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1.余命一年の公爵令嬢
冷静ではいられない
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フランシスを連れ出して、会場を後にする。
あんな騒ぎがあった以上、長居はできない。
(お父様にどう説明しようかしら……)
婚約者を、侍女に取られました、って?
どう説明しても頭の痛くなりそうな展開だ。
馬車に乗り込み、フランシスは私の対面に座った。
そこで聞いた話は──
「私が望んだことではないんです。本当です。ブライアンが、勝手に」
と言って彼女は泣き、
「お嬢様を裏切るつもりではなかったんです。本当です」
とふたたび泣いた。
嗚咽混じりなので、彼女が何を言っているのか聞き取るのにも苦労した。
フランシスは、さっきも聞いたような言葉を何度も繰り返す。
そしてもう少しで公爵邸に到着する、という時。
彼女は、私が思ってもいなかったことを、口にした。
「お嬢様は毒を飲ませられています……!!魔力低下は、それが理由です!」
目を、見開いた。
邸に到着したけれど、私は馬車から降りることが出来なかった。
それくらい、フランシスの言葉は衝撃的だったからだ。
絶句する私に、フランシスは俯き、肩を震わせながら言った。
【ルチアは、毒を盛られている。
それも、婚約者のブライアンに】
「私も、知らなかったんです。それを知ったのはつい最近で……。私、とんでもないことをしていると……」
ブライアンと子供を作っておいてとんでもないこととは、かなり今更な気もするけれど、今この場において重要なのはそこではなかった。
(……ブライアンが?私に?)
私に、毒を飲ませ、魔力を低下させた。
結果、今の私は魔女の称号を名乗るに足る魔力すら維持出来なくなっていた。
心当たりは、あった。
彼と会う度に、彼は私にハーブティーを飲ませた。
初めて飲んだのは、彼が珍しいハーブを手に入れたと教えてくれた時だった。
(あれは何年前?)
確か──一年くらい、前、だったはず。
その味を気に入ったと言ったら、ブライアンはそれ以降欠かさず、私と会う時には茶葉を持参するようになったのだ。
甘ったるい味のハーブだった。
飲んだ後も舌にこびりつくような甘い味。
それを、私は気に入ったのだ。
お菓子のようなお茶ね、と言った覚えがある。
それに、ブライアンはなんて言っただろうか。
笑っていた?
……覚えていない。そんな、前のこと。
そんな、些細な彼の反応なんて。
目を見開く私に、目の前のフランシスはすすり泣く。
限界だ、と彼女は訴えた。
自分には子供がいる。ブライアンの子供だ。
ブライアンとの関係は、怖くて誰にも言えずにここまで来てしまった。だけど子供が出来て、もう限界だと思ったとのことだった。
彼女の訴えを、どこか遠くで聞いているような気持ちになった。
心臓だけが、いやにうるさく音を立てている。
ドッドッドッドッ、と、まるで、体全体が脈を打っているかのようだった。
フランシスが、顔を上げる。
涙に濡れた蜂蜜色の瞳が、意志を持って私を見つめていた。
(そういえば、停車してから随分時間が経つけれど。誰も扉を開けないわ)
きっと、私が話し込んでいることを察して、待ってくれているのだろう。
公爵家の使用人は優秀だ。
それか、お父様に報告に行っているのかも。
そんなことを予想していると、フランシスが涙交じりの声で言った。
「私の子供を……ルントシュテット公爵家に迎え入れてあげてくださいませんか……!?」
「何を、言ってるの?」
掠れた声が出た。
本当に、意味が分からなかった。
首を傾げると、フランシスがびくりと肩を震わせて、身を引く。
それから、声を震わせて言葉を続けた。
「この子は……ブライアンの血を引いています。だから……」
「それが、どうして私があなたの子を引き取ることになるの?」
本当に、分からなかった。
訳が分からなくて、重ねて聞くと、彼女は嗚咽を零しながら、自身の腹部に手を当てた。
それから、俯いて、ボソボソという。
「……魔力量の多い女性は、子ができにくいと聞きます。だから」
「よく分からないわ。たとえ、私が子供の出来にくい体質だとしても。それがどうして、私があなたの子供を引き取ることに繋がるの?」
「ブライアンの子供は、ルチア様の子供です」
「私とブライアンは、別の人間よ?」
フランシスが何を言いたいのか分からなくて、ちょっと本気で、戸惑った。
すると、フランシスはぶわっと涙を零れさせた。
「ルチア様とブライアンは結婚するのでしょう?」
「その予定だったけれど」
だけどもう、私を裏切って婚外子を作り、あまつさえ私に毒まで盛った可能性のある彼と結婚する気はない。
(ブライアン、ね……)
フランシスは、慣れたように彼をそう呼ぶ。
一体、いつから関係していたのだろう。
フランシスが妊娠したことと、彼が私に毒を盛り始めたことに、なにか関係があるのだろうか。
フランシスは、ぎゅっとスカートを掴み、私に頭を下げた。
「ごめんなさい、ルチア様……。だけどどうか、この子は許してください……」
今の彼女は、冷静ではない。
場を改めることとして、私は彼女を置いて馬車を降りた。
考えることは、たくさんあった。
あんな騒ぎがあった以上、長居はできない。
(お父様にどう説明しようかしら……)
婚約者を、侍女に取られました、って?
