ーー焔の連鎖ーー

卯月屋 枢

文字の大きさ
11 / 30
~1章~

11話

しおりを挟む
隊士達への挨拶を一通り終え、蓮二は自分を呼びつけた相手の部屋向かった。

「ひじ……副長、如月です」
慣れない呼称に戸惑いながら、部屋にいる人物に声を掛ける。
入れ と低い声が響く。

襖を開ければ、肩を震わせながら笑いを堪える土方の姿が目に映る。
「なっ!てめぇ……何笑ってんだよっ!?」
「ククッ……。お前に副長と呼ばれる日が来るたぁなあ……不思議なもんだぜ」
大きな笑い声を上げる事はないが、フルフルと震え腹を抱えている。
怒鳴りたいのを堪え、土方を睨みつければ、すまん と一言発して、いつも通りの精悍な顔立ちに戻る。

「悪かった。平隊士の前じゃさすがにまずいが、二人の時や幹部連中だけの時は今まで通りで構わない。そういう芝居は慣れてるんだろ?」
薄く形の良い唇が美しく弧を描いた。
それに同調するように蓮二も微笑む。
その笑みはあまりにも妖艶で、土方はゴクリと唾を呑み込んだ。

「……まぁ、良い。それより蓮二。お前には副長助勤の役職を与える。少し前まで使われていた役職だ。局長始め、各隊組長の同意も得てある」
「副長助勤?平隊士じゃなくて?新人の俺がそんな役職貰って、他の隊士は不満に思わねえのか?そんなのは、俺がここに馴染んでからでも遅くはねえんじゃねえの?」
眉を顰める蓮二に向き直ると、土方はハッキリとした口調で理由を述べた。

「お前の腕前は総司との一件で皆が認めつつある。それでも文句を言う奴には、その腕で黙らせれば良い。基本的に俺からの指示がない時は他の隊士同様、巡察に出ろ。但し、毎回巡察に同行する隊は変えて貰う。その意味は分かるな?」
隊内のあら探しって訳か……。
呆れたように視線を投げかければ、素知らぬ顔で煙管に火を付け煙を吐き出す。



「なぁ……蓮二。お前は修羅の道をどう思う?」

突然投げかけられた脈略のない話に首を傾げた。

「俺はな……近藤さんの為なら鬼になれる。修羅の道さえ厭わない。あの人がてっぺんに立つ為ならなんだって出来る。そう思ってた」
「思ってたって……今は違うのかよ」
「今もその気持ちは何一つ変わっちゃいねえ。だがな……時々、些細な事で心が折れそうになるんだ。それが自分でも情けねえくらいにな……」
ギリッと歯を噛み締め悔しさを露わにする土方に少しばかり驚いた。
徹頭徹尾の鬼だと言われるこの男が、自身の心の弱さに怯えている。

ーードクンッ

心臓が大きく波打つ。
土方の姿が誰かに重なって見える……。


『蓮二……オレは情けない男だな……』
頭の奥で声が響いた。

(誰だ……?)
声の正体を探ろうと思考を巡らせたその瞬間、激しい頭痛が蓮二を襲う。

「ぐっ……!っっ!?」
強烈な痛みに、蓮二は頭を押さえ手を着いた。
顔は血の気が引き、その額には脂汗を浮かべている。

「っ!?蓮二っ?どうしたっ?」
慌てて駆け寄る土方を右手で制し、大丈夫だと告げる。
いつもよりは軽い発作だ。
めまいも起きていない。
呼吸を整えれば徐々に痛みは和らいでいく。
完全とはいかないものの先程までの割れるような痛みは引いた。

「悪い。大丈夫だ……」
向けられた笑顔は痛みを堪えているためか、いつもの柔らかな笑みとは明らかに違うものだった。

「本当に大丈夫なのか?もしかして……記憶が?」
「まぁな……だが、何も思い出しちゃあいねえよ。いつもの事だ。靄が掛かったみたいにぼんやりしてんだ。いちいち気にしてたらキリがねえ」
落ち着きを取り戻した声音に土方は少し安堵する。そのまま手巾を懐から取り出し蓮二の額の汗を拭った。
無意識による行動だったが、蓮二はポカンと口を開け瞬きを繰り返し……

「ぶっ……!くくっ…。おい、土方。相手が女ならともかく、男の俺にそんな気遣いすんじゃねえよ……」
蓮二は苦笑を堪え、土方の右手を掴んだ。


(自分は今……何を?)
ゆるゆると戻ってくる理性と同時に土方は、自分がした事の羞恥に気付き、全身の血が顔に上ってくるのが分かった。

「あんたのそういう所も、局長を思う気持ちも気に入ってる。だから…あんたが修羅の道を行くなら俺が側で見届けてやるよ。あんたはあんたの思うように生きたらいい。そういうのもいろいろと面白そうだしな」
したり顔の蓮二に呆れつつも、自分が進んでいく道は間違ってはいないと言ってくれたこの男に心の内で感謝した。


