〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
26 / 80
第四章:見覚えのある光景

確かに、覚えてるの

しおりを挟む

あれから部屋を出ないよう気をつけていたからか、あれ以来ルアンナと会うことはなかった。

部屋にこもりきりの生活を続け、五日後──。
私とリュカは、セレグラ地方へと降り立った。

「ここがセレグラ……さ、寒いですわー!!」

私は思わず頬を手で包んだ。
クリストファー殿下が言っていたとおり、セレグラは雪に覆われていた。
降雪量も多く、積もった雪は三メートルほどもあるのではないだろうか。
山の方などはもう、完全にあれだわ。雪山……。

防寒対策はしてきたつもりだけど、それでも露出している頬や鼻といった部分に風が直撃しますわーー!

びゅう、風がふきつけて、その冷たさに歯がカチカチと鳴った。

「さささ、寒いですわね!早いところ、本日の宿に向かいましょうか!荷物を置きたいですし」

意味もなく大声で私はリュカに言った。
それまで街の様子を伺っていたリュカが頷いて答える。

「ああ、うん。……シャーロット、大丈夫?」

「だだだ、大丈夫に見えます?」

寒すぎて、舌がかじかんで呂律が上手く回らない。ガチガチと歯を鳴らす私を見て、リュカが眉を寄せる。

「リュリュリュカ様はふふふ普段と同じ様子ででですわねねねね?」

もはや何を言っているのか判別が難しいほどである。
おかしい。私は寒さに弱いのかもしれない。いや、寒いですわ!!
セレグラの地元住人と思われるひとたちは、慣れたように雪かきをしたり、その場で話し込んでいるひとまでいる。
それに絶句した。

何ですのあのひとたちはーー!

私は寒さのあまり、洟だって垂れそうですのに!

淑女としてあるまじき姿である。

リュカは、そんな私を見て長居は禁物だと考えたらしい。短く答えた。

「早く移動しよう。あと、俺も寒いよ。顔に出にくいだけ」

か、顔に出にくいだけ、ですってーー!

この寒さを前にして顔に出ないひとがいるなんて、にわかには信じにくい。

私は、毛皮のコート、カシミヤのマフラー、厚手の手袋までしているというのに、寒くてたまらないですわよ……!
ガタガタ横に縦に震える私を先導する形で、リュカが歩き始めた。



予め、宿の予約はしていたのでその宿へと向かう。
分厚い二重扉をくぐると、途端、暖かい空気に包まれた。

「い、生き返りますわぁ~~~!」

私はこころから息を吐いた。
見れば、室内には暖炉に炎が灯っている。

コートについた雪を払っていると、ふと、リュカのコートには雪がついていないことに気がついた。

「リュカ様のコートは無事ですね?」

不思議に思って尋ねると、チェックインの手続きをしていた彼が「ああ」と気がついたように言った。

「俺の異能だよ」

「え……?雪がコートにつかない異能……?」

「いや、そうじゃなくて──」

リュカがそこまで言った時。
カウンター内の受付の女性が振り向き、私たちに言った。

「お部屋は202号室、204号室となります。こちらは、鍵となりますので無くさないようお願いしますね」

リュカがふたつの鍵を受けとり、その片方を私に手渡した。

「きみは204号室でいい?」

「構いませんわ。ありがとうございます」

結局、チェックインの手続きはすべてリュカに任せることになった。


部屋に荷物を置き、宿に併設されている食事処で昼食をとった後。

私は、早速テーブルに地図を広げた。
地図はこのセレグラ地方のものだ。
事前に確認済みのため、地図には書き込みがいくつもある。

アントニオ・アーベルの家は、ここから徒歩で二十分ほどしたところにあるはずだ。
彼は、街から少し離れた高台に住んでいるらしい。
ずいぶん不便だと思うのだけど、なぜ彼はここに住んでいるのかしら……。

少し気になったが、それは瑣末事だと私は気にしないことにした。
今はひとまず、裏の日記の鍵が解錠出来ればそれでいい。

地図を広げながら、リュカと場所を確認し、宿を出る。
途端、凍るような寒さが私を直撃し、また私は呂律が回らなくなった。
ガチガチと歯を鳴らしながら、歩くこと二十分。
いや、降り積った雪が思った以上に歩きにくく、予定より時間がかかったように思う。

アントニオ・アーベルの家がある高台の麓。
坂の手前に到着した時点で、既に宿から二十分が経過していた。

動いているためか寒さはすこし和らいだが、それでも寒いものは寒い。
その上、この坂道……。
私はうっかり、気が遠くなった。

それでも、足を動かさなければ進むものも進まない。

(ええい!ここまで来たのよ。大丈夫、あとはこの坂を登るだけだもの……!!)

もはや、気分は登山家である。

私は自分を鼓舞し、一歩足を踏み出そうとしたところで。
ふと、リュカが驚くことを言った。

「この雪だけどさ、きみの異能で消せないかな」

「……私の異能は、氷をどうにかすることだけです。これは、雪ですもの。雪は対象外ですわ……」

というか、できるものならとっくにしてますわ……。

そんな気持ちで答えると、リュカが驚いたように目を見開いた。
それから、私に言う。

「そっか。ごめん。今のシャーロットは、俺の異能を知らないんだったね」

「リュカ様の異能……。そういえば、受付で言いかけていましたわね」

リュカのコートに雪がついていなかった理由でもあるのだろう。
私が先を促すと、リュカが口を開いた、ところで。
なにかが、視界に飛び込んできた。

何だろうとそれを見た瞬間、リュカが叫んだ。

「シャーロット!!」

腕を彼に掴まれ、引き寄せられた。

「──」

彼の背中を見た瞬間、確かに、何か、を。
何かを、思い出した気がした。

(私、この光景……見たこと……ある?)

でも、どこで?なにで?
確か、そう。

その時も、こんなふうにリュカに呼ばれて……。

(ここではない、もっと、狭くて汚い道。そこでリュカが、突然、)

その瞬間、爆発が起きた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

処理中です...