公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。

文字の大きさ
6 / 12
2.公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

私を幸せにするための方法

しおりを挟む
私の言葉に、陛下は眉をツイ、と持ち上げた。

「何だ?」

「陛下は、私に解毒を命じるおつもりかと思います。そう仮定してお話します」

魔力の減少には、通常、対処療法しか手段がない。

ごく稀に、風邪や感染症で高熱を出した際、その後遺症で魔力減少が見られることがある。
深刻度はひとによって異なり、酷いと生存に必要な魔力する失われてしまうこともある。
恐ろしい後遺症だ。

失われた魔力を回復する治癒士ももちろんいるが、彼らが治せるのは軽度の魔力減少のみ。
簡単に言ってしまえば、戻す魔力よりも抜けてしまう魔力の方が多いので、焼け石に水なのである。

私も彼らの治療を受けたことがある。
だけど私は元の魔力量が豊富なためか、全く意味がなかった。

死亡日が数日遅れる程度かな、くらいにしかならなかったので、治療を断念し、ほかの方法を模索することとなった。

そもそも、私の魔力減少の原因が不明だったのだ。
対処の仕様がなく、手をこまねいていた。

発熱による後遺症なら、治癒士に治療してもらうのが正当法だが、私の場合そうではなかった。

まさか陛下も私も、毒を盛られているとは思わなかったのだ。

私は陛下の反応に、自分の推測が誤りではないことを確認した。

西オッキデンスには、治癒魔術を専門とした専門機関があり、そこに所属する聖魔導士なら私を解毒することも不可能では無いかもしれない。……陛下も、そうお考えかと思います」

「そうだね。あなたの魔力が失われるのは惜しい。魔女の力は、我がルヒトゥルスにとっても重要だ。オッキデンスには、我が愚息もいる。呼び戻し、治療に当らせよう」

陛下の言う愚息とは、元第二王子のことだろう。
彼は、王位継承権を返上し、王籍を抜けた。
聖魔導士は、聖職者だ。
俗世の身は捨てなければならない。

「恐れながら陛下、私はそれを望みません」

「なぜだ?」

「もし、それで私の魔力が完全に復活、あるいは回復するようなら、ふたたび私は婚約を結び、この血を繋ぐ必要があるでしょう。ですが、私はもう誰にも裏切られたくありません」

「世の男はみな、ブライアンのように短慮ではないぞ」

陛下の言葉の裏には
『騒動になるような真似はしない』
という意味が示唆されている。

なるほど、世慣れた男ならブライアンのような下手は打たないだろう。

確かに、その通りだ。
私は首を横に振る。

「また、毒を盛られたらと思うと恐ろしいのです」

「そんな不遜な真似をするやつは、そうそう現れまい」

「もし、その限りなく低い確率を引き当ててしまったら?今度こそ私は、魔女の肩書きを返上しなければなりません。魔女の名は、私の誉れです。栄誉です。失うなど……とても、恐ろしいことなのです」

魔力も失われ、肩書きも奪われたら、私に残るものは何も無くなってしまう。

陛下は、一度私から魔女の称号を取り上げようとした後ろめたさからか、僅かに鼻白んでみせた。
だけどその反面、小娘が一人前に取引を持ちかけてくることが愉快そうでもあった。

「ですから……陛下。私に、失われない、確かなものをくださいませ」

私は、私を幸せにするための方法を二つ見つけた。
そのひとつが、今、陛下にお願いすることだ。

「私に、公爵位を。私に継承権をくださいませ、陛下」

私には継承権がない。
私の夫が、つまりブライアンが次の公爵当主になる予定だった。
だけど、こんなことが起きて私は思ったのだ。

私の幸せは、ブライアンにあった。
私は彼に、私の幸福を見出していた。

だけど、他でもない彼から拒否されたことで、私は今一度、自分の幸福というものを考えるようになった。

そして、思ったのだ。
私は、揺るぎない確かな地位ものが欲しい。

容易く奪われてしまうような、魔女の称号ではなく、確実なものが欲しかった。

「私に、公爵位の継承権を。そうであれば、私は何の憂いなく、魔力回復に努めることが出来ます」

つまり、私が陛下に持ちかけたのは、陛下の提案を受け入れる代わりに、公爵位の継承権を求めるものだったのだ。

「……ふむ。女公爵になると言うのか、あなたは」

「恐れながら」

「ルントシュテット公爵。貴公はどう考える」

指名を受けたお父様は、伏せていた顔を上げた。
それから、覚悟を決めたように答える。

「私の娘は、ずいぶん苦しみました。その彼女が前を向いてくれると言うのなら、親として言うことはありません」

「貴族ではなく、親として答えるか」

陛下は少しの間考え込んでいたが、やがて、頷いて見せた。
許可が降りたのだ。

「よい。此度の件、私にも責任がある。レディ・ルチア。あなたの公爵位継承権を認めよう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

私を捨てた国のその後を見守ってみた。

satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。 殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。 レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。 長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。 レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。 次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...