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2.公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
私を幸せにするための方法
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私の言葉に、陛下は眉をツイ、と持ち上げた。
「何だ?」
「陛下は、私に解毒を命じるおつもりかと思います。そう仮定してお話します」
魔力の減少には、通常、対処療法しか手段がない。
ごく稀に、風邪や感染症で高熱を出した際、その後遺症で魔力減少が見られることがある。
深刻度はひとによって異なり、酷いと生存に必要な魔力する失われてしまうこともある。
恐ろしい後遺症だ。
失われた魔力を回復する治癒士ももちろんいるが、彼らが治せるのは軽度の魔力減少のみ。
簡単に言ってしまえば、戻す魔力よりも抜けてしまう魔力の方が多いので、焼け石に水なのである。
私も彼らの治療を受けたことがある。
だけど私は元の魔力量が豊富なためか、全く意味がなかった。
死亡日が数日遅れる程度かな、くらいにしかならなかったので、治療を断念し、ほかの方法を模索することとなった。
そもそも、私の魔力減少の原因が不明だったのだ。
対処の仕様がなく、手をこまねいていた。
発熱による後遺症なら、治癒士に治療してもらうのが正当法だが、私の場合そうではなかった。
まさか陛下も私も、毒を盛られているとは思わなかったのだ。
私は陛下の反応に、自分の推測が誤りではないことを確認した。
「西には、治癒魔術を専門とした専門機関があり、そこに所属する聖魔導士なら私を解毒することも不可能では無いかもしれない。……陛下も、そうお考えかと思います」
「そうだね。あなたの魔力が失われるのは惜しい。魔女の力は、我がルヒトゥルスにとっても重要だ。オッキデンスには、我が愚息もいる。呼び戻し、治療に当らせよう」
陛下の言う愚息とは、元第二王子のことだろう。
彼は、王位継承権を返上し、王籍を抜けた。
聖魔導士は、聖職者だ。
俗世の身は捨てなければならない。
「恐れながら陛下、私はそれを望みません」
「なぜだ?」
「もし、それで私の魔力が完全に復活、あるいは回復するようなら、ふたたび私は婚約を結び、この血を繋ぐ必要があるでしょう。ですが、私はもう誰にも裏切られたくありません」
「世の男はみな、ブライアンのように短慮ではないぞ」
陛下の言葉の裏には
『騒動になるような真似はしない』
という意味が示唆されている。
なるほど、世慣れた男ならブライアンのような下手は打たないだろう。
確かに、その通りだ。
私は首を横に振る。
「また、毒を盛られたらと思うと恐ろしいのです」
「そんな不遜な真似をするやつは、そうそう現れまい」
「もし、その限りなく低い確率を引き当ててしまったら?今度こそ私は、魔女の肩書きを返上しなければなりません。魔女の名は、私の誉れです。栄誉です。失うなど……とても、恐ろしいことなのです」
魔力も失われ、肩書きも奪われたら、私に残るものは何も無くなってしまう。
陛下は、一度私から魔女の称号を取り上げようとした後ろめたさからか、僅かに鼻白んでみせた。
だけどその反面、小娘が一人前に取引を持ちかけてくることが愉快そうでもあった。
「ですから……陛下。私に、失われない、確かなものをくださいませ」
私は、私を幸せにするための方法を二つ見つけた。
そのひとつが、今、陛下にお願いすることだ。
「私に、公爵位を。私に継承権をくださいませ、陛下」
私には継承権がない。
私の夫が、つまりブライアンが次の公爵当主になる予定だった。
だけど、こんなことが起きて私は思ったのだ。
私の幸せは、ブライアンにあった。
私は彼に、私の幸福を見出していた。
だけど、他でもない彼から拒否されたことで、私は今一度、自分の幸福というものを考えるようになった。
そして、思ったのだ。
私は、揺るぎない確かな地位が欲しい。
容易く奪われてしまうような、魔女の称号ではなく、確実なものが欲しかった。
「私に、公爵位の継承権を。そうであれば、私は何の憂いなく、魔力回復に努めることが出来ます」
つまり、私が陛下に持ちかけたのは、陛下の提案を受け入れる代わりに、公爵位の継承権を求めるものだったのだ。
「……ふむ。女公爵になると言うのか、あなたは」
「恐れながら」
「ルントシュテット公爵。貴公はどう考える」
指名を受けたお父様は、伏せていた顔を上げた。
それから、覚悟を決めたように答える。
「私の娘は、ずいぶん苦しみました。その彼女が前を向いてくれると言うのなら、親として言うことはありません」
