〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
45 / 80
第五章:記憶のゆくえ

事実は小説よりも奇なり……

しおりを挟む
ルークはそれはそれは楽しそうにケラケラと笑った。

啖呵を切った……。

というか、タダ働き!?
一ヶ月もの間、私はここでタダ働きをしていたの……!?それも自ら進言して!?
そうまでして鍵をつけたかったのだと思うけど、ますます怪しく感じる。そこまでして、隠したがる裏の日記には、一体何が書かれているのだろうか、と。

笑いすぎたあまり、涙を滲ませながらルークは言った。

「俺、今でも忘れられないよ。シャーロットのあの堂々とした宣戦布告。度肝を抜かれたなぁ」

「……あなたから見た私って、どんな印象?」

ふと気になって、ルークに尋ねてみた。
ルークは、まさかそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。ぱちくりと青い瞳を見開いて、それから少し考え込む。
悩むようにしながら、ルークは答えた。

「うーん……猪突猛進?なんか……勢いがあるって言うか……。こう!って決めたら絶対そうするっていうか……。……ああ!」

なにか、思いついたようにルークが手を叩いた。
そして、自信そうに言う。

「あれだ!!【獲物に噛み付いたスッポン】!」

「ぶふっ」

吹き出したのは、アントニオ・アーベルだ。
思わず、顔が引き攣った。

こ、こいつら……。
公爵令嬢相手にスッポン呼ばわりとは、ずいぶん失礼なひとたちである。

思わず、拳を握った。
わなわな震えたが、しかし、以前の私と彼らはずいぶん親しかったようなのだ。一ヶ月とはいえ、住み込みで働いたのだものね……。これくらいはご愛嬌なのかもしれない。……きっと、うん。

そう思い込むことにして、私はまず情報を整理することにした。

知れば知るほど以前のシャーロットわたし像がブレていく気がした。

【気弱で、都合のいい女】
それが、ジュリアンから見た私の評価だった。

【苛烈な女】
それが、クリストファー殿下から見た私の評価。

【意志を突き通す強さのある女】
それが、リュカから見た私の評価。

そして、ルークの評価が、

【獲物に噛み付いたスッポン】……。

…………これがいちばん酷いわね。
私は額を押えながらもはやどんな顔をすればいいのか分からなかった。

スッポンって。
スッポンって!!

爬虫類じゃない!!
広義的にいえば…………虫!!

私、公爵令嬢で……人間なのに!!

そんなことを考えていると、それまで私たちの会話を静かに聞いていたアントニオ・アーベルが言った。

「まあ、なんだ。セレグラの問題も解決してくれるそうだからな。少し早いが、鍵は解錠しよう。約束だからな」

「えっ!いいの?だってまだ……」

まだ、私の手紙すら王都に届いていないだろう。
王城から役人が派遣されるのも、早くてひと月ほどはかかるはずだ。
ダニエルだってこのまま大人しくしているとは思えない。あの手この手で起死回生を狙ってこようとするはずだし、ただ完全にアントニオ・アーベルの依頼を完遂したわけではないのだ。
戸惑う私に、アントニオ・アーベルがにかっと歯を見せて笑った。

「お前さんのことは信じてるさ。お前さんは、やると決めたら最後までやり遂げるからな」

「それは」

以前のことを言っているのだろうか。
一ヶ月の下働きをした、というやつ?

戸惑っていると、アントニオ・アーベルが席を立ち、隣室から私の裏の日記を手に戻ってきた。
また持ってくるのも手間なので、ここに置いてもらっていたのだ。
アントニオ・アーベルは、机の上に裏の日記を置くと、その上で手を翳した。
一瞬、裏の日記が青白い光に包まれる。

次の瞬間、ハンマーで叩こうともニッパーで切ろうとも、硫酸をかけようともうんともすんともしなかったあの堅牢な鍵が。

……カチャ、という微かな音と共に、外れたではなありませんか!!

アントニオ・アーベルの異能によって作られた鍵だから、彼が解錠できるのはとうぜんなのだけど。それでも感動してしまった。

ひ、開いたわ~~~!!

思わず、私は裏の日記を胸に抱いて小躍りしたくなった。
まさか日記ひとつでここまで翻弄されるとは、思ってもみなかった。
感極まって震える私を見て、アントニオ・アーベルはギョッとしたようだった。
彼は苦笑いしながら、鍵の外れた裏の日記──何の変哲もない、ただの日記を私に渡した。

「ほらよ。これは前金みたいなものだ。セレグラの件、最後まで頼むぜ。シェーンシュティット家のご令嬢」

「もっ……もちろんよ!!私を誰だと思っているの。目的を達成したからといって途中で投げ出すような中途半端なことはしないわ!」

私は日記をぎゅう、と胸に抱きながらアントニオ・アーベルに宣言した。

「それじゃあ、私は宿に戻るわ」

「あ、じゃあ俺送るよ!」

ぴょん、とルークがソファから立ち上がって言った。
それに、私は苦笑して答える。

「大丈夫よ。ひとりで戻れるわ」

「でも、女性の一人歩きは危険だよ。今のセレグラだと特に」

ルークは、意外と(と言ったら失礼かもしれないけど)紳士だった。
それでも、まだ少年であるルークに送ってもらうのはさすがに気が咎める。私は対抗手段を持つ異能保持者なのだし、ここは断ろうと思った時。

「そうだなぁ。そうしてもらうといい。ついでにルーク、買い出しを頼めるか。シャーロットを送った帰りでいい」

慣れたように頼むアントニオ・アーベルに、

「はーい」

と、こちらも慣れたように返事をするルーク。
私はふたりをまじまじと見つめて、それからグワッとアントニオ・アーベルに言った。

「子供の一人歩きだって危険よ!だめよ、買い出しなんて!ついでに私がしてきてあげるわ!」

ドン、と胸元を叩いてアントニオ・アーベルに強く言う。
しかし彼は、私の言葉に【は?】とでも言わんばかりに、呆気にとられた顔をした。
その表情に私も面食らう。
困惑する私と、呆気にとられた様子のアントニオ・アーベルの間に割って入ったのが、ルークだった。

「ああ!そっか!シャーロットは記憶が無いんだもんね、仕方ないね!それじゃあ言っておくけど!!俺、十九だから!子供じゃないから!!」
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

処理中です...