副長室を後にした蓮二は、寝食を今後屯所でする旨を伝えに東庵の所へ出向いた。
自分達に何の相談もなく、新選組入隊を決めた蓮二に東庵は長々と説教をし、ほんの少し歩けばいつでも会える距離と言うのにお悠は今生の別れと言わんばかりの号泣をした。
疲れを引きずり屯所へ戻ると、門前に居た藤堂が駆け寄ってくる。

「如月さんお帰りなさい。待ってたんですよ」
くりくりと愛らしい目が印象的な青年だが、額の傷が生々しく池田屋の前線で戦っていた事を物語っている。

「藤堂さんが俺を?なんでまた?」
「土方さんに如月さんを部屋に案内しろって頼まれまして」
「わざわざ八番隊の組長にそんな事頼むなんて……あいつ何考えてやがる」
「あははっ。まだ隊務に復帰出来てないんで問題ないですよ」
藤堂はそう言うと眉を下げ寂しそうに笑った。

「包帯は取れたんだな。ならそろそろ隊務復帰もあるだろ?少しの辛抱だよ。あっ、それから俺の事は蓮二で良い。敬語もやめてくれよ。慣れてないからこそばゆいんだ」
蓮二の言葉にニッコリと笑う藤堂の顔はまだ少年と言っても良いほど幼く見える。
『魁先生』と呼び名が付いているのが嘘のようだった。

「ありがとう。じゃあ、僕の事は平助で。それでね……」
気まずそうに頬を掻きながら蓮二を見る。

「蓮二の部屋なんだけど、一人部屋は土方さんの隣しか空いてなくて……」
「ん!?おい……。まて……俺は別に他の隊士と同じ大部屋で構わないんだが?」
副長助勤の役職は貰ったが、新人なのに変わりはない。
平隊士達と同じ部屋だと思っていた蓮二は目を丸くする。

「あぁ……いや、それが土方さんがね……『本人にソッチの気はねぇんだろうがな。あの顔だ。男色家だけじゃなく普通の奴らまで変な気起こしかねねえよ』って……」
蓮二の周りの温度が見る見るうちに下がって行く。
それを肌でひしひしと感じる平助は、語尾がどんどん小さくなっていった。

「あの野郎……。人をなんだと思ってやがるっ」
平助は決して悪くないのだが蓮二の怒りは治まらずそのまま道場まで引き摺るように連れて行き、夕餉の時間まで八つ当たりという名の打ち合い稽古に付き合わされた。


夕餉を食べる為、広間へ行くとすでに食事という名の宴会が始まっていた。ガヤガヤと話し声が聞こえる中、時折獣のような喚き声が響く。

「あっ、蓮二さんお待ちしてましたよー!こちらへどうぞー」
広間の奥で総司が手を振っていた。その声に反応したかのように広間は しんと静まり返る。
一斉に向けられた視線に、なんとなく居心地の悪さを感じながらも総司の元へ歩みを進めた。
その一角には組長格が勢揃いしている。
先程まで共に稽古をしていた平助と目が合えば苦笑いをしていた。

「おっ!?新しい副長助勤のお出ましだぜーっ!」
「左之ー!おめえ声がでけぇよ!鼓膜破れたらどうすんだよっ!」
「新八ぃ、お前がそんなヤワな躰な訳ねぇだろっ?風邪すらろくに引かねえ奴が何ぬかしやがる」
両側からガッチリと肩を組まれ二人の声に挟まれている蓮二は、一番の被害者は自分だと内心げっそりしていた。

「原田さん、永倉さん……近い」
「おぉ、わりぃな。俺の事は左之で良いぜ」
「俺も新八で構わねえよ」
ようやく解放された蓮二は溜め息をつきながら総司の隣に腰を下ろした。

「あの二人はいつもああなんだ。隊内の雰囲気は彼らの元気良さのおかげかもしれないね」
優しい声が総司とは反対側から掛かる。
新選組総長 山南 敬助
以前は副長で土方が『鬼の副長』なら山南は『仏の副長』と呼ばれていたほど、優しく穏和な性格をしていて隊士達からも好かれている。

「なあ、蓮二。お前、総司に勝ったんだって?新八と平助から聞いたんだけどさ。隊内でもその話題で持ちきりだぜ?色男で剣が滅法強い隊士が入ってきたってな。流派はどこなんだ?」
大きな躰の割には子供っぽい言動が多い原田は、蓮二について色々聞きたい事があるらしく、なぁ、どうなのよ? などと茶化してくる。

