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5.唐突な願い
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君は、決して完璧な令嬢ではない。
非情ともいえるその言葉に、兄は黙っていなかった。
「アラン、お前! 一体今まで何を見てきたんだ」
息を荒げたルーベンスは、足音を鳴らしアランの前に歩み出た。
「ガブリエルの馬鹿があんなことを言ったから、リリアは……それを兄であるお前まで。この!」
「お兄様、お待ちになって」
ドレスの裾を持ち上げ、リリアージュは彼の前に立ちはだかった。
「落ち着いて、お兄様。いくらご友人とはいえ、これ以上は不敬にあたるわ。それに……」
アランを捉えたガーネットの瞳が、ほんの少し青みがかって見えた。
「意見ならば私がすべきこと、ですよね?」
アランは静かに息を呑み、導かれるように小さく頷いた。
「ならば、私からアラン様にお願いがございます」
「お願い?」
「はい……私を、本物の令嬢へと導いていただけないでしょうか」
「リリア、一体何を言っているんだ!」
目を丸くした兄に一瞥もくれず、完璧令嬢は穏やかな笑みを浮かべた。
「私は子供の頃から王家に嫁ぐため、努力して参りました……ですが、その結果『ハリボテ』とガブリエル様に嘲笑され、そして今、アラン様もお認めにはならなかった」
「違う……私があのように言ったのは」
「いえ、慰めはいりません。私を気の毒に思い、言えなかったのでしょう……」
ゆらりと空を舞った彼女の瞳は、次の瞬間ガーネットも霞む輝きを取り戻した。
「たとえそうだとしても、私は諦めたくありません。貴方様のお力を借りてでも、誰もが認める本物の令嬢になりたいのです」
「いや、それは……」
「七年だぞ」
突如、ルーベンスが二人の間に割って入り、まっすぐアランを見据えた。
「リリアがあのバカの婚約者になって、妃教育に努力を注いできた年月だ。それだけ長い間リリアを縛っておいて、王家の人間として責任は感じないのか」
ドンッと大地を揺るがす足音。
アランを見下ろすルーベンスのガーネットの瞳が、静かな怒りに燃えた。
「一週間、それで十分だ」
「ちょっと待ってくれ、ルーベンス」
「来週、王家主催の晩餐会があるだろう。その日までリリアのために時間を割け。異論は認めない」
「いや、だが私が関われば余計に……」
「それでどうだ? リリア」
「十分です、お兄様」
見つめ合い微笑む兄妹には、アランの戸惑いなど、どこ吹く風。
「わがままを言っているのは、百も承知です。ですが、自分自身に向き合う時間をいただきたいのです。どうか、お付き合いいただけないでしょうか」
その声がわずか震えている。
いつも微笑みを讃え穏やかに佇む彼女が、下げる必要すらない頭を下げて——。
「本当に一週間だけ、それでいい?」
深く頷いたリリアージュに、アランは穏やかに微笑む。
「わかった。だけど、君を導くなんて私には……だから、君に言った言葉の意味を分かってもらうために努力する。それで、いいかな?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
「さぁ、そうと決まれば諸々の手続きは、私に任せてくれ」
手拍子一発、ルーベンスは高らかに宣言する。
「お前……やけに張り切っているな」
「当たり前だろ。リリアには早く笑顔になってほしいからな……それに」
ルーベンスは素早くアランに近付くと、彼の耳元に顔を寄せた。
「お前だって、まだ諦めたわけじゃないんだろ?」
「ルッ、ルーベンス!」
瞬く間に赤くなったアランを置き去りにして、兄は笑いを堪えながらリリアージュの元へ。
「リリア、明日はいつも通り王城に来てくれ。城の者に案内するよう伝えておく」
「承知しました……お兄様、ご面倒をおかけして申し訳ございません」
微笑んだまま、ルーベンスは大きく首を振った。
