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想いと略奪と真実

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 俺の名は、ライア・ドーラキュリファ。
 
 
 生まれて118年この世界を過ごしている男だ。つまり、118歳だが、見た目は活力のある肉体にきめ細かやで弾力のある肌。18歳の青年と変わらない。色白美肌で黒髪の優男である。
 
 
 
 自分で優男と言うにはちょっと抵抗があるが、周りから言われているのだから許してくれ。
 
 
 
 ん? ぁあそこだよな。
 
 何故俺が118歳なのかというと、まぁ簡単に言えば、闇に生きる者だ。
 巷では俺のような事をアンデッドと呼ぶ者もいるが、そんなゾンビと一緒にしないで欲しい。
 
 
 俺はヴァンパイア……吸血鬼さ。
 
 
 しかし、吸血鬼という種族はそう滅多に血は飲まん。血を飲む時は、伴侶か仲間を作る時だけで、血が大好物というのは、間違いだ。
 
 
 
 ここ重要だから敢えて、深堀して伝えよう。
 
 
 
 大好きな人と一緒にいる為にその人の血を吸い、その人をヴァンパイアにする為で、無差別に血を吸うというのは、こっちからお断りだ。
 
 
 
「すまん。 聞き取れたか?」
 
 
 俺はいま、息切れしながら夜の街を懸命に走っている。
 
 脇に抱えるのは超絶可愛い女。しかも料理も上手で性格も良いし、何より常識人で、気立てが良い。こんな素晴らしい女は居ない。
 
 
「ちょっとっ、私を抱えながら恥ずかしい事口にしないでっ」
 
 
 抱きかかえている女性、セリス・セイントホーリー。聖なる信徒束ねるセイントホーリー家の娘で、聖なる魔力と光の力を持ち、闇の者を葬り去る能力者。何度もいうが超絶可愛く美少女だし、実力者である。
 
 
「はぁっ、はっ、すまん。 心の声が漏れたか」
 
「自己紹介ありがとぅ。 でも、さっきからものすごぉぉく、漏れすぎだわっ」
 
「うむ。 だが、本当の事だ。それに付け加え、心底大好きだぁぁぁっ」
 
「ちぃーーーっ! あんたじゃ無かったらOKしているわよっ」
 
「なら、尚更分かってもらうしかないっ」
 
「だぁっかぁーらぁっ!! 離せっ」
 
「藻掻くなっ、もがくとお前を連れて……駆け落ちできん」
 
「だぁーれぇぇがぁっ、アンタとヴァンパイアと駆け落ちするかっ」
 
 
 抱きかかえていた女が、暴れて俺から離れて睨みつけてくる。
 
 
「マリッジブルーか? 愛しい人よ」
 
「っ、まさかアンタがヴァンパイアだとは知らずに、パーティーを組んでしまったなんて」
 
「良いでは無いか。 これからも永久に結ばれるんだ、あれは運命の歯車が始まった出逢いだ」
 
 
 俺とセリスが出逢ったのは、冒険者ギルドと呼ばれる魔物討伐など仕事斡旋をしている所。
 
 ヴァンパイア討伐という依頼が何度もあり、彼女は全てそれに参加し、セリスが参加した依頼は俺も参加した。
 
 手練でかなりの実力者の戦士や魔法使いもいて、討伐は容易だった。その中にセリスの気遣い思いやりが、俺の心に愛の矢を刺したのだ。
 
 
 1番の決めては、アレだ。ヴァンパイアが隣にいても気づかなかった事。つまり、女性は好きな人の匂いは感じないか好きになるアレ。セリスはこの依頼を受けた時から俺に気があると俺は思ったら、やはり俺とセリスは相思相愛だったという事だ。
 
 
「ん~っ。 なんでなんでっ! アンタがヴァンパイアだってこと気づかなかったのか。 悔やんでも悔やみきれないわっ」
 
「正直になれ、セリス。 俺の胸に飛び込んでこい。俺はお前とならどんな苦難でも乗り越えられる」
 
「ええ、飛び込んでやるわ。 聖なる魔法をライア、お前の胸に飛ばせは、私の苦難は乗り越えれるのよ」
 
「それでは、私と愛を育む事ができん」
 
「元々、ヴァンパイアとなんて無いわ」
 
「そうか、こんなにも俺の事が好き過ぎて混乱しているんだな」
 
「って、私の話聞いている?」
 
「聞いているとも、ヴァンパイアが憎い。俺にはセリスの今の気持ちが伝わってくるよ」
 
「なら、アンタは私の敵よっ」
 
 
 セリスが、手のひらを向け宙に展開される魔法陣。
 
 
「会話は、お互いの気持ちを確認しあう。 恋人達の第1歩というが……」
 
 
 俺の後ろに3人の男女。 1人の男性は、戦士のような鎧と剣を持ち、もう1人はローブ着て杖をもつ魔法使い。 あとの女性は背の低い斥候。
 
 
「ついに、追い詰めたぞヴァンパイア」
 
「俺たちから簡単に逃げられると思うな」
 
「っていうか、私の説明だけ短くないっ!?」
 
 
 女斥候の言葉に一瞬沈黙が走る。
 
 
「ふん、さては、お前達。 俺とセリスの結ばれる事を祝福しに来てくれたのだな?」
 
「だれがするかっ」
 
「ヴァンパイアへの祝福は、ヴァンパイアが死んだ時」
 
「ムググ、こんな心の声ダダ漏れの男なんて誰も祝福しない」
 
 
 臨戦態勢になる奴ら。セリスも俺に向け魔法を放つ準備ができている。
 
 襲いかかってくる瞬間を見逃さない。
 
 素早くセリスの間合いに入り、素早く腰に手を掛けそのまま走り出す。
 
 
「ぎゃっ、またぁぁ!」
 
 
 走り出す勢いで放たれる魔法が、三人を襲う。
 
 悲鳴が聞こえるが、祝福してくれないので無視しよう。
 
 
「さぁ、セリスのお掛けで奴らを撒けたな」
 
「きいぃぃぃっ、また」
 
「愛する人にこの抱き方は失礼か」
 
 
 抱き方を変える。 背中から肩を掴み、片方の腕は脚を抱える。所謂、お姫様抱っこというらしい。 俺はセリスを抱き、街並み揃う建物の屋根を伝い、ある目的地を目指す。
 
 
「魔力が戻れば……絶対に」
 
「あぁ絶対に、俺はセリス、君を貰うぞ」
 
「ちがぁぁぁっう!! その絶対ではないわ」
 
 
 否定しつつも頬を赤らめるセリス。
 
 そして、大きな月が俺たちを包む。
 
 月がキレイだ……。
 
 
 
 
 ◇◇◇◇
 
 
 街外れにある大きな屋敷。
 
 
 昔、王族の者が住んでいたが、買い手が見つからず放置された空き家。野党や犯罪者、浮浪者などが隠れて住む事も出来なかったのは王族が、掛けた魔法が原因というのが世間一般に流れている話。
 
 だが、本当は、俺ライア・ドーラキュリファが住んでいる建物だ。
 
 
「まさか、あんた」
 
「また、心の声が漏れたか? だが、そうココが」
 
「空き巣?」
 
「なっ、そんなチンケな犯罪者と同格にするなつ」
 
「犯罪者以下ですけどヴァンパイアはっ」
 
「セリス、ココが俺とセリスの愛の巣となるんだ」
 
「へー。 絶対お断りよっ」
 
「さあ、入ろう」
 
 
 大きな扉を開ける音が、中に響く。
 
 真っ暗な玄関に1歩足を踏み込むと、一気に照明が点灯し豪華な佇まいが視界に飛び込んでくる。
 
 目をぱちくりするセリスは、驚いたのか俺にしがみつき顔が近く、彼女から微かな花の甘い香りがする。
 
 
 バンっ!!
 
 扉が強く閉まると、更に驚きしがみつくセリスの力が入る。
 
 
「キャッ!」
 
「これから夫婦になるのだから、近づいてもいいんだけど」
 
「ヴァンパイアとなんて、ならないわよっ。 それに勝手に灯りがつくなんて驚いただけだしぃ」
「まぁ、少しお茶をして休もうではないか」
「魔力が戻れば……この場で殺してやるのにぃ」
「ここから出ることも出来ん。 落ち着いて考えた方が良い」
「セイントホーリー家の者を、敵の本拠地に誘い込んで何するつもり?」
「ん?」
「え?」
 
 さっきからずぅっと口にしているが、耳に入ってなかったと言うか……もしかして、再確認したいのか?
 
