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賽は投げられた
しおりを挟む『親愛なるデスフォワード王女 リリアンナ様』
「さ、様……」
当てつけのようにデスフォワードの王女、デスフォワードの王女と呼ばれていたのでここにきて彼の丁寧な呼び方に動揺を隠せない。でも、そうよね。手紙なのだからある程度礼儀は必要よね。
………どんな顔をしてこの手紙を書いたのかしらね。
『思えば僕は今まで自分の人生で賭けようと思ったことは無い』
(それは当然じゃない?次期国王が賭博好きなんて国政破壊待ったナシよ)
『一度きりの人生だ。僕も、きみも、冒険してみてもいいんじゃないかと思った』
(巻き込まれた!)
どうしてそこで私の名前が入るのだろう。
まさかお父様になにかこう……面倒な連絡でもするつもり!?国同士の関係悪化に繋がりかねない書簡でも送るのかしら!?焦った私は斜め読みで手紙を読んだ。とはいえ、手紙はとても短文だった。そこは彼らしい。
『きみはなにかやらかして、生涯の呪いをかけられた。ご愁傷さまだね。きっと何をしたかまでは想像がつかないけどよっぽどのことなんだろう』
(かけられたのは私じゃないわよ!)
……って、そう言えばフェアリル殿下には言ってなかったわ。つまり私は彼の言うとおり何かやらかして全くの第三者を巻き込んで延命措置を測る悪人。罪人。自業自得な人間だと思われてるのかしら………。いや、呪われるって逆恨みの可能性もあるじゃない!なんなのよ!
『僕のことではないんだから、きみのことは放っておいてさっさと帰国させても良かったんだ』
(私を見殺しにするっていうのね!!)
酷いひとである。エルヴィノアの王太子なのに心が狭いわ……!
でも、彼の言うとおりだった。彼に、私を救う義務はない。私も巻き込まれたが、私の場合は自国の貴族が起こしたこと。それに比べ彼は完全にとばっちりというか、巻き込まれただけだ。彼は巻き込まれ体質なのかもしれない。
私は現実逃避した。
『だけど、僕はそれをしなかった』
(あなたはお人好しだものね)
『僕はきみを愛だの恋だのといった感情で思ってはいないが、面白いとは感じている。きみを助けて、きみとの未来を考えても悪くないかな、と思うほどには。だから、選択肢をあげるよ』
(面白い……褒められているのか微妙なところだわ。いや、これ淑女に言う言葉かしら?)
考えて|頭(かぶり)をふる。
いや、そもそも私は淑女の資格を既に失っているのだ。淑女であれば男性に子種をねだって飛びかかりなどはしないわよね……。
必死だったといえばそれまでだが、深窓の令嬢が取る行動ではない。
(嫌悪されてないだけ良かったとしましょう)
お前のせいで僕の生活はめちゃくちゃになった、二度と来るな、と書かれている可能性もあったと思っていたのだ。それに比べれば断然ましな内容である。
ふんふんと読み進める。
そして。
「………えっ!?」
私は思わず声が出てしまった。彼からの手紙の最後には。
『命が惜しいなら、タイムリミットが訪れる前に僕と関係を持てばいい。その時点で、エルヴィノアの次期王妃はきみに決まる』
「僕はそれを受け入れる……だけど、きみが来なかった場合。僕はきみのためになにかすることはないし、きみにもう会うことは無い………!?」
(ちょっ………え、ええ!?)
私は目を丸くして、立ち尽くした。
僕はそれを受け入れるっ……あっさり言うけども!あなたが受けいれたとして、あなたの婚約者はどうなるのよ!そっちのことも考えているのかしら!?
私が彼に会いに行けば、呪いは解ける……処女は失うけれど……。
だけど、会いに行かなければ私は死ぬことが確定している。
私は思わずよろめいてしまった。
「な、なんていう手紙をよこすのよ、あのひとは……!」
私は動揺でうまく言葉が紡げなかった。
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