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仕事してください
しおりを挟む「あのさぁ、そういうのほんとやめてくんない?まじで、ウザイんだけど」
時が止まったかと思った。
あれ………?今、彼の、たった今私が告白した人から凄惨な言葉が吐き出されませんでしたか………?石のように固まった私に、目の前の彼、空井 素直くんは心底鬱陶しうな顔をした。
私はそれで悟った。
あ、嫌がられてる、と。
***
今思えばあれは最悪で最低すぎる告白の瞬間だった。好きだったという甘酸っぱい恋心は瞬く間に粉砕され、残ったのはショックと悲しさだった。そんなこともあったなと会社の帰り道、呆然と私は思ったわけである。
事の発端は先程の飲み会。いつも若干鬱陶しいなと思ってはいたが悪い人ではないだろうなと思っていた男の先輩。私の教育係でもあった人だ。その人に絡まれたのが全ての始まりだった。
へべれけになった彼は前に自慢していたより、お酒に弱いようだった。
「お酒は飲めない方がいいよ」
突然そんなことを言ってきた先輩。野宮先輩。固まったExcelと格闘していた時に突然話しかけられた私は若干宇宙猫のような顔になりつつも先輩に返した。
「お酒ですか?なんでですか?」
興味は一ミリもなかったがしかし社会人。そうですかで終わるのはあまりにも素っ気なさすぎる。いつもさり気なさを装って自慢っぽい感じに話してくるこの先輩が若干私は苦手だったりする。
「俺強すぎて酔えないもん。まじで辛いよ。鍵阪さんはそんなことないでしょ。いいよねぇ、楽しそう」
突然そんなことを話し出してきた野宮先輩。補足だが野宮先輩は仕事できるアピールをしてくる割には、めちゃくちゃにミスが多い。後輩の私が思うほどなんだから絶対に確実に彼のミスは多いのだろう。前「今持ってる業務少ないんだよねー、なんか手伝おっか?」と言っていたが絶対それ、周りに振られてないだけだと思う。仕事ができないから。察した私であったがしかしそれを口にできるほど鋼のメンタルでもない。
私、鍵阪 雫はそんなことより口より手を動かせよと思ったが後輩の立場では言うことも出来ない。悲しきかなこれが社会人の実情である。どこまでいっても人間は目上のものには逆らえない生き物なのだ………。
「私全然飲めないんですけど………飲める人羨ましいですよ、お酒楽しめるじゃないですか」
「いやぁ。そう思ってるって、若いねぇ」
笑みを含んだその言い方にまたしても若干イラッとする。若いと言われてるだけなのになぜこんなにイラつくのか。ていうか野宮先輩私と歳5つくらいしか変わらない。私が23歳で、野宮先輩が28歳だ。仕事しろよ先輩。
私は愛想笑いで返してそのまま仕事に戻る。死んだExcelは最終的にタスクを無理やり終了させて再起動させた。消えたデータは哀れ消去の道に進むかと思いきや、天才Excel様はしっかりと自動保存機能を働かせてくれていた。Excelに感謝である。
そして今日、事件は起きた。
もう笑うしかない。飲み会で、私がトイレに行って席を外している隙に野宮先輩が勝手にスマホのロックを解除した。
意味がわからん。は?という感じである。
いやお前なにしてんの?と思ったし思わず聞いた。トイレから戻って自分の席を見ると、そこには私のスマホを持ってにやにやした野宮先輩。自分のスマホを勝手に他人に触られるというのがこんなに気持ち悪いことだとは思わなかった。まさに心臓を握られている感覚。気持ち悪い。いやまじで気持ち悪い。思わず奪い取りそうになった。ギリギリこらえた。理性が働くのは人間だからである。お酒が弱いせいで飲む量をセーブしていたのも大きいかもしれない。私は焦りを押し隠しながらそれでもぎこちない声で野宮先輩に聞いた。
「いや、何してるんですか?」
「何って、鍵阪さんのスマホ見てるんだけどさぁ。まじでこれ、まじで?」
「何がですか?っていうか、返してください」
周りがザワザワとする。近くにいた女の先輩………雪山先輩が大丈夫かと視線で問いかけてくる。それに答える余裕はなくて半ば私は奪い取るように野宮先輩からスマホを取り返した。ダメじゃん理性。やっぱ無理だわ。ここらが私の限界だった。
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