〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。

文字の大きさ
65 / 80
最終章:また同じひとに恋をする

一時のお別れ

しおりを挟む
「チェーンメイル……?」

リュカが困惑した様子で箱を見た。
そして私から箱を受け取り──。

「重っ……」

「鉄板も入っているわ。ぜひ使ってちょうだいね」

「鉄板!?」

リュカがぎょっとした様子で私を見る。

そんな反応をされると、私が常識外れな贈り物をしたように感じてしまうので、やめてほしい──と思いつつ、好きなひとへの贈り物としては間違いなく失格である。
それは私も理解している。でも、仕方ないじゃない。今必要なのは、愛を伝えるためのプレゼントではなく、彼の身の安全を確保する防具だ。

「鉄板にチェーンメイル……どういうこと?」

リュカは箱を両手に持ちながら、怪訝な様子で私を見る。

それに、私は周囲を気にしながらそっと顔を近づかせた。内密の話がしたいことを察したリュカが、軽く腰を曲げて耳を近づけた。

その近い距離に、心臓がうるさいほど音を立てた。

(ええい、今はそんな場合じゃないでしょ!!)

カーッと顔が熱を持つのは仕方ない。自然現象だもの。それをどうにかすることはそうそうに諦める。
私は声が上ずらないように気をつけながら、言った。

「ダニエル・ボレルのことよ」

「ダニエ──ああ」

彼の名前を出すと、リュカが納得が言った様子で頷いた。

「……色気のない贈り物でごめんなさい。でも、大切だと思ったのよ。ダニエルが何をするか分からないし」

言い訳のようにぼやくと、リュカはしばらく箱を見つめたあと──ふわり、と微笑んだ。
優しく、穏やかな笑みだ。

いつもは冷たく感じる灰青の瞳があまりにも優しさを帯びていて。
思わず、視線を逸らしてしまいそうになる。

「いや、嬉しいよ。特に、きみが俺のために選んでくれた、っていうところが嬉しいかな」

「っあ、あの!」

思わず、私はリュカに言った。
思いがけず大きな声が出てしまって、周囲の注目を浴びてしまう。
さらに頬がカッカッと熱を持つ。
どうにかしてそれを冷ましたいと思いながら、私はリュカに言った。

「王都から戻ってくる時は、もっと違うものを贈るわ」

「違うもの?」

「これが、私からあなたへ贈る初めてのプレゼント……っていうのは、私も少し、嫌だし。だから……待ってて?」

こういう言い方はずるいかもしれない。
それでも、私の微かな乙女心が、好きなひとへ初めて贈るプレゼントが鎖帷子チェーンメイルと鉄板とはどうなのよ!?と訴えかけてくる。
確かにその通り。その通りなのだ。

しかし、今、贈り物を選んでいる時間は無い。

自然、王都で物色することになる。

そう思ってリュカを見上げると──彼は頬と目尻をほんのり赤く染めながら、私から視線を逸らした。

そして、またちら、と私を見て、真っ直ぐ視線を向けて、彼が言う。

「いや……次は、俺がきみに贈り物をするよ」

「リュカが?」

思わず、聞き返す。
すると、リュカが照れたようにはにかんだ。

「うん、まあ。これ貰ったしね」

これ……というのは、今彼が抱えている箱のことだ。
だけどその中身は。

「それ、チェーンメイルと鉄板……」

「それでも、シャーロットからの贈り物であることには違いないし。ありがとう。鉄板……は服に仕込めばいいのかな。とりあえず、毎日着けるよ」

その言葉に、私は思わず顔を輝かせた。
ここは、いかに良い商品を選んだか、プレゼンすべきだろう。
息巻いた私は、リュカに得意げに言った。

「ええ!チェーンメイルは、軽くて、でも造りはしっかりしたものを選んだのよ。鉄板もそう!服の中に入れるとなったら、結構邪魔じゃない?だから行動を制限しないようにできるだけ薄くて、でも防護力はしっかりと兼ね揃えているものをアントニオ・アーベルにお願いしたの!」

あまりに注文をつけすぎて、彼には『そんな都合のいいもんはない!!』と言われる始末だったけど。
私が力説すると、リュカが苦笑する。

それで、またハッとする。
私は何を熱くなっているの……。

チェーンメイルと鉄板を贈り物にする公爵令嬢もいないだろうが、その良さを熱く語る貴族令嬢もなかなかいないだろう。
それを自覚した私は、こほん、とわざとらしく咳払いをした。

「と、とにかく。私は戻ってくるから……。だから、待っててね」

そう言うと、リュカが微笑みを浮かべた。

「ああ。道中、気をつけて」

リュカはそう言うと、手に抱えていた箱を一旦、侍女のエマに預けた。

そして──。

「シャーロット」

彼が私の名前を呼んだと、同時。

「っ……!!」

彼に手首を掴まれ、引き寄せられる。
あっ、と思う間もなく、私はリュカの胸の中に飛び込んでいた。


「……待ってる」


リュカの、あまりにもちいさな声が。
耳をくすぐった。

「──」

目を開いた、直後。
抱擁はすぐに解かれた。

リュカも、気恥しかったのだろう。
彼の目尻はほんのりと赤く染まっていた。

「じゃあね、シャーロット」




そして、私とリュカは一旦、セレグラで別れることとなった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...