「貴族ではなく、親として答えるか」
陛下は少しの間考え込んでいたが、やがて、頷いて見せた。
許可が降りたのだ。
「よい。此度の件、私にも責任がある。レディ・ルチア。あなたの公爵位継承権を認めよう」
「何だ?」
「陛下は、私に解毒を命じるおつもりかと思います。そう仮定してお話します」
魔力の減少には、通常、対処療法しか手段がない。
ごく稀に、風邪や感染症で高熱を出した際、その後遺症で魔力減少が見られることがある。
深刻度はひとによって異なり、酷いと生存に必要な魔力する失われてしまうこともある。
恐ろしい後遺症だ。
失われた魔力を回復する治癒士ももちろんいるが、彼らが治せるのは軽度の魔力減少のみ。
簡単に言ってしまえば、戻す魔力よりも抜けてしまう魔力の方が多いので、焼け石に水なのである。
私も彼らの治療を受けたことがある。
だけど私は元の魔力量が豊富なためか、全く意味がなかった。
死亡日が数日遅れる程度かな、くらいにしかならなかったので、治療を断念し、ほかの方法を模索することとなった。
そもそも、私の魔力減少の原因が不明だったのだ。
対処の仕様がなく、手をこまねいていた。
発熱による後遺症なら、治癒士に治療してもらうのが正当法だが、私の場合そうではなかった。
まさか陛下も私も、毒を盛られているとは思わなかったのだ。
私は陛下の反応に、自分の推測が誤りではないことを確認した。
「西には、治癒魔術を専門とした専門機関があり、そこに所属する聖魔導士なら私を解毒することも不可能では無いかもしれない。……陛下も、そうお考えかと思います」
「そうだね。あなたの魔力が失われるのは惜しい。魔女の力は、我がルヒトゥルスにとっても重要だ。オッキデンスには、我が愚息もいる。呼び戻し、治療に当らせよう」
陛下の言う愚息とは、元第二王子のことだろう。
彼は、王位継承権を返上し、王籍を抜けた。
聖魔導士は、聖職者だ。
俗世の身は捨てなければならない。
「恐れながら陛下、私はそれを望みません」
「なぜだ?」
「もし、それで私の魔力が完全に復活、あるいは回復するようなら、ふたたび私は婚約を結び、この血を繋ぐ必要があるでしょう。ですが、私はもう誰にも裏切られたくありません」
「世の男はみな、ブライアンのように短慮ではないぞ」
陛下の言葉の裏には
『騒動になるような真似はしない』
という意味が示唆されている。
なるほど、世慣れた男ならブライアンのような下手は打たないだろう。
確かに、その通りだ。
私は首を横に振る。
「また、毒を盛られたらと思うと恐ろしいのです」
「そんな不遜な真似をするやつは、そうそう現れまい」
「もし、その限りなく低い確率を引き当ててしまったら?今度こそ私は、魔女の肩書きを返上しなければなりません。魔女の名は、私の誉れです。栄誉です。失うなど……とても、恐ろしいことなのです」
魔力も失われ、肩書きも奪われたら、私に残るものは何も無くなってしまう。
陛下は、一度私から魔女の称号を取り上げようとした後ろめたさからか、僅かに鼻白んでみせた。
だけどその反面、小娘が一人前に取引を持ちかけてくることが愉快そうでもあった。
「ですから……陛下。私に、失われない、確かなものをくださいませ」
私は、私を幸せにするための方法を二つ見つけた。
そのひとつが、今、陛下にお願いすることだ。
「私に、公爵位を。私に継承権をくださいませ、陛下」
私には継承権がない。
私の夫が、つまりブライアンが次の公爵当主になる予定だった。
だけど、こんなことが起きて私は思ったのだ。
私の幸せは、ブライアンにあった。
私は彼に、私の幸福を見出していた。
だけど、他でもない彼から拒否されたことで、私は今一度、自分の幸福というものを考えるようになった。
そして、思ったのだ。
私は、揺るぎない確かな地位が欲しい。
容易く奪われてしまうような、魔女の称号ではなく、確実なものが欲しかった。
「私に、公爵位の継承権を。そうであれば、私は何の憂いなく、魔力回復に努めることが出来ます」
つまり、私が陛下に持ちかけたのは、陛下の提案を受け入れる代わりに、公爵位の継承権を求めるものだったのだ。
「……ふむ。女公爵になると言うのか、あなたは」
「恐れながら」
「ルントシュテット公爵。貴公はどう考える」
指名を受けたお父様は、伏せていた顔を上げた。
それから、覚悟を決めたように答える。
「私の娘は、ずいぶん苦しみました。その彼女が前を向いてくれると言うのなら、親として言うことはありません」
「貴族ではなく、親として答えるか」
陛下は少しの間考え込んでいたが、やがて、頷いて見せた。
許可が降りたのだ。
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