世界はクマちゃんの肉球を中心に回っている 《ヨチヨチ猫手Craft事変》――最強保護者のもこもこ至上計画――

ฅ•ω•ฅ 猫野コロ

文字の大きさ
423 / 552

第422話 勝者と敗者。もこもこした生き物の愛らしさと肉球から伝わる温もり。夕食のメニュー。

 現在クマちゃんは仲良しのリオちゃんと一緒に屋外用のキッチンで夕ご飯の準備をしている。

 うむ。おちゅかれな皆ちゃんを、クマちゃんのお料理で元気にするのである。



 クマちゃんはクッキーの包みが入っているカゴの中から、現在『クマちゃんコーディネートランキング第一位』であるリオを見上げ、そっと肉球を差し出した。

 どうぞ、と。

「なにこれめっちゃ可愛いんだけど。もらっていいんだよね。罠とかじゃないよね」

 警戒心の強い男はそう言いながらも『罠のごとく愛らしい景品』から目が離せなかった。
 まっしろな子猫ちゃんのように愛くるしいもこもこが、うるうるのお目目でリオを見上げ、彼が自身の入ったカゴを受け取るのを待っているのだ。
 もこもこした生き物に耐性がない人間であれば致命傷を負わされた人間のように『ぐっ……』と胸を押さえて苦しむに違いない。

 リオはどこかから聞こえる「おい、大丈夫か……」と、その言葉をかけられている人間に視線を向けることなく、『クマちゃんとクマちゃんクッキーが入った可愛いカゴ』を、できるだけ揺らさぬようゆっくりと持ち上げた。

「クマちゃ……」
『リオちゃ……』 
  
「うん……、クマちゃん可愛いね」

 もこもこした生き物が彼を呼ぶと、彼は手に入れたばかりの宝物を見つめながら指先でこしょこしょと宝物をくすぐった。

 どうやら授賞式ではもこもこしたモデルを撫でたり可愛がったりできるらしい。

「私の可愛いクマちゃんが……私の大事な大事な可愛いクマちゃんが……」

 幸せそうなひとりと一匹へ心底羨ましそうな眼差しを送る、妙にどんよりとした雰囲気の生徒会長の肩に、野性的な美形の副会長が手を置いた。

「今回はしょうがないですって、まぁ次も勝てるとは思えないですけど。それと、そのヤバい目つきやめたほうがいいっすよ」

 白に近い金髪の、まるで王子様のごとく美しい男、とほぼすべての学園生から思われている生徒会長は寂しげな表情で『そうだね』――とは言わず、視線を世界一愛くるしいクマちゃんに向けたまま、自身の肩にのる意外と仲間想いな男の手にゆっくりと手を伸ばすと、指を力いっぱい逆方向に曲げようとした。

 揉め事の始まりである。

 互いの指を狙ったり、腕の関節を狙ったり、首元のタイを固く結んで団子のようにしてやろうとしたりと、彼らは美しいとは言い難い戦いを繰り広げていたが、止める者はいなかった。

 もこもこの保護者達は皆、クマちゃんを見守っていたからだ。
 
 クマちゃんは勝者をたたえるため、猫にそっくりなお手々でリオの指先をきゅむっと握り、可愛らしく握手をしていた。

「あ、肉球さわらせてくれるかんじ? はぁー……ぷにぷに。最高。クマちゃん可愛いねー」
 
 うむ、と頷いたクマちゃんがきゅ、とお鼻を鳴らし、「クマちゃ……」と言う。
「カゴ下ろすの? んじゃ抱っこにする? 違うの? そっかぁ」

 仲良しな一人と一匹は、敗者が羨ましさのあまりヤンデレ王子のようになってしまったことなどまるで気付かぬ様子で、ささやかなお祝いをしている。

 カゴを下ろしてもらったクマちゃんは、しかし中から出ることなく、両手の肉球をスッと上にあげ、「クマちゃ……」と言った。

 ではクマちゃんとハイタッチちゃんをしましょう……と。

 リオは湧き上がる何かをクッ――とこらえながら、両手の人差し指あたりでクマちゃんの小さくて温かい肉球にちょん、とふれた。

 そうして、我が子を溺愛するリオはますます「クマちゃん可愛いねぇ……ほんと可愛い。頭かじりたい。まふって」という気持ちを深め、そんな彼らの『勝利の肉球ハイタッチちゃん』を目撃してしまった敗者達は心の闇を深めた。

「私の可愛いクマちゃんの肉球がご家族の方に……!! あの場にいるのは私のはずでは……? おかしい……こうなったら髪をどうにかして金髪に……」

「何だあれ……くっそ羨ましすぎるだろ……!!」

「そんな……! 子猫ちゃんが自分からハイタッチを……?! うっ……ダメだ、脳が子猫的な情報を処理しきれない……」


「おい、クライヴ。しっかりしろ」

「――――」

「うーん、たしかに羨ましいね。ほら、カタログに今の戦いが記録されたみたいだよ。一位のところに『リオちゃん』と書かれていて、二位は三人。……僕も本気で狙ってみようかな。高得点を取るための研究が必要かもしれない」

 カタログから視線を上げたウィルが愛らしいクマちゃんを見つめ苦笑すると、色気のある声の男は口の端をかすかに上げて言った。

「三十万なら余裕だろ」



 存分に勝利をたたえてもらい、最後には頬に湿ったお鼻をピチョ……とくっつけてもらったリオは、普段めったに見せないにこにこ顔で屋外用キッチンに立っていた。

「クマちゃん今日は何作る? あ、それともぜんぶ俺が作ろっか? クマちゃん可愛すぎて疲れてるでしょ」

「クマちゃ……」

 御機嫌なリオに抱えられているクマちゃんは、もこもこしたお口をサッと押さえ、もこもこもこもこと体を震わせた。
 
『かわいちゅぎる』と『ちゅかれて』しまうのでちゅか……と。
 
 しかしながら、若々しいというより赤ん坊であるクマちゃんはまだまだ元気であり、精神的にも肉体的にも肉球的にもまるで疲れていなかった。
 ということはつまり、『可愛すぎる』という領域には達していないということだ。

