神からのギフトで不老不死。面倒なことはすべて消してやる。〜死から始まるムエルトの物語〜

折原彰人

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第一章

第7話 天気の良い日には、面倒が訪れる

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 不老不死──。

 不老不死になることは、僕にとってそれは、終身刑に近いものだと思っている。

 そんなものを、どうして受け入れられるだろうか? 

 だから、僕は何も考えない。敢えて触れない。忘れる。

 それしか、現実から逃避できる方法がないから──。

 そして、自分のした行いを後悔したくない。

 だから僕は、頭を空っぽにして日々を過ごした。

 今日も、気分を紛らわすべく適当に街を歩いている。

 天気のいい、晴れた昼下がり。街は今日も騒々しい。

 しかし、今日はやけに騒々しい。

 なぜなら今、僕の目の前で戦闘が行われているからだ。

 黒髪で青い目の女剣士が、白い衣に身を包んだ男性に攻撃されている。

 いい勝負だが、恐らく女剣士の負けだろう。かなり、消耗してきている。

 それを取り囲み、騒ぎ立てている街の人達。

 僕はその横を通り過ぎ、歩き出す。

 後方で、歓声が上がった。恐らくどちらかが勝利したのだろう。

 僕は歩みを止めずに、歩く。

 しかし──。

「成敗!」

 と、白い衣を着た男が、いきなり背後から斬り掛かってきた。僕はそれを首を捻って避ける。

 そして、面倒なので無視をして歩き続ける。

 しかし、そいつは僕の目の前に回り込んできた。その手には大剣が握られている。

「逃げるな! 無視するな!! 戦え!!!」

「嫌だ。面倒だ。それに、いきなり斬り掛かってくるって、どうかしてるよ? なんで、僕なの? 他にも人はいっぱいいるでしょ?」

 僕らの側を、恐る恐る通り過ぎて行く通行人。僕は、それを指差してそう言った。

「黒髪で青い瞳をした人間がいたら、すぐに襲い掛かれとマリアから言われた。だからそれを実行しているまで」

「誰それ? あなたも誰?」

「我か? 我は、クルーエル教団のバノス・フォードというものだ! 成敗っ!!」

 白い衣の男が大剣を僕に振り下ろす。風を切る音が街中に響いた。

 僕はその大剣を、魔力を込めた二本指で摘んで投げた。

 彼はよろけて体勢を崩す。

 人も悲鳴をあげて去って行った。

「なぁっ!? つ、強い! まさか、お前があの強い人か?! マリアが探していた……あの!?」

 かなり、動揺しているようだ。

「人違いだよ」

 嫌な予感がしたので一応そう言っておく。

「くそがぁっ! こんな、ヒョロっとした男を、マリアは探していたのか。くそがぁっ! 我の手で成敗してやる!」

 白い衣の男は、大剣を拾いに行くと、また戻ってきた。

 そして、それを振り下ろす。

 風を斬って、空を斬って──。

 しかし、僕に当たることはない。

 息を荒くして、顔を強張らせて、斬り掛かってくる。

「くそっ! 避けてんじゃねぇーよ?!」

 かなり、弱い。

 そんな遅い攻撃ならば、僕は避けれる。

「もう、終わり」

 面白くないので、僕はその鬱陶しい彼に魔法を放った。

「?! なにっーーーー?!」

 あたりに突風が吹き荒れ、ゴミ屑が宙を舞った。

 そして、そう叫んで僕から遠ざかっていく白い衣の男。

 大剣ごと彼は、吹き飛んでいった。

 それも、かなり遠くへと──。

 近くにあった森の中へと、姿を消してしまった。

「かなり飛んだな~」

 しかし、僕はここで考えた。

 彼を生きて帰せば、もしかしたら、そのマリアさんという人に事情が伝わって、面倒な事になるかも知れない。

 一応死んだか確認してこよう。

 芽は早めに摘んでおいた方がいいからね。

 なので僕は、自分で飛ばしたものを自分で探す。という馬鹿なことを始めた。

「強くやりすぎたー。探すの面倒くさーい。おーい。死んでる? 死んでるならいいんだけど……」

 僕はできるだけ大きな声で言った。しかし、見当たらない。

 しばらく、歩き、探し回る。

「居ない……。はぁ……、もっと向こうかな?」

「……くっ!」

 その時、近くの茂みから呻き声がした。

 寄ると、そこには荒れた地面、少量の血痕。

 そして、大剣と、白い衣の男が落ちている。

「やっぱり、まだ生きてた? 面倒くさいね」

「マリアは……渡さない。我の……女……だ」

「……何か勘違いしてない?」

 彼は、放っておいても死にそうな息をしている。

 ま、でも念の為ね。

「……ガハっ!」

 僕は、その落ちていた大剣を男の胸へと突き刺した。骨を砕く鈍い音がして、それは地面に貫通した。

 土の地面に、赤が染みて、黒く広がっていく。

「これで、面倒なことは回避できたよね?」

 と思ったその時、茂みからカサカサと音がした。

「──?!」

 奇声を発して、女性が一人、茂みの中から走って僕に向かってきた。

 髪を乱した、清潔感の全く感じられないその容貌。

 どうやら、錯乱しているらしいその女性に、いきなり、頬を殴られた。僕は地面に倒れて、そしてなぜか、女性に殴られ続けている。

 え? なに? 誰? 

 こいつの知り合い? 

 え、キタナイ。

「やめなさい」

 そんな、軽い声が聞こえた。見ると、白髪の青年だった。病気かと思うくらいに、真っ白な肌をしているその青年。

 僕に馬乗りになって、僕の首を絞めているその女性を見てそう言っている。それから、僕に視線を向けた。

「申し訳ありません。大丈夫でしたか? つい、いつもの発作で……」

「ゴホッ、ゴホッ!」

 女の人は、ようやく、僕の首から手を離した。

 やっと、空気を吸えた。死ぬかと思った。

「おや?」

 ──あ、忘れてた。

 白髪の青年は、その黒い瞳で僕の隣に転がっている死体を見た。

「君が殺したんですか?」

 青年は、表情を変えずに僕を見てそう聞いてきた。

「まさか……僕は殺してないです。初めから死んでいたんですよ」

 もちろん、嘘を吐く。

 流石に無理があるかなーと思った。でも、もしバレても、こいつらも一緒に隣に寝かせてあげたらいいだけの話だ。

 と、そう思っていたのに、

「そうですか」

「え?」

「え?」

「いや……何でも」

 意外と信じたみたい。

 そして、その死体が視界に入っていないかのようにその青年は、僕に封筒を渡してきた。

「……これは?」

「招待状です」

「招待状? なんの?」

 その封筒を見ていたら、いつの間にか青年は女性を連れてどこかへ消えてしまっていた。

 ──ナニコレ?
 
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