〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。

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狐の獣人 2

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 (これ、私の服じゃない……)
 
 こんな見るからに高そうな服は持っていないし、間違いなくティナの服では無いのだが、ではそうなると彼女の着ていた服はどこにいったのか、という話になる。
 こんな高価そうな服を着ていいのか迷ったが、今のティナは薄いシュミーズと、ドロワーズしか履いていないのだ。青年がティナの服だと用意してくれたのだから、好意に甘えよう。
 そうしてティナが服に袖を通したところで、コンコン、と扉にノックがあった。
 
「ティナ。着替えられた?ひとりでも着られるデザインのものを選んだんだけど……大丈夫だったかな」
 
「あっ……い、今着終わりました!」
 
 腰のリボンをきゅっと結んでティナが答えると、「開けるね」と声が聞こえ扉が開いた。
 青年もまた、着替えてきたのだろう。真っ白のアイロンのきいたシャツに、黒のトラウザーズを履いていた。肩には群青色の羽織がかかっていて、寒色系の色彩が、銀の色を持つ彼にはとても似合っている。
 
「うん、良く似合う」
 
「……ありがとうございます」
 
 似合うのは青年の方だ、と思ったティナだが、静かにお礼を言った。
 それより気になることがあるからだ。
 ティナは落ち着かない気持ちで視線をあちこちにさまよわせたり、ドレスの裾を握りしめたりしていたが、やがて話を切り出した。
 
「あの……どうして私はここにいるの……?ごめんなさい、昨日のことあんまり覚えてなく、て……」
 
 ティナの言葉が止まったのは、青年が急にこちらに向かって歩いてきたからだ。ぴしりと固まったティナの前に彼は立つと、彼女の顎を持って持ち上げた。小柄なティナと、身長の高い彼では身長差がかなりある。
 
「……覚えてない?」
 
 彼は目を細めて、どこか探るような視線を向けてきた。
 
「ロレリーナがいなくなったあたりから……あまり覚えてなくて」
 
 咎められているのかとティナの兎耳はしゅんと項垂れた。青年はそんな彼女をじっと見つめていたが、やがてふ、と口元を綻ばせた。
 
「そっか。俺は楽しかったんだけどな、昨日の夜。ティナもノリノリだったじゃん」
 
「………え!?」
 
「何も覚えてない?俺がきみに触れた時の感覚を、何も?」
 
 青年の手がゆっくりとティナの背中を辿り、腰のラインをなぞった。その手つきに、慣れないながらも官能めいた感覚を感じ取ったのだろう。
 ぴく、と彼女の耳が揺れた。
 
「そうだ、安心して。ちゃんと避妊はしたよ」
 
 にっこり笑う青年に、ティナは今度こそ完全に固まった。
 
 その後、ティナは文字通り脱兎のごとくその場を逃げ出した。

 帰ります!と言って部屋を飛び出し、思ったよりも広い廊下で迷子になった彼女を玄関まで案内してくれたのは彼だった。
 あまりにも格好がつかなかったが、それでも彼はティナに話し合いを急かすようなことはしなかった。しかしただ、一言。
 
「ティナは昨日の出来事を無かったことになんてしないよね?」
 
 と、まさにその通りにしようと半ば考えていたティナに釘を指した。
 途端、どうすればいいか分からず混乱と動揺で泣きそうになった彼女に青年は柔らかい笑みを浮かべる。
 
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
 
 確かめるような、それでいて威圧感のある声だった。その声に、今度こそティナは何も言えなくなってしまった。
 
 
 あれから、ティナは惚けながら自宅に帰ったが、思い出すのは彼のことばかりだった。
 避妊はした、と彼は言う。
 
 (避妊、昨日の出来事……ヤリ……捨て)
 
 その言葉から連想されるのは一夜の出来事である。ティナには全く無縁の話だと思っていたのに、まさかのまさかである。
 
 (つ、つまり私って……昨日、処女を失くした、ということ!?)
 
 それも、相手はあの冷たい印象のある青年だ。
 あの後ティナは青年の名前を聞きそびれた、と思っていたが、もしかしたらもう二度と会うことの無い相手かもしれないのだ。
 そもそも、彼がどこの誰だかわからない。彼が滞在していたのは王都の外れにある高台の屋敷だった。その屋敷は王都を見下ろすように建っており、広さもティナが迷子になるほどだった。
 きっと彼は名のある家の子息なのだろう。
 そう思うと、もう会わない方がいいと考えた。
 
 (それに……彼はαだわ)
 
 αには、運命の番がいるはずだ。
 彼は運命の番に否定的だったが、出会ってしまったら抗えられないだろう。

 だって、運命の番とはそういうものなのだから。
 
 
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