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眠れない夜 2
しおりを挟む彼女のその答えは、彼にとって予想外のものだったのだろう。目を見開いて、何度も瞬きを繰り返す彼は幼く見えた。
(なんだかかわいい)
ティナは思わず笑ってしまった。先程までの冷たく、重苦しい雰囲気は霧散していた。
「ふ、ふふ……それで、教えてくれる気になった?」
ティナが笑いのあまり、涙まで浮かべながら尋ねると、なぜ彼女が笑ったのかその理由に思い至ったのか、少し不貞腐れたような顔で彼は言う。
「……きみが、俺の恋人になると言ってくれるなら全部教えるよ」
「あなたの恋人に?……でも、あなたはαだもの」
「俺を拒む理由は、ほんとうにそれだけ?」
「え?え、ええ……」
彼を恋人として考えられない第一の理由は、彼がαだから。αである以上、いつか運命の番を見つけてしまうかもしれない。いつ来るかわからないその時に怯えて毎日を暮らすのは嫌だった。
「それなら、安心していい。俺は昔から鼻がきかないんだ。Ωのフェロモンは全く分からない」
ロベートの告白にティナはびっくりして目を丸くした。フェロモンを感知できないαなど、あまりにも珍しいからだ。
しかし、その珍しい例がすぐそばにいたのを彼女は思い出した。
「……ロレリーナみたいね」
「へぇ、彼女もそうなんだ。βの恋人がいるんだっけ」
「ええ、そうよ。とてもらぶらぶなの」
「そう……。恋人思いだね」
小さく呟いた言葉に、ティナは首を傾げた。
彼女がその意味を問う前に、彼は彼女の手首を掴む。触れる、といったほうがいいほどに優しい手つきだ。
「俺はきみを裏切らない。もし、俺に運命の番がいるのだとしても、俺はそのフェロモンを感知することができない。フェロモンを感知できない以上、運命の番とやらとどうこうなることもないよ。だから、ティナ。俺を信じて、この手を取って欲しい」
「………でも」
それでも、彼女は素直に頷けなかった。
そう言って、また裏切られたら怖いのだ。また、運命の番が現れたから、とあっさり捨てられてしまうのが恐ろしい。
ティナは元恋人との別れがトラウマになっていた。迷いを捨てきれない彼女に対し、彼はそっと彼女の頬に手を伸ばした。
ぴく、と彼女の体が揺れるが抵抗はない。
「……きみにキスをする」
「え……」
「嫌なら、俺の頬を叩いてくれていい。きみの手は自由だ」
彼の手がティナの顎を持ち上げて、もう片方の手が首の裏に回った。彼女は混乱していた。
ゆっくりと、だけど確実に彼の美しい顔が近づいてくる。
「待っ──」
「聞かない」
「………!」
彼女は、拒むことが出来なかった。
手は自由で、決して強引な口付けではなかったのに、気がつけばティナは目をぎゅっと瞑って、彼を受け入れていた。
触れるだけの、短い口付けだ。すぐにくちびるは離れたが、ティナは顔から火が出るほど恥ずかしかった。思わず俯いてしまった彼女の頭に、彼が頬を寄せた。
「俺たち、恋人ということでいいのかな」
「……ずるいわ。こんなの」
「でも、きみは受け入れた。そうでしょう?」
その通りだ。ティナは拒めなかった。
嫌なら、彼を押しのければよかったのだ。彼は決して無理強いはしなかったのだから。キスを受け入れたのは、ティナの意思だった。
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