どう説明しても頭の痛くなりそうな展開だ。
馬車に乗り込み、フランシスは私の対面に座った。
そこで聞いた話は──
「私が望んだことではないんです。本当です。ブライアンが、勝手に」
と言って彼女は泣き、
「お嬢様を裏切るつもりではなかったんです。本当です」
とふたたび泣いた。
嗚咽混じりなので、彼女が何を言っているのか聞き取るのにも苦労した。
フランシスは、さっきも聞いたような言葉を何度も繰り返す。
そしてもう少しで公爵邸に到着する、という時。
彼女は、私が思ってもいなかったことを、口にした。
「お嬢様は毒を飲ませられています……!!魔力低下は、それが理由です!」
目を、見開いた。
邸に到着したけれど、私は馬車から降りることが出来なかった。
それくらい、フランシスの言葉は衝撃的だったからだ。
絶句する私に、フランシスは俯き、肩を震わせながら言った。
【ルチアは、毒を盛られている。
それも、婚約者のブライアンに】
「私も、知らなかったんです。それを知ったのはつい最近で……。私、とんでもないことをしていると……」
ブライアンと子供を作っておいてとんでもないこととは、かなり今更な気もするけれど、今この場において重要なのはそこではなかった。
(……ブライアンが?私に?)
私に、毒を飲ませ、魔力を低下させた。
結果、今の私は魔女の称号を名乗るに足る魔力すら維持出来なくなっていた。
心当たりは、あった。
彼と会う度に、彼は私にハーブティーを飲ませた。
初めて飲んだのは、彼が珍しいハーブを手に入れたと教えてくれた時だった。
(あれは何年前?)
確か──一年くらい、前、だったはず。
その味を気に入ったと言ったら、ブライアンはそれ以降欠かさず、私と会う時には茶葉を持参するようになったのだ。
甘ったるい味のハーブだった。
飲んだ後も舌にこびりつくような甘い味。
それを、私は気に入ったのだ。
お菓子のようなお茶ね、と言った覚えがある。
それに、ブライアンはなんて言っただろうか。
笑っていた?
……覚えていない。そんな、前のこと。
そんな、些細な彼の反応なんて。
目を見開く私に、目の前のフランシスはすすり泣く。
限界だ、と彼女は訴えた。
自分には子供がいる。ブライアンの子供だ。
ブライアンとの関係は、怖くて誰にも言えずにここまで来てしまった。だけど子供が出来て、もう限界だと思ったとのことだった。
彼女の訴えを、どこか遠くで聞いているような気持ちになった。
心臓だけが、いやにうるさく音を立てている。
ドッドッドッドッ、と、まるで、体全体が脈を打っているかのようだった。
フランシスが、顔を上げる。
涙に濡れた蜂蜜色の瞳が、意志を持って私を見つめていた。
(そういえば、停車してから随分時間が経つけれど。誰も扉を開けないわ)
きっと、私が話し込んでいることを察して、待ってくれているのだろう。
公爵家の使用人は優秀だ。
それか、お父様に報告に行っているのかも。
そんなことを予想していると、フランシスが涙交じりの声で言った。
「私の子供を……ルントシュテット公爵家に迎え入れてあげてくださいませんか……!?」
「何を、言ってるの?」
掠れた声が出た。
本当に、意味が分からなかった。
首を傾げると、フランシスがびくりと肩を震わせて、身を引く。
それから、声を震わせて言葉を続けた。
「この子は……ブライアンの血を引いています。だから……」
「それが、どうして私があなたの子を引き取ることになるの?」
本当に、分からなかった。
訳が分からなくて、重ねて聞くと、彼女は嗚咽を零しながら、自身の腹部に手を当てた。
それから、俯いて、ボソボソという。
「……魔力量の多い女性は、子ができにくいと聞きます。だから」
「よく分からないわ。たとえ、私が子供の出来にくい体質だとしても。それがどうして、私があなたの子供を引き取ることに繋がるの?」
「ブライアンの子供は、ルチア様の子供です」
「私とブライアンは、別の人間よ?」
フランシスが何を言いたいのか分からなくて、ちょっと本気で、戸惑った。
すると、フランシスはぶわっと涙を零れさせた。
「ルチア様とブライアンは結婚するのでしょう?」
「その予定だったけれど」
だけどもう、私を裏切って婚外子を作り、あまつさえ私に毒まで盛った可能性のある彼と結婚する気はない。
(ブライアン、ね……)
フランシスは、慣れたように彼をそう呼ぶ。
一体、いつから関係していたのだろう。
フランシスが妊娠したことと、彼が私に毒を盛り始めたことに、なにか関係があるのだろうか。
フランシスは、ぎゅっとスカートを掴み、私に頭を下げた。
「ごめんなさい、ルチア様……。だけどどうか、この子は許してください……」
今の彼女は、冷静ではない。
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