「クマちゃ……」

 己がまだ『すごく可愛いていどのクマちゃん』であることを唐突に理解してしまったクマちゃんは、『クマちゃ、かわいいちゃ……』と呟きつつきゅ、と湿ったお鼻に力を入れた。

「はー……かわい。めっちゃ可愛い。なんでこんなに可愛いんだろ」

 リオはもこもこした頭に自身の鼻先を埋めつつ、『かじりたい』という欲求をなんとか押さえこんだ。本当に『まふっ』とやってしまったら、目の前のカウンター席でもこもこを見守っている魔王級に麗しいルーク様に限界突破した『コツン』をくらい、我が子を取り上げられてしまうからだ。
 
 そのうえ何をやらせても誰よりも器用にこなす男に調理補助の役割まで奪われかねない。

「クマちゃんお手々綺麗にしようねー」

「クマちゃ……」

 凄く可愛いクマちゃんは、両手の肉球をアライグマのようにぱちゃぱちゃした。

 そうして、一度ルークのもとに戻り、『被毛に優しい温かなそよ風』という難易度の高すぎる複合魔法でふわふわに乾かしてもらい、『ヤンデレのような王子様』が選んだほつれかけのマフラーから『首元にお野菜柄のよだれかけ、別名スタイ、あるいは幼児用エプロン、頭にはおそろいの赤ちゃん帽』という非常に天才シェフらしい格好にお着替えをさせてもらうと、ふたたび調理補助の腕の中へ戻り、晩御飯のメニューを真剣な面持ちで「クマちゃ、クマちゃ……」と発表した。

『あちゅあちゅ、ちゅたみなギョウヂャちゃ……』
  
「そっかぁ。クマちゃん可愛いねー」

 謎多き料理名を耳にしたリオは余計なことは言わず、とにかくもこもこした生き物を撫でまわした。

 シェフはうむ、と頷くと、死屍累々ししるいるいという体であちこちに転がっている精鋭冒険者達を見つめ、お手々の先をきゅむ、と丸めた。

『ちゅたみな』が切れてぐったりしてしまっている彼らを、早くもとの姿に戻してあげなければ、と。
感想 51

あなたにおすすめの小説

もふもふ村へようこそ〜パーティを追放されたペットショップ店長、最強のもふもふ村を作る。獣も傷ついた冒険者も暖かいご飯を食べて安心できる居場所

積野 読
ファンタジー
勇者パーティを「足手まとい」として追放された、前世ペットショップ店長のショウ。  彼の持つスキル【ペット飼育】は、Eランク以下の小動物しかテイムできない外れスキルだった。  しかし、危険な「嘆きの森」で保護した犬のポチ、猫のタマ、スライムのプルン、ヒヨコのヒナたちは、鑑定不能なステータスや不思議な力を持つ規格外の存在だった。  ショウは前世の知識を活かした手作りご飯を振る舞い、ペットたちと穏やかな生活を築いていく。  やがてその温かな居場所には、モフモフ中毒のエルフの森番、教会から逃げてきた元聖女見習い、食いしん坊な魔族の少女、剣が握れなくなった元Sランク冒険者など、ワケありな人々が次々と集まってくる。  これは、ただ動物を愛するだけの男が、美味しいご飯とモフモフの力で傷ついた人々を癒やし、時には森の脅威すらも退けてしまう、優しくて賑やかなスローライフの物語。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~

幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン異世界ファンタジー女性主人公部門 週間ランキング4位! 小説家になろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中) ★ 山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。 神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。 ①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】 ②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】 ③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】 私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること! のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!? 「私の安眠のため、改革します!」 チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身! 現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……? 気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!? あれ、私のスローライフはどこへ? これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。 【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】 第1章 森の生活と孤児院改革(完結済) 第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中) 第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ! 第4章 王都は誘惑の香り 第5章 救国のセラピー 第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション 第7章 領主様はスローライフをご所望です 第8章 プロジェクト・コトリランド 第9章 ヤマネコ式教育改革 第10章 魔王対策は役員会にて 第11章 魔王城、買収しました(完結予定)

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 平民出身の最強の宮廷魔導師ティル・リッシュは貴族主義の宮廷魔導師長に疎まれ、凶悪な魔物がはびこり、瘴気漂う腐界の地の領主として左遷されることになった。  元々腐界の研究がしたかったティルはこれ幸いと辞令を受けて任地に向かう。  途中で仲間になった聖獣の子牛のモラクスと共に腐界で快適なスローライフを始めたのだった。  瘴気は自作の結界で完全に防ぎ、人族の脅威たる魔物はあっさり倒す。 「魔物の肉がうますぎる! 腐界で採れる野菜もうまい!」 「もっも~」 「建築も魔法を使えば簡単だし、水も魔法で出し放題だ」  病気になった聖獣の子狼がやってきたり、腐界で人知れず過ごしてきたエルフ族が仲間になったり。  これは後に至高神の使徒の弟子にして、聖獣の友、エルフの守護者、人族の救世主と呼ばれることになる偉大なるティル・リッシュの腐界開拓の物語である。 ※ネオページ、小説家になろう、カクヨムでも公開しています

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。