公爵令嬢フローラの選択

ごろごろみかん。

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1.取引いたしましょう?

5.知識は武器なのよ


アシェルは、私のために打ち開けてくれたのだろうか。
……こんな、ひとに知られたら危険極まりない秘密を。

もし他人に知られたら──アシェルもミリアも、絞首台に連れていかれるのは間違いない。
それでも、アシェルは私に真実を伝えることを選んだ。

私を、この家から連れ出すために。

「アシェル……ミリアも」

名前を呼ぶと、ミリアはビクッと大きく肩を震わせた。彼女は何も言わない。
私は、ミリアの気持ちが痛いくらい伝わってきたから──彼女を抱き寄せた。

「っ……フ、ローラ」

ミリアが、慣れない名前を口にする。
その声は震えていた。
だから、私は笑ってミリアに答える。

「あら。もう姉様、って呼んでくれないの?」

「──」

私の言葉に、ミリアはみるみるうちに涙を目に貯めた。
すぐに表面張力は決壊し、ぽろぽろ と玉のような涙を流す。

私はそれに困ったように笑って、彼女の涙を拭ってやった。
幼い頃、彼女によくしてあげたように。

「ねえっ……さま……!」

血の繋がりがない?
そんなの、知ったところで私の気持ちは変わらない。

たとえ、血が繋がっていなくても──ミリアは私の可愛い妹だ。
ずっと、一緒に育ってきた。

この、十年間。
ミリアの姉として、私は生きてきたのだ

「なあに?ミリア。泣き虫なのは昔から変わらないわね」

「……!!」

ミリアはもう、何も言えないようだった。

ガバッ!!と強く私を抱きしめてくる。
次第に、彼女の嗚咽は激しくなっていった。

「うええっ……うっ、ふ、うっ…うあ、ぶああああ!!」

泣き方が少し、いや、だいぶ、独特だ。

(ミリアは、社交界では花の令嬢なんて二つ名がついているというのに)

社交界では凛とした振る舞いに、華やかで儚げな雰囲気。何よりその鈴を転がしたような軽やかな声は、紳士のみならず、婦人や令嬢まで魅了している。
その人気は、ファンクラブなるものまで存在するほどなのだとか。

だけど──実際の彼女は。
私の妹は、とても甘えんぼうで、素直だ。
可愛い私の妹。

私は、彼女の背を撫でて言った。

心からの言葉を。
本心を、伝えるように。

「たとえ、血が繋がってなくても。あなたは私の妹よ?それは、変わらないわ」

「ねえさまっ……ねえさま、ごめんなさい。嘘をついててごめんなさい!!」

ミリアは号泣しながら私の胸に額を押し付けてくる。
時折、鼻をすする音がするので、多分、いや確実に、鼻水が私の服についている……。

全く、いつになっても困った妹である。
そして、嗚咽はだんだん激しさを増していった。

「うおおおん、ねえさまぁ!わたしぃ!うおおおん、うえっえぐっ!えぐっ、ひぐうぇっ」

「ゆっくり呼吸して、ほら。ね?」

激しく泣くあまり、ミリアは呼吸困難になっていた。
アシェルは実姉のそんな様子に引いているようだ。

たしかにこんなに派手に泣く令嬢は私も見たことがない……。

「ふふ」

苦笑して、私はミリアの背中を撫でた。
そして私は困った様子のアシェルを呼んだ。

「アシェル。あなたも、私にとって、可愛い弟に変わりはないわ」

「え」

「え?」

それまで、ウオンウオン泣いていたミリアが急に小刻みに震え出す。
まるでスマホのバイブレーションモードのようだ。

「っふ、ふふふ。ふふふふふふ」

「ミリア?」

「あはははっ、姉様ったら……!アシェルはダメよ。姉様の年下枠は、私だけだから」

「……妹ってより小姑だろ、もはや」

苦々しい声で、アシェルが答える。
それに、ガバッと顔を上げてミリアが猛烈に抗議した。

「何ですって!?こんな可愛い女の子捕まえて、何言うのよ!」

「自分で言うんだから世話ないと思うぜ」

「ムカつくうう!!姉様、この男ムカつくわ!!」

「まあまあ」

早速口喧嘩を始めるふたりを、私は苦笑してなだめる。

よく分からない独占欲を見せるミリアだけど、その可愛らしい顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
ついでに、私のドレスの胸元も酷い有様だ……。

(でも……)

泣いたカラスが、もう笑っている。

ミリアが元気になってくれて、良かった。

彼女が落ち着いたところで、私は本題に入った。

「せっかくのお誘いなんだけど……ごめんなさい。私は家に残るわ」

「どうして!?」

弾かれたように顔をあげるのはミリアだ。
アシェルも、眉を寄せている。

「そうね……。一番は、負けたくないから、かしらね」

私の、好戦的な回答に──ふたりは揃って、ポカンとしていた。


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