「何を再確認って?」
 
 またも心の声が漏れたか!
 
 俺は、しっかりとセリスの心に刻むためセリスに近づく。が、セリスは俺の目を見たまま後ろに下がる。
 俺は近づく、セリスは下がる。
 
 バン!
 
 セリスの背中が扉にぶつかり、後ろに下がることが出来なくなった。俺は片手を勢いよく扉に突く。
 
 ドン!!
 
 俺とセリスの鼻先の間が数ミリ。
 視線を逃さないよう俺はセリスの瞳を捉える。
 
「――――俺はセリス、君が好きだ。 だから君と俺は恋人になり、やがて夫婦となりたい」
「ぐっ、なにを言っ――――」
「俺は、君が好きだ。 心の底から、大好きだ」
 
 頬を赤く染めるセリスの視線が逸れるが、俺は片方の手でセリス顎に添え俺の視線へと戻す。
 
 目が潤うセリスの激しい鼓動が聴こえ、唾を飲み込む。
 
 更に近づく顔。
 
 鼻の先が交差する。
 
 目を閉じるセリス……。
 
 合わさる唇。
 
 
 
 何分経ったのだろうか? 
 
 いや何時間経ったのだろうか? 
 
 むしろ、これが永久に続けばと……。
 
 
 
 避ける事もできるだろう。
 
 俺を推し返して、突っぱねて逃げる事も出来るだろう。
 
 いや、考えるのはやめよう。
 
 俺はセリスが、好きなのだから。
 
 
 
 ギュッと胸の服が掴まれる。
 
 その手が俺の体をおす。
 
 
 
 唇が離れる。
 
 頬を顔を真っ赤にするセリスが、そっぽを向き深く息をする。
 
「な、長い……わ」
「長い?」
「キ――――言わせないで」
「もっとしたかったが」
「息が持たないわ。 それに……」
 
「?」
 
「敵としてしまった事が、私にとって何よりも後悔しているわっ」
 
 俺を突っぱねて遠ざける。
 そのセリスの瞳は涙で潤いながらも、突っぱねた手には膨大な魔力が巡り、魔法陣が展開される。
 
「私も、私もっ好きだったわ。 幾度も依頼で会ってた時、助けてくれたり気遣ってくれたわ……でも」
 
 歯を食いしばるセリスは、険しい顔で俺を見てくる。
 
 
「でもっ、私は母を殺した憎きヴァンパイアを滅するセイントホーリー家の者。 貴方と……ライアと結ばれる事は絶対無いわっ」
 
「母を?」
「そうよっ、ヴァンパイアが母を……お母様を殺したのよっ」
「それは、真実か?」
「お父様が、そう言っていたのっ」
 
 魔法陣が、更に広がる。 膨大な魔力が怒りという感情で更に高まっている。
 更に険しい顔のセリスだが、その瞳からは何とも心苦しい想いが伝わる。
 
 どうにか……救いたい。
 
 だが、セリスは母の仇であるヴァンパイアを倒す事が救いであるのだろう。
 
「母を殺したヴァンパイアは検討が付いているのか?」
 
「付いていたら、この状況ではないわ」
 
「なら、それを収め」
 
「出来ないわっ。 私のお母様……マリア・セイントホーリーの仇ぃぃっ」
 
 セリスの叫び声に被さるように2階に上がる階段から声が聴こえる。
 
「あら、私の名前呼んだのは誰?」
 
 2階からゆっくりと降りてくる綺麗なドレスを着て母性が強調するスタイルの女性マリア・セイントホーリー。
 
「お、お母様?」
「あらぁ、セリスちゃんじゃないの?」
「な、なぜ?」
「まぁ、この屋敷は招待された人しか入れないのじゃなくて?」
「まぁ、そうだ」
「って事わぁ~。 もしかしてライアさんの好きな人ってぇ、セリスちゃん?」
「そうだ。俺が世界一好きなのはセリスだ」
「まぁ、嬉しいぃ」
「それにしても、貴女がセリスの母親だとはつゆ知らず……」 
「良いのよぉ~。 それにぃ早く言ってくれれば良かったのに」
「そうだな。 目の前に俺を殺そうと魔法陣を展開される前に、早めに相談すれば良かったと後悔している」
「でも、ライアさん。 運が良いわ」
 
 階段を降りコチラにゆっくりと近づくマリアは、指を弾き甲高い音を鳴らす。
 
 すると、セリスが今にも発動しそうな魔法陣が、砕け散る。
 
 驚くセリス。
 
 俺は、安堵の息。
 
「ここここここ、答えてください。 お母様?」
 
「あらぁ、なにを」
 
「何故、ここにいるのです? もしかしてヴァンパイアに?」
 
「やだねぇ。 まだ、れっきとした人間よっ」
「で、ですが。 お父様はお母様がヴァンパイアに殺されたと」
 
 真剣な眼差しで母親に訴えるセリス。
 マリアは、そのセリスの言葉にムッとする。
 
「まだ、そんな嘘をっ」
 
「嘘?」
 
「あの人。 浮気をしたのっ!!」
 
「浮気?」
 
「そうよっ、しかも1人の女性だけでなく複数人もっ」
 
「ふ、複数ぅ!」
 
「その中には、私の妹もいるし、メイドもいるわっ」
 
 マリアの言葉に、セリスは開いた口が塞がらない状態。
 
「わたしはぁ、嫌気がさして家出しちゃったのよ。 お金が無くてぇ、賭け事に手を出しちゃったら見事に負けて……」
 
 セリスは固まったまま、目を丸くしてマリアの言葉を受け入れている。
 
「そう、負けてぇ払えなくなったところ、ライアさんに肩代わりして貰ったのよ。 住む場所もないからぁ~この屋敷に住まわせて貰っているのっ。 本当に助かるわぁ」
「そりゃ、泣きじゃくる女性を見てはおけないし、あの日はセリスと出逢って3回目。 セリスの優しさを知り、俺の心がすべて君に埋められた日だから。 貴女がセリスに似てた事もあって助けたのです」
「あら、私。 運が良かったわぁ」
 
 唖然とし状況を整理しているのか、ただ固まっしまっているセリスは、我に返る。
 
「つまり、ライアは……お母様を助けた。 って事?」
「まぁ、そうなるな」
「そうね。男の人達に払えないなら体で払えやとか、いやらしい目つきで言ってたからぁねぇ」
「お母様、何故早く言ってくれればっ」
 
「この屋敷、それに敷地はライアさんじゃないと出れないのよ」
「じゃぁ、ライアはお母様を監禁してたって事?」
「おい、監禁なんて」
「セリスちゃん! ライアさんに失礼よっ」
 
 マリアはセリスに向かって怒鳴る。
 少しその大声にビクッとなるセリス。
 
「わたしは助けて貰ったの。 それは知ってちょうだい……それにこの屋敷結構快適なのよ」
「快適?」
「居座って貰っては困るんだが……」
「まぁ、セリスちゃんも暮らせば分かるわぁ」
「お母様! 私はこんなヴァンパイアと一緒に暮らしま……せんっ」
「あら、嘘おっしゃい。 セリスちゃんライアさんのこと好きでしょぉ?」
 
「好きではっ――――」
「嘘言わないのっ。 顔立ち立ち振る舞い、雰囲気それに仕草や優しさに匂い、すべてドンピシャって話してくれたじゃないっ」
 
 たんたんと話すマリアの言葉に、顔が紅潮するセリス。
 これは嬉しい事。やはり俺はセリスを好きになって良かったし。これからも絶対に大好きだ。
 
「おおおお母様っ! それにライアっ。 また漏れてるっ」
 
 口を押え笑うマリア。
 真っ赤な顔をし俺を睨むセリス。
 
「さぁ、セリスちゃん。 ハッキリしなさい」
「セリス。 俺はお前を幸せにする、だから一緒に同じ時を過ごそう」
 
「私は、ライアあなたに好きと言われ……嬉しかったし、私も……ライア貴方が好き」
 
 
 俺はセリスの肩を引き寄せ、腰に手を回しそのまま再び顔と顔が引き寄せられ唇が合わさる。
 
「まぁ」
 
 セリスの母親の声が響くが、俺とセリスには全く入ってこない。
 俺と腕を組むセリスは、くっつきながら屋敷の奥にある俺の部屋へと、共に同じ歩幅で向かっていった。
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