同じだけ愛らしいのだから、もこもこ愛の強い彼らがこうなるのは仕方がないともいえるが。
やつらが『クマウニーちゃん』に出会ったらどうなってしまうのか。
リオはチラリと視線を動かし、野良妖精クマちゃんを抱えている学園生達を見た。
「クマちゃん、こいつらの家建てに行こー」
「クマちゃ……」
最初は簡単な菓子集めをさせて『お菓子の国』での基本的な過ごし方、あるいは『もこもこ沼』を教えてやろうというリオの優しさは無駄になったようだ。
彼らを正気に戻すのを早々に諦めたリオは、集めても集めても残高が減ってゆく『お菓子カード』を使って、彼らのための家を一軒購入したのであった。
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