「あれは総司が気を逸らしたから勝ったんだ。そうじゃなかったら分からねえよ。それと俺の剣は我流だ、多分な」
「多分ってなんだよ……」
煮物をつつきながら呆れたように永倉が呟いた。
多分としか言いようがなかった。

容保すら見たことのない太刀筋だと言う。失われた記憶の中に、自分の剣がなんなのか隠されているのだろうが、知る術はない。
「我流であれだけしっかりした型が出来てんのか?大したもんだな」

永倉は感心したように蓮二を眺めると、杯をクイッと煽った。
「新八と平助は見てたんだよな?俺も立ち会いたかったぜー」
喋りながらも食べる手を止めない原田は、既に三杯目のご飯を掻き込んでいる。

「凄かったよ。速すぎて僕ですら見えなかったもの。でも、新ぱっつあんは見えてたんだよね?」
総司との試合を思い出しているのか藤堂は、うーんと首を捻った。

「ああ……なんとかだけどな。流派がねえんじゃ動きの予測すら出来ねえよ。ある意味脅威だわ」
「そりゃあすげえな。蓮二、今度稽古付き合えよな。あれっ?これ食わねえの?じゃ、いただきっ!」
蓮二が箸を置いたのを目敏く見つけ、余っていた煮物の器に手を伸ばした。
原田の目にも留まらぬ動きに呆気に取られる。

「あ……あぁ、構わねえよ。ところで、副長助勤って昔あった役職だって聞いたけど?」
副長助勤と言う役職は、蓮二が就くまで空白だったが、以前は存在したと聞いて気になっていた。

「うん。まだ壬生浪だった頃にね。今、組長している殆どが助勤だったよ」
「へえ……そんな大層な役職貰って良いのかね?なんか贔屓されてるみてえで居心地悪りぃんだけどな」
隊士達は、蓮二がいきなり役職を貰った事に不満を抱いているのだろう。
蓮二の言葉に気まずげに視線を逸らす者も少なくなかった。




「お前の実力を買っただけだ。洞察力と行動力、機転の早さ、冷静な判断力、剣の腕どれを取っても組長連中に引けは取らねえ。平隊士にしとくのは勿体ねぇだろ?」
その場に居なかった筈の人間の声がして一同はそちらへ顔を向けた。
案の定そこには蓮二を助勤に指名した張本人の土方歳三が腕を組み柱にもたれかかっていた。
突然の副長出現にそれまでざわついていた広間は静まり返る。
ピンと背筋を伸ばし微動だにしない隊士達を一瞥すると蓮二の前に立ち、

「隊士を預けねえのは単独で動いて貰う事も多くなるからだ。第一、お前に誰かを率いて隊務をこなす事が出来るとは思えねぇしな」
蓮二は土方の言葉にピクリと眉を動かす。
軽く土方を睨み付けると蓮二は芝居に入った。

「最後の一言は余計……ですが随分と買い被っていらっしゃいますね。もしかして、その立ち位置で反感を買うのが私の役目ですか?」
何人かの隊士や組長達とは面識があるとはいえ蓮二は正式入隊したばかりだ。
新入りがいきなり副長助勤になって快く思わない人間の方が多いだろう。

「そんなつもりはない。助勤としてそれ相応の働きをすると見込んでの事だ。隊士連中もお前の実力をすぐに認めるだろう。それがハッキリする事が近々あるからな……」
苦虫を噛み潰したように眉を潜め含んだ物言いをした。

「土方さん……どういう意味ですか?」
土方の只ならぬ雰囲気に押し黙る隊士達を横目に総司は問いかける。

「まだ確定はしてねえが近い内デカい戦がある。お前達も気付いているだろう?池田屋以降、長州の動きがおかしくなってる」
土方の言葉にその場の空気が一気に張り詰める。

池田屋事件後、何かと動き回る長州の残党狩りをしていたがここ数日パタリと動きを止めたのだ。
あれほど新選組や幕府に対して報復だとばかりに暴れていた長州藩士の姿を全くと言っていいほど見かけなくなっていた。

「いつ戦が始まっても出れるようにしておけ。気を抜くんじゃねぇぞ。隊務はもちろん刀の手入れや体調管理は怠るな」
和やかだった広間は一変してピリピリとした緊張感で包まれる。

(坂本や容保が懸念していた事が現実になるのか……)
事前に聞かされていた蓮二は、誰よりも今回の事の大きさを肌で感じていた。



美しい京の街が……炎に包まれるのはそれから数日後だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

処理中です...