7 / 80
第一章:シャーロットの異能
なんだ、こいつ
しおりを挟む「ルアンナ……様?」
危ない。危うく呼び捨てにするところだった。
脳内では完全にルアンナ呼びだったから。
私の問いかけに侍女は頷いて答えた。
え、え~~~~~??
突然、訪問?
アポイントメントもなく、突撃?
私は頭の痛くなる思いだった。
以前の私がルアンナとどういう関係だったのかは知らないけど、それでもアポイントメントなしってそれはないでしょう。
養女とはいえ、子爵家のご令嬢なのよね??子爵様は一体何をしているの?
追い返してちょうだい、と言いたかったけれど。
彼女が何の理由で訪ねてきたのかも気になる。
少し考えた私は、侍女に伝言を持たせた上で、彼女を通すことにした。
サロンに足を運ぶと、そこには健康的な美少女がいた。
私と同じ黒髪ではあるが、向こうが太陽の下で快活に笑うタイプの美少女であるなら、私はおっとりとした感じの可憐な少女である。
そう、私は可愛らしい容姿をしているのだ。
決して自惚れではない……と思う。
目が覚めて鏡を見た時に私が思ったのは、まあ、なんて可愛らしい少女なの、だったし。
私好みの容姿と言われればそれまでなのだけど、それでも顔のパーツは全体的に小さめの上、垂れ目がちの紫の瞳は愛らしさを誘うと言えよう。
絶世の美女!社交界の華!!と堂々と公言できるほどでは無いが、見れば、『あら、可愛らしいわ』と言われる程度には可憐な少女なのである。
そして、対面に座るルアンナ・ザイガーは人好きのする親しみやすい愛らしさがある娘、と言えよう。
決して悪評のつもりではないのだけど、棒切れを振り回していても違和感を感じない見た目なのである。
つまり、素朴な愛らしさ、元気いっぱい!という感じの女性。
貴族らしさはあまり感じない。それは、彼女が市井生まれ、市井育ちなのが理由だろうか。
遠目でならこの前の夜会で見たものの、対面するのはこれが初めてだ。
ルアンナは、慣れたようにソファに腰かけている。
この自然な様子からしてここには何度となく来たことがあるのかもしれない。
ルアンナは私を見るとにっこりと笑った。
「お待ちしてました!お義姉様」
「おね……?私が、ですか?」
まだ、結婚してないのだけど?
目を瞬かせる私に、ルアンナは楽しげに笑った。
ずいぶん、馴れ馴れしい。
「やだぁ、そう呼んでもいいって言ったのはお姉様なのに!」
「……そうなのですか?」
しかも、話し方がやけにフランクである。
答えると、ルアンナは変わらず笑みを浮かべた。見た目の印象と違わず、明るい娘だ。
──だけど先日の夜会で彼女から向けられた視線は、とてもではないけど好意的と呼べるものではなかった。
この子、裏がある。
直観的に感じた直後、彼女が言った。
「お義姉様、いつもしているブレスレットはしていないのですか?」
「ブレスレット……。ああ、異能制御装身具のことでしょうか?」
異能制御装身具。
それは、異能保持者のみに渡される、その名の通り異能を制御するための道具だ。
国から【公的異能指標指定者】通称、公標認定を受けたものは、原則、その装身具を身につけることが定められている。
私もまた、公標認定を受けた身なので、長年その装身具──ブレスレットを身につけていたと聞いている。
というのも今の私には記憶が無い、というのと。
記憶を失った今、私はその異能とやらが使えなくなってしまったのだ。
ルアンナは、私をじっくりと見た後、思い出したようにまた言った。
「それと、先日お兄様がプレゼントされたという指輪がございませんわね」
……ルアンナは、私が事故にあって記憶がないことを知らないのだろうか。
少し迷った末、私は答えた。
「指輪ですか?」
「ええ。お義姉様はお兄様から指輪を贈られたはずですわ。侍女から何か聞いていません?」
「さあ……。身に覚えがありませんね」
「間違いなく贈られているはずなのですけど……。お義姉様の手持ちの指輪で、金色の指輪はありませんこと?」
ルアンナが何を聞きたいのか、いまいち分からない。
私は、手持ちの指輪をいくつか思い浮かべたものの、それが婚約者から贈られた、という話は聞いていない。
少し考えてから、私は答えた。
「……金の指輪は持ってますけれど、ジュリアン様からいただいたものではありませんね」
「あら……そうなんですね。そういえば、お義姉様は事故にあって記憶がなかったのですっけ」
今更な質問である。
というか知っていて聞いたのか。
なんなのこの子。
脱力しかけたところで、ルアンナがふたたび口を開いた。
「実は、この国では最愛の女性には金の指輪を贈る風習があるのですわ。ちなみに私は、お兄様から金の指輪をプレゼントされたことがあります!」
──そう言って、にっこりと。
ルアンナは笑ったのだった。
3,226
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務
ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。
婚約者が、王女に愛を囁くところを。
だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。
貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。
それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜
恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」
18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から
情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。
しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。
彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、
彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。
「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」
伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。
衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、
彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。
「……あの、どちら様でしょうか?」
無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。
裏切った男と、略奪を企てた伯母。
二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる