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フェアリル・ユノン・エルヴィノア ①

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フェアリル・ユノン・エルヴィノア。
エルヴィノア王国の第一王子であり、王太子だ。
彼は亡き妃によく似た白皙の美貌で、生まれながら神に愛された子として国中から愛されていた。
彼は美しかったのだ。
烟るような白金の髪は絹糸のように柔らかく見え。白金のまつ毛が彩る蒼い瞳は、宝石のように透き通り、光の当たり加減によってその色合いを変える。白金のまつ毛は一般的な女性より長く、鼻筋は通っていて、唇は薄い。日焼けを知らぬような白い肌は頬や首筋をいっそ不健康なほど際立たせて見せた。

今は亡き王妃は傾国の美女とされるほどの美しさだった。フェアリルは彼女にとても良く似ている。

「兄上、そろそろご結婚を考えられないのですか」

妾妃腹の義弟、テオドールが不意のおり、聞いてきた。フェアリルは成人とされる15をすぎても未だに婚約を結んでいなかった。
それはひとえに、彼が気難しい性格だからだろう。
見た目を幼い頃からちやほや持て囃された彼は、自分の容姿が嫌いになってしまっていた。幼い時は、嫌気がさして白皙の頬に熱湯をかけたことすらあった。

しかし、魔法というのは優秀だ。
熱湯をかぶった幼い王子を、すぐに魔法で治癒した。そして、注意を怠ったとして、王子の側近といつも控える治癒師、文官までもが処分された。中には処刑されたものもいたはずだ。
行き過ぎた処分であることは誰の目から見ても明らかだった。
だけど、誰も異を唱えなかったのだ。王子を守る立ち位置にいながらそれを怠ったとして、当然の罰だとみなが口を揃えて言っていた。その時、フェアリルは城の異常性に気がついた。
フェアリルは生まれながらに見た目をちやほやされてきたが、しかしあまりにも行き過ぎている。
その時のフェアリルは酷く思い悩まされた。自分の軽はずみな行動が、他人を死に追いやってしまった。彼はそれから、自分を傷つけるような真似はしなかった。しかし、彼の心はそれ以来酷く冷たく凍てついていたのだ。

彼が15を過ぎて少ししてから。
彼は国王に呼び出された。国王の執務室に行けば、王女のベルティニアが共に呼び出されていた。ベルティニアは妹とはいえ、フェアリルとは半分しか血が繋がっていない。
しかし、彼女はフェアリルを異性として見ていた。それに気がついたのはだいぶ前だったが、半分でも血の繋がっている妹に男として見られたことはフェアリルに鳥肌を立たせるほど気味の悪いものだった。
国王はにこにこと笑いながら言った。

「フェアリル、お前はその年まで浮いた噂がひとつもないなぁ」

のんびりした王の声。
穏やかな性格の王ではあるが、この時ばかりはフェアリルは嫌な汗が止まらなかった。

「それは……。私は、まだ決めるつもりがないからです」

「しかし、お前ももう15。そろそろ婚約者を決めてもよい頃合かと思うが」

嫌な予感がする。そして、それは当たってしまうのだ。

「ベルティニアを妃にしなさい」

それに、反射的にフェアリルは叫んでいた。

「父上、恐れながら私には想うひとがいます。婚姻を結ぶのであれば、その方がいい」

本当は他にも聞きたいことがあった。
妹であるベルティニアと婚姻を結んで、この国になんの得があるのか、とかもっとよい縁談があるのではないか、とか。王太子として政治的婚姻を結ぶつもりはある。それは、王子として生まれてから覚悟していた。
だけど、その相手が妹とは。意味がわからなかった。だけどその全てを王にぶつけても、王はやはりにこにこと笑うだけだろう。
この婚姻を阻むには、なにか強力な理由がないといけないとフェアリルは思った。そして、フェアリルが告げると、まず妹のベルティニアが叫んだ。

「なぜ!どうしてなの、お兄様!」

「ほお。おまえによき相手がいるとは思わなかった。して、相手は」

王はギラついた目でフェアリルを見た。疑っているのだ。フェアリルにそんな相手はいない。だけど答えるしか無かった。

「…………レベッカ。レベッカ・バーチェリー侯爵令嬢です」

「………レベッカか」

王がため息を漏らす。
レベッカは、王妹の娘。つまり、フェアリルの従兄弟にあたる。フェアリルの言葉に、ベルティニアは信じられない目でフェアリルを見てきた。その瞳には涙の膜が貼っている。
フェアリルは自分の顔が大嫌いで、嫌悪すらしていた。この顔のせいで今までろくな目にあってきてないからだ。夜会では何かと粉をかけられるし、中には相手を思いやらず強行的手段に及ぼうとする輩もいる。それは男女問わずである。
幼い頃は侍女に手を出されそうになり、続いて自分付きの文官に襲われそうになり、フェアリルは子供ながら酷い人間不信になっていた。そんな彼が恋などできるはずもなく。

そして、そんな彼が名指しした相手こそ、今の婚約者なのであった。


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