「覚えておいてくれ、リリア。頼られることは、兄である私にとって一番のご褒美なんだよ」
非情ともいえるその言葉に、兄は黙っていなかった。
「アラン、お前! 一体今まで何を見てきたんだ」
息を荒げたルーベンスは、足音を鳴らしアランの前に歩み出た。
「ガブリエルの馬鹿があんなことを言ったから、リリアは……それを兄であるお前まで。この!」
「お兄様、お待ちになって」
ドレスの裾を持ち上げ、リリアージュは彼の前に立ちはだかった。
「落ち着いて、お兄様。いくらご友人とはいえ、これ以上は不敬にあたるわ。それに……」
アランを捉えたガーネットの瞳が、ほんの少し青みがかって見えた。
「意見ならば私がすべきこと、ですよね?」
アランは静かに息を呑み、導かれるように小さく頷いた。
「ならば、私からアラン様にお願いがございます」
「お願い?」
「はい……私を、本物の令嬢へと導いていただけないでしょうか」
「リリア、一体何を言っているんだ!」
目を丸くした兄に一瞥もくれず、完璧令嬢は穏やかな笑みを浮かべた。
「私は子供の頃から王家に嫁ぐため、努力して参りました……ですが、その結果『ハリボテ』とガブリエル様に嘲笑され、そして今、アラン様もお認めにはならなかった」
「違う……私があのように言ったのは」
「いえ、慰めはいりません。私を気の毒に思い、言えなかったのでしょう……」
ゆらりと空を舞った彼女の瞳は、次の瞬間ガーネットも霞む輝きを取り戻した。
「たとえそうだとしても、私は諦めたくありません。貴方様のお力を借りてでも、誰もが認める本物の令嬢になりたいのです」
「いや、それは……」
「七年だぞ」
突如、ルーベンスが二人の間に割って入り、まっすぐアランを見据えた。
「リリアがあのバカの婚約者になって、妃教育に努力を注いできた年月だ。それだけ長い間リリアを縛っておいて、王家の人間として責任は感じないのか」
ドンッと大地を揺るがす足音。
アランを見下ろすルーベンスのガーネットの瞳が、静かな怒りに燃えた。
「一週間、それで十分だ」
「ちょっと待ってくれ、ルーベンス」
「来週、王家主催の晩餐会があるだろう。その日までリリアのために時間を割け。異論は認めない」
「いや、だが私が関われば余計に……」
「それでどうだ? リリア」
「十分です、お兄様」
見つめ合い微笑む兄妹には、アランの戸惑いなど、どこ吹く風。
「わがままを言っているのは、百も承知です。ですが、自分自身に向き合う時間をいただきたいのです。どうか、お付き合いいただけないでしょうか」
その声がわずか震えている。
いつも微笑みを讃え穏やかに佇む彼女が、下げる必要すらない頭を下げて——。
「本当に一週間だけ、それでいい?」
深く頷いたリリアージュに、アランは穏やかに微笑む。
「わかった。だけど、君を導くなんて私には……だから、君に言った言葉の意味を分かってもらうために努力する。それで、いいかな?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
「さぁ、そうと決まれば諸々の手続きは、私に任せてくれ」
手拍子一発、ルーベンスは高らかに宣言する。
「お前……やけに張り切っているな」
「当たり前だろ。リリアには早く笑顔になってほしいからな……それに」
ルーベンスは素早くアランに近付くと、彼の耳元に顔を寄せた。
「お前だって、まだ諦めたわけじゃないんだろ?」
「ルッ、ルーベンス!」
瞬く間に赤くなったアランを置き去りにして、兄は笑いを堪えながらリリアージュの元へ。
「リリア、明日はいつも通り王城に来てくれ。城の者に案内するよう伝えておく」
「承知しました……お兄様、ご面倒をおかけして申し訳ございません」
微笑んだまま、ルーベンスは大きく首を振った。
「覚えておいてくれ、リリア。頼られることは、兄である私にとって一番のご褒美なんだよ」
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