そこに言葉はない

十万と百

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教室

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僕は彼女と二人っきりで誰もいない教室にいる

今日は晴天 雲ひとつない澄んだ空

そこにある青は全てを受け入れてくれそうだった

だからなのかもしれない

彼女が思いもよらない行動に出たことに疑問をいだかなかったのも


こんな日もあるんだなぁなんてのんきに考えていた

彼女の手が僕の服の裾を掴む

何を意味しているのかわからない

そこに言葉はなく

ただただ時間が流れていく

少し横を見る

手のひらを上にした彼女の手がチラッと見える

僕はすぐさま目を離した

鼓動の高鳴りが大きく聞こえる

そっと手を出してみる

彼女の手に触れそうなところで手を戻す

もどかしい気持ちが大きくなる

彼女の表情は見えない

見たい気持ちの大きさに押しつぶされそうになる

また 手を伸ばしてみる

今度は届きそうだ 届けたい 届いて欲しい


とん


彼女の人差し指に触れた 触れることができたんだ

でも 僕の手はそこから動けないじっとかたまってしまう

もどかしい

届いているのにどこか見えない壁がある

彼女はそれをやすやすと超えてくる

彼女の手が僕の手の上を確かめるように少しずつ登ってくる

僕は彼女の手が動くごとに体の穴という穴から汗が出るような感覚に襲われる

否が応でも手の感覚が鋭敏になる

彼女の手が震えている

安心させるように握ってあげたい

彼女の指が僕の指と交差する

彼女と彼氏がするように指を絡める

二人の手は離れない

離そうとしない

そこに言葉はない


時間が過ぎる

晴れた空には一つの雲が現れる


そっと彼女の方を見てみる

彼女と目が合う

目を離してしまった

透き通る目に吸い込まれそうになって必死にあらがった

あらがう必要なんてないんだよ

心の声がそう語りかけてくる

そうかもしれない

でも 自分から言葉にしたいんだ

もう一度彼女の方を見る

彼女はずっと優しく僕の顔をじっと眺めている

手は繋がれたまま

離すことはない

目と目が合うと彼女がそっと目を離し

意を決したようにもう一度こちらを見る


流れる雲は僕たちに影を届ける


彼女が目を閉じる

じっと澄ました顔で目を閉じたままこちらを見ている

否が応でも僕の目は唇へと目線がいく

彼女はもどかしそうに意住まいを正す

少し距離が近づく

手を繋いだまま僕は震えるように顔を近づける

そこに言葉はなく

影が僕たちの周りに落ちる

さながらウエディングベールをあげる前かのように彼女の顔が見えなくなる

少し怖い

それは彼女も同じである

震える二人は目を閉じて…


雲は満足そう風に流されていく

影は消え

晴天が戻ってくる


誰もいない教室に一つの風が吹く

それは暖かく全てを包み込んでくれそうだった


そこに言葉はない

ただ思いがあるだけだ
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