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蔵書室で出会っちゃいました

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というわけで、だ。
私はエルヴィノア帝国まで手っ取り早く飛ぶことにした。仕方ない。こちとら命がかかってる。ちなみにあの公爵令嬢はなぜ侍女を狙い撃ちしたかというと、なんと痴情のもつれだったらしい。

公爵令嬢は幼いときからの幼なじみが好きだったが、その幼なじみは侍女に恋をしていて、先日ついに婚約が締結されたらしい。もう叶わないと知って、最後の賭けに出たのだとか。
私が目を覚ましてまずはお兄様に、そして両親にものすごく叱られた私はその時になって事情を知ったのだ。
とはいえ、相手は力のある公爵令嬢。
大々的に罰することは出来ず、王家への忠誠を示す代わりとしてその領地の幾分かを召し上げられるになったらしい。
最近例の公爵家が力をつけていてどうにかそれを抑えられないかと悩んでいた王家とっては格好のチャンスだったというわけだ。
公爵令嬢とは牢屋越しに涙ながらに謝られたが、謝る相手は私じゃないと思う。

ーーーとはいえ、
契りを交わさないと死んでしまうのは事実。

私は数人の侍女と近衛を連れて、エルヴィノアへと遊学するという形で訪れていた。



「フェアリル・エルヴィノアです。この度はようこそ我が国にいらしてくださいました」

物腰柔らかに告げる彼はこの国の第一王子である。物腰が穏やかで、かなり柔和なイメージを受ける。知らぬ人が見たらその柔らかい態度と優しそうな表情とその美しすぎる美貌に天使かと思うだろう。

彼は容姿もいい。一言で言って美青年である。
しかし、彼はあのエルヴィノア帝国の第一王子だ。見た目通りというわけがあるだろうか。いや、ない。
輝くばかりの黄金の前髪は少し長く、中央あたりでクロスするようになっている。耳にかかる横髪は少し跳ねていて、くせっ毛なのかもしれない。
頭頂部分には天使の輪がかかっており、全体的にフェアリル王子は綺麗と称される人だった。むしろ眩しい。
王女である私ですらくらくらしてしまうほどだ
この人何か出してるんじゃないかしら。それこそフェルモンとか。そういう色気的な何かを。

きらきらとしたオーラがさっきからぶつかるぶつかる。そレにあてられたわけではないが、半ば食傷気味に彼を見る。

綺麗なものは好きだが、あまりにも眩いと目に悪い。おまけに私がこの国に飛んできた理由はひとつ。
エルヴィノアと名のつく誰かと性交することである。
この王子にかかずらっている場合ではない。
真っ青な、海のような色をしたフェアリル王子の瞳を見る。

「急なご訪問、申し訳ありません。このように手厚く歓迎していただいて、痛み入りますわ」

私と王子は社交辞令なみに簡単な挨拶を繰り返し、そしてここはひとまず解散ということになった。


その日の夜。
私は護衛を一人つけて夜の蔵書室へと向かっていた。理由は1つ。蔵書室にある王族の家系図を見ることだ。祖国にはなかったが、エルヴィノア王国の、しかも王城の書庫にならあるかもしれないという考えだ。

蔵書室に入ると、人は誰もおらずがらんどうだった。夜の、冷たい空気漂う蔵書室は少し寂しい印象を受ける。あと、少しだけ怖い。

いや、怖いなんて今は言っている場合じゃない。

幽霊を怖がってる暇はない。
このままだとあと5日で私が幽霊になってしまうかもしれないのだ。こんな死に方絶対成仏できる気がしない。

そう思って蔵書室の中に入り、堂々と本棚に向かったのだがーーー

「あら?フェアリル殿下………」

「リリアンナ王女か。どうしたんだ?こんな時間に、こんな場所に一人で来るなんて」

言外に危ないだろう、と言われる。
エルヴィノアとしても遊学に来た王女が王城でトラブルに巻き込まられるのはごめんなのだろう。分かってはいるが、ちゃんと護衛はいる。蔵書室の扉の外に置いてきているだけだ。
それを告げると、フェアリル殿下は形のいい眉を少し寄せた。

「ひとり?まさか、あなたとその護衛おひとりでここまできたのか」

「そうですわ。何かおかしい?」

「おかしいも何も、少なすぎないか。ここはエルヴィノア帝国だ。妙な真似をする輩はいないだろうが、あなたが祖国にいた時に比べれば、危険度は増す。浅慮な行動は控えるべきだ」

この王子、意外と言うわね………。
この柔らかそうな見た目に反して、ガンガン言ってくる。さすがエルヴィノア帝国の王太子であると言うべきか。私は内心うんざりしながらも笑って答えた。たしかに迂闊な行為だったかもしれない。ここはデスフォワードではないのだ。

「申し訳ありません、以後気をつけますわ」

とはいえ、今連れてきてる護衛は国で一番腕がたつのよね…………。ついデスフォワードのノリで連れてきてしまった。
でも確かに他国であることを鑑みれば、あと数人は必要だったかもしれない。その大所帯ぶりを想像するとうんざりするが、仕方ない。立場のある人間とはこういうものなのだ。
無理矢理自分を納得させる。
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