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第四章:見覚えのある光景
代理領主との対面
しおりを挟む侍女たちに、正直に先程襲撃されたからと答えると、彼女たちは一気に青ざめた。
私はふたりの顔をそれぞれ見ると言った。
「ほんとうは、公爵邸に戻ってもらった方がいいのだけど……」
「嫌です!わ、私はお嬢様の侍女です!母だって、残ってお嬢様を守れと言うに決まっています」
そう答えたのは、乳母の娘であるエマだ。
「その気持ちは有難いわ。でも、あなたたちに何かあったら、私はあなたたちのご両親に申し訳ないもの。私には身を守る術があるわ。でも、あなたたちは違う。そうでしょう?」
彼女たちは、異能保持者ではない。
「そうですけど……」
エマが言い淀む。
正直、私が狙われている、という状況になった以上、ほんとうなら彼女たちには邸宅に戻ってもらった方がいいのだ。
彼女たちを人質に取られる可能性だってあるためだ。
リラが、悩みながらも言った。
「それでしたら。私たちは宿を出ません。ですので、これからもお嬢様の旅路にご一緒させてはもらえませんでしょうか」
「うーん……そうね……」
私は異能保持者とはいえ、彼女たちは私に仕える侍女だ。危ないからと私を残して王都に戻ることは職務上できないのだろう。
彼女達の立場も、気持ちも、もちろんわかるので私はリラの言葉に頷いた。
その後、室内着に着替えた私は、そのままベッドにダイブした。
動きやすいワンピースドレスだ。王都で着るドレスのようにゴテゴテとした仕様ではないので、とても気楽だった。
侍女ふたりは予め部屋をとっていて、その部屋は私の隣だ。
部屋の並び順としては、廊下側からリュカ、侍女、私、の順番となる。
部屋番号はそれぞれ、202、203、204号室だ。
私は顔をシーツに伏せながら、ふぅ、と息を吐いた。
思えば、坂道を登ったり、階段を登ったり……。
とんでもなく体を動かしたのだわ。
また、アントニオの家を訪ねる時はあの傾斜の激しい坂道と、ばかみたいな長い階段を登らなければならないのかと思うと、遠い目になる。
うつ伏せ状態にベッドに倒れながら、私は自身を襲った襲撃者のことを考えていた。
アントニオからの依頼──セレグラ住人の窮地の問題もあるが、それだけではないのだ。
なぜ、ジュリアンは私を襲ったのだろうか。
今更だけど、もう奴に敬称など不要だろう。
婚約解消するわけだし、私を殺そうとしたわけだし。
そんな相手に敬意など持つはずがない。
ごろん、と仰向けになって考える。
情報を整理すると、つまりこうなるわけよね?
1.シャーロットの一方的な恋情が理由で、シェーンシュティット公爵家とザイガー子爵家の婚約がまとまる。ジュリアン・ザイガーは、シャーロット・シェーンシュティットに対して高圧的であり、それをシャーロットも受け入れていた。
2.シャーロットが記憶を失う。ジュリアンに婚約解消を申し出る。ジュリアンの返答は芳しくなかったが、話は既に進んでいる。
状況を整理してから、私は呟いた。
「婚約解消されたくないから、殺す……って言うのは、飛躍し過ぎだと思うのよね……」
それに襲撃者たちは、私がふたたび異能を使えるようになっていたことを知らなかった。
それはつまり、情報が伝達される前に指示が降りたことを意味している。
……ということは、ジュリアンが私の暗殺を命じたのは、私から婚約解消の申し入れをする前。
……なぜ?
ますます訳が分からなくなってくる。
ひとまず、はっきりしていることは、ジュリアンは私を亡きものにしようとしていること。その理由は、分からないけど。
その時、扉がノックされた。
「シャーロット、いる?先に戻ってるって受付で聞いたんだけど」
リュカの声だ。
私は跳ね起きると、手櫛でかんたんに前髪を整え、扉に向かった。
「いるわ。良かった。私もちょうど話があったの」
扉を開けると、今戻ってきたばかりなのだろう。鼻の頭を赤くしたリュカがいた。
異能騎士といえど、密室にふたりきりというのは、未婚の令嬢として外聞が悪いので侍女を呼ぶことにする。
リュカに連れられてやってきたのは、リラだった。
リラは壁に控え、私とリュカはそれぞれソファに対面になるように腰かけた。
私はまず、リュカからの報告を聞いた。
襲撃者たちはなかなか口を割らないようで難儀しているらしい。
「それで、報告を受けたセレグラの代理領主がきみに会いたいと言っている。名目上は、セレグラの地で危険な目に遭わせたことの謝罪、らしいけど。どうする?」
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