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曇り空の下で 3
しおりを挟むロベート・ロランはフワロー王国の第二王子として生を受けた。
しかし、王家の生まれでありながら狐の獣人の彼は昔から周囲の中傷が耐えず、傷ついた彼は周りを一切信じない、孤独な王子となってしまっていた。
兄や父、母はロベートを家族として大切にしてくれたが、それでも兄と父はライオンの種族、母は狼の種族。狐の種族であるロベートの気持ちはわからない。
王子でありながら狐の獣人のロベートは、周りから軽んじられた。第一王子のバルトロとの扱いの差は一目瞭然で、ロベートは公の場で見下されるのが常だった。
ロベートが十四歳の頃だ。
辺境伯領で行われる軍事演習を彼は見に行くこととなった。フワローは四方を海で囲われているので、辺境伯の武力は大切だった。
そして、十四歳となったロベートも王子として辺境伯の重大さを理解するために直接その目で見てこい、という話となったのだ。
兄のバルトロも成人前に辺境伯で軍事演習の見学にいったことがあり、それは王家の慣習だった。
辺境伯に着いたロベートは、そこでも狐の獣人という王家にとっては珍しすぎる種族に周囲の視線を集めた。
「やっぱり狐なのか」
「あれが噂の……」
そう言われる度にロベートはますます卑屈な気持ちになっていく。
この頃は、ロベートを使える第二王子として、カードの一枚としか見ていない人物に声をかけられることが多かったのもあり、ロベートは疑心暗鬼に陥っていた。
ロベートは王族の自我を持つ王子ではなく、使えるカードの一枚と見られたのだ。
狐の獣人でも、血は確かに王族。
第二王子に娘を娶らせ、第一王子を失脚させ、政権を握ろうとする人物ばかりがロベートに接触してきたのだ。
それは娘も同様だった。
笑顔の下では、「王家のくせに狐の獣人だ」と馬鹿にしているのに、ロベートに利用価値があるから彼に気にいられようと媚びを売ってみせる。
もう誰も信用などできなかった。
軍事演習を見ている間、ちらちらと鬱陶しい視線がロベートに向いた。ようやく終わると、彼は形式に則り、辺境伯からの手厚いもてなしを受け、そのまま王都に帰宅する、手筈だったのだ。
今でも鮮烈な記憶は失われていない。
あの日、ロベートは昼に出立した。それから馬車が動き始めて数時間もしないくらいだっただろうか。昼間は晴れていた天気が崩れ、あっという間に曇り空となった。
やがて曇天から雨が降り出し、雨足が強くなる。帰城は、行きよりも日数がかかることだろう。もう少し先に村があるから、そこで一晩過ごしましょうという部下の言葉につまらない思いで頷いた。
そして、雨が強まり、雷まで落ち始めた時のこと。
雲が光った刹那、同時に銃声が響いた。
すぐさま馬の嘶きが聞こえ、馬車は急停止する。
馬車の外から、怒声と剣戟の音が聞こえてくるのはすぐだった。
異常を感じ取ったロベートが馬車の扉を開けて外に出ると、そこは戦場と化していた。急襲を仕掛けられた部隊は隊列を崩し、あちこちで乱戦になっている。
ロベートが馬車からおりると、部下のひとりが馬車に戻るよう叫んだ。
しかし、その男も首を剣で突かれ、瞬く間に絶命する。王子の護衛は誰もが手練だったはずだが、もう残っているのは数人ほどで、対して相手は十人以上いた。
ロベートは、自衛としてある程度剣は使えたが、子供の体躯で、かじった程度の剣の腕が賊に通じるはずがない。蹴られ、殴られ、切り付けられ、あっという間にロベートは追い詰められた。
あと一太刀でも浴びればもう起き上がれなくなるだろう。傷だらけとなった彼を凶刃から守ったのは、彼の部下だった。
部下もまた、血まみれで荒い呼吸をしていたが、ロベートに逃げるよう叫んだ。
自分だけが逃げることに後ろめたさを感じた彼がそれでも動けずにいると、部下はさらに、ロベートがいると思うように動けない、とも叫ぶ。
そこでロベートは、自分が邪魔になっていると知り、歯を食いしばってその場を逃げ出したのだ。
必ず、あの男たちに復讐してやると、そう誓って。
実際、ロベートがいようがいなかろうが変わらないくらい護衛側は押されていたのだが、そうでも言わないと彼はここを離れないだろうと部下は考えたのだ。
ロベートが逃げ出したことに気がつくと、男たちはいっせいに少年を追いかけ始めた。元から、彼らの狙いはロベートだったのだから。
それを、残った数人が文字通り命懸けで男たちに斬りかかり、ますます場は混戦と化した。
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