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狂った恋情

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「導き出されたのは、第二妃の手のものによる犯行の可能性が高い、ということだった。……とはいえ、その時にはもう父は置物同然、政務をこなすどころか寝室から出ることもままならないほどに憔悴していた。王妃亡き後、権力の拡大を狙っていた第二妃の存在そのものを忘れ去り、王城内から追い出す始末。滞った政務はまだ幼く未熟な王子に引き継がれた。経験も技量も実力も足らない王太子が突然、実務に駆り出されて機能すると思うか?慣れるまでの数年間、僕はそれにかかりっきりになったし、今更父に、第二妃の凶行であったことを伝えて暴走されても困る。その状況がつい最近まで続いた」

(ええと……フェアリル殿下のお母様、王妃殿下は既に亡くなられていて。自殺だと思われていたけれど、実際は他殺。手にかけたのはベルティニア様のお母様──第二妃だった、ということ?えっ、えっ、それはつまり──)

とんでもない|醜聞(スキャンダル)なのではないかしら……!?
エルヴィノア王国の王族内で謀殺があった、なんて。他国籍の私が聞いていいような内容ではないと思う。血の気が引いて、青ざめながらフェアリル殿下を見つめる。
彼は鋭い眼差しでベルティニア様を見ていた。ベルティニア様は──真っ青な顔で、唇はわなないていた。

「う、嘘よ……。そ、そんなのでたらめ、だわ」

その声はふるえ、上ずっている。当然だ。
誰しも肉親が殺人犯だと言われれば動揺もする。
見ず知らずの私でさえ戸惑っているのだから。

「……当時の証拠品と裏付け記録のある報告書は既に陛下に提出している。必要なら公的機関に確認してもらってもいい。けどそれは同時に王家の醜聞を公にすることになる。照合、精査の結果事実だと判明したら──ベルティニア、お前の立場は失われる。第二妃共にな」

「──」 

「僕はどちらでも構わない」

「それ、は……」

歯切れ悪くベルティニアが視線をさまよわせた。
事実でなくても、事実であっても疑惑が浮上した時点で瑕疵がつくだろう。
どちらにせよベルティニア様の社交界での立場は難しいものとなる。
そわそわと居心地が悪い思いでいると、フェアリル殿下が不意にこちらを見た。

(な、何……!?)

「ベルティニアの処分は父上に任せます。そして──デスフォワード王国王女のリリアンナについてですが」

「ああ……。バーチェリー家の娘との婚約を破棄し、デスフォワードの王女と婚約を結び直す、というやつか」

国王があっさり言う。それに私は心臓が飛び出すのではないかというほど驚いた。

(え………!?婚約!?いや、そうか。そうよね。もう関係を結んでしまったわけだし……!?)

私は純潔を失ってしまった。
奪ったのが他国の王族だと言うのなら、責任が生じて当然だ。とはいえ、まだ私の心は状況に追いついていなかった。
だって今朝まで、フェアリル殿下の婚約者のことで頭がいっぱいで──。彼との未来を思い描けるほど楽観的に考えることは出来なかった。フェアリル殿下の婚約者への罪悪感とか、罪滅ぼしとか、贖罪とか、とにかくそのことで頭がいっぱいだったのだ。

(私フェアリル殿下と結婚するの?……するの!?)

つい何度も瞬いてしまう。
動揺しているうちに、ジュノン陛下は続きを口にした。

「本来なら、私はそれを否定し、認めず、然るべき処分を下すべきなのだろう。お前とバーチェリーの娘の関係がどうあれ、あれはれっきとした契約だ。書面上での制約だ。そう簡単に覆されては、国の秩序を乱しかねない」

「ええ。理解しています」

「……私は、早くお前の子を見たかった。リディアの血を引く娘が欲しかった。……遠い記憶にしか無い彼女の面影を追いたかった。だから、お前に婚姻を急かした。相手は誰でも良かったのだ。お前が、早く子を成しそうな相手であれば」

(な、なんというか……)

一国の国王相手に思うことは大変不敬かと思うけど……。

狂ってる。

そう思った。ジュノン陛下はやつれて憔悴し、病人の様相をしているが、それは恋の病なのかもしれない。もう治らない。
恋に、恋情に狂わされてしまった。ジュノン陛下の気持ちを全て理解することはできないけれど、私ですらわかるほどに彼は──苦しいのだろう。命を絶たずにいるのは、彼の国王としてのなけなしの矜恃か。義務か。

「だが……国王であることを放棄し、真実を見失い、ただ逃避に明け暮れた私が言うべきことではない。私に、そんなことを言う資格はとうにない。国を乱さないのなら、よい。秩序を保てるというのなら、好きにしなさい。それが私の答えであり、条件だ」

「……分かりました」

国王は頷いて答えると、私を見た。
視線が初めて交わってびくりとする。

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