〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

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第四章:見覚えのある光景

アントニオ・アーベル……ではない?

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目の前には、数えるのもばからしくかるほどの長い階段が私たちを待ち構えていた。
唖然とする私の横で、チャーリーが「あ」と何かを見つけたように声を出す。

「『この階段を登りきったもののみ、応対する。用がないものは去れ。……アントニオ・アーベル』」

玄関を開けたすぐ先に、そんな立て札が置いてあった。

「つまり、この馬鹿長い階段を登らなければアントニオ・アーベルには会えない、ということですね。あの坂道といい、この階段といい、彼は訪問客の根性を試しているのかもしれません」

な、何ですってーーーー!?

私は絶句した。
しかし、すぐに思い出す。

以前の私は、アントニオ・アーベルに会って裏の日記に鍵をつけてもらったのだ。それはつまり、以前の私はアントニオ・アーベルに会えたことを意味している。

……以前の私は、あの坂道とこの階段を登りきった、ということ!?

考えて、くらりと目眩がした。
雪で足を取られ、ただでさえ歩きにくい坂道を登った後に、この仕打ち。さすがの私も尻込みするというものである。

しかし、たじろいだのは僅かな間だった。
ここまで来たのだ。
ここまで来たのに、すごすご帰るつもりは毛頭ない!

「……いいわ。この階段、登りきってやろうじゃない!!」

私は、拳を握りしめてそう宣言した。

心配そうなチャーリーとジョージに、ここまでで大丈夫だと言って、彼らを返した。
ふたりにも仕事があるはず。いつまでも私に付き添ってもらうのは申し訳ないし、もともと坂の上まで、という約束だったのだ。

意を決して私は、階段を登り始めた。

「はー……それにしても……ほんと……何なの、この階段、は!」

最初は、令嬢らしく一段一段登っていたが、やがて馬鹿らしくなって(誰も見ていないのもある)、そのうち二段飛ばしで私は登り始めた。
しかし、そもそも私には体力も筋力も不足しているので、ものの数段で息が上がる始末。

アントニオ・アーベル……。
こんな根性試しみたいな家を造るなんて……恨むわよ!!

私は、ゼェハァ言いながらヨロヨロと階段を登った。

そして、どれくらい時間が経過しただろうか。
ようやく、いちばん上までたどり着くと私はふと、背後を振り返った。

すごい高さ……。

ここから転げ落ちたら、それこそ前回の事故のように派手な転倒劇を見せることになるだろう。
しかしここにはそれを見る観客もいない。
私も進んで落ちたいとはもちろん思わない。
この階段は、公爵家の玄関ホールの階段よりも長い。こんなところから落ちたら、今度こそ無傷ではいられないだろう。

落ちた時のことを考えて、私はゾッとした。

(あまり見ないようにしましょう。足元が疎かになってうっかり落ちたりしたら、それこそ目も当てられない……)

そう思いながら、私はあたりを見渡した。
すると、すぐ先に扉がひとつあった。
また、プレートが下げられている。

【根性あるものよ。この扉をノックするといい】

ずいぶんと偉そうである。
とはいえ、アントニオ・アーベルは、その能力からして本来は、神殿に仕えるべき身である。
だけど彼はそれを拒否し、この片田舎に引っ込んでいる。
彼の異能は、使いようによってはとんでもなく強力な武器になる。

私はすぅ、と息を吸うと、意を決して扉をノックした。

……数秒して、トタトタと軽い足音が聞こえてくる。

そしてバンッと勢いよく木の扉が開かれた。
現れたのは、金髪の少年だった。
まだ幼く、年齢は二桁に入ったばかり、とおったところだろう。
彼はなにかの作業中だったのだろう。手には、バールを持っている。
頭にはバンダナを巻いていて、それを雑に取り外しながら彼は言った。

「はいはーい。こんな大雪の中、ご苦労様ですっと……ご用件は……」

少年が顔を上げて、私と視線がぶつかる。
私は、まさかこんな幼い子が出てくるとは思わず面食らっていた。
が、ここでアントニオ・アーベルに会う唯一のチャンスを棒に振るわけにはいかない。
リュカ、ジョージ、チャーリー、付き添いの侍女たちに協力してもらい、私はここまで来たのだから。
私は何とかアントニオに会わせてもらおうと背筋を伸ばした。

「私、シャーロット・シェーンシュティットと言います。アントニオ・アーベルさんに用があるのですが、ご在宅ですか?」

「…………」

「アントニオさんは、いらっしゃいますか?」

少年の反応は薄く、私をただただ凝視するばかりである。
聞こえていなかったのかもしれない、とふたたび彼に言うと、そこでようやく、少年が反応を示した。

「シャーロットだ!!シャーロット!?え、ほんとうに!?どうしてまた来たの!?」

……どうやら、この少年と私は、顔見知りのようだった。
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