しゃべるスマホと成長したい！（元 スマホと僕）

邂逅1

　スマホの普及した今日。人はその利便性に惹かれ、利用者の拡大が波及的に進んでいる。スマホの製作者も想像もしなかったであろうほどにその形のありようを変えながら、良い方向にも、悪い方向にも、人の意思の元に進化を続けている。


「すいません。通してください。」
　僕はなんとか満員電車の中から抜け出してホームに足をつく。朝のラッシュの時間帯の混雑は何者にも耐え難いものがある。乗り換えてもう一度電車に乗らなければつけない学校の遠さに嫌気が差すとともに、自分の当時の選択を少し後悔する。なんとか体を滑り込ませて電車に乗ったその中は静かなものである。アナウンスによる案内とスマホを叩く音。それらに支配された空間はスマホを離すことのできなくなった現代社会を物語っているようだった。かくいう僕もその一人であることに変わりわない。スマホを使い続けることが悪いとは思わない。優先順位というものを勘違いしない限り、それは非常に便利なものであるのだから。

　改札を抜けて、一本道の坂を登る。前を行く人を抜かすことなく、後ろの人に追いつかれない。そんな距離を保って僕は歩く。
「今日の1限何？」
「英語。」
「まじ！？予習やってないよぉ。写させて！」
「しょうがないなぁ…」
　皆んな愚痴を吐きながらも、それでも学校に行く。嫌であろうと好きであろうと、僕らにとって学校という場所は大切な居場所の一つなのである。

「おはよう！蒼空そら。」
「おはよう。晃あきら。」
　教室に入ってすぐ小気味の良い声がかけられ、僕は快活にこれに応える。他の生徒がこちらに視線を向けてすぐさま逸らす。僕はその程度の人間ということだ。
「いつも以上に元気がないなぁ。」
　晃は僕の前の席に腰掛けながらそう切り出してきた。
「そうか？いたって僕は健康だぞ。」
　務めて僕は平然とした態度で返す。
「ふーん。お前がそう言うんならいいけど。」
　あきらは特に興味も示すことなく会話を切り上げ1限の準備をする。長い付き合いゆえのことなのか、僕の雰囲気を察してそっとしといてくれたのだろう。僕にはそれだけで安心できるものがあった。

　授業中、内容が耳に入ってこない僕は外の景色でも眺めようと窓のある方向を向く。僕の席は窓側ではないため、横を向くとどうしても視界に他人の横顔が映り込む。隣に席のやつは突っ伏して寝ているため、その向こうに座っている佳奈かなが視界に入る。幼馴染であるため見慣れているはずなのに、その真面目に授業を受ける態度に僕は目を奪われてしまう。真面目だからだけでなく、一挙手一投足が美しいからなのかもしれない。目線を少し上に上げ、ボーッと空を眺めていると、時がゆっくりと進んでいるように感じる。目線を下ろせば、先生の話を聞いているように見せかけながら、スマホをいじる生徒がちらほら。1番後ろの席だから余計にそれが見やすい。時間が急速に進みだしたような、そんな感覚さえもある。

「蒼空。一緒に帰ろうぜ。」
「ちょっと待って。片付けるから。」
僕は荷物を鞄に詰めながら、教室から見える夕焼けの暖かさを肌で感じながら応える。
「佳奈ぁ。声かけなくていいの？」
「うん…。いい…。」
「本当に？そんな悲しそうな声で言われてもなぁ。」
　聞こえてくるのは誰と変えるのかの話題。佳奈が声をかけづらそうにしている様子から、男子生徒に関する話題なんだろう。誰に話しかけたいのか聞きたいような気もするが、他人の会話を盗み聞きするのも悪いと思って教室を足早に抜け出す。
「ねぇ。波嶋…。」
　僕の名前が呼ばれた気がしたが、教室のドアを閉めた後だったため、僕は聞き間違いと判断して、晃の後を足早に追った。
「ドンマイ…。佳奈…。」
　教室内には二人だけ。沈んだ顔の佳奈の表情は、夕陽の赤と同じぐらい恥ずかしさに染まっていた。

　晃と会話中、僕のポケットの中でスマホが鳴る。僕は晃に断りを入れて、スマホを開く。そこにはメールが届いたことを知らせる通知が。
「波嶋　蒼空様。
　今すぐその場からできるだけ遠くに離れてください。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　時崎ときさき　柴音しおん。」
　僕は今、駅のホームに立っていた。