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覆る (2 )/アルフェイン
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歳は僕のひとつ下で、今年十二歳らしい。
いちいちそんなこと僕に聞いてくるなよ、と思いながら当たり障りない返答をしておく。何て言葉を返したのかは覚えていない。だが心のこもってない言葉でも相手は微笑んでいた。こういう時、この顔は便利だ。
『ネアモネは怒ると怖い子なのです。殿下になにかご迷惑をかけなければいいけれど………』
そういう彼女は、そのあともネアモネの話をした。そのどれもがネアモネをさりげなく貶めるもので、僕は遅れながらダリアの性格を理解した。なるほど、これまた花言葉にふさわしい令嬢だ。
そして、この時ネアモネの印象も少し変わった。何も知らない、新雪のような無垢さを持つ令嬢。
それがネアモネへの印象だった。だけど思ったよりも悪辣な姉を抱えていると知り、彼女は何ら普通の令嬢と変わりないのだと知った。
僕が十五になった時にはほとんどの公務を僕がこなしていた。十五になり成人の祝いを受ける。初めて参加した夜会では、令嬢たちの香水の強さに目眩がした。
誰も彼もが距離が近い。こんな時、威厳のないこの顔が恨めしかった。突き放すようなことを言うわけにもいかない。いい王太子であれ、とその言葉が呪縛のように僕を縛った。
ある夜会の途中。いつもより一際きつい香水をつけている令嬢が僕にひっついてきた。婚約者であるネアモネはまだ十二歳だから夜会には来ていない。それをいいことにうじゃうじゃとまとわりつく娘たちにいい加減限界だった。
夜会を抜け出し、そして僕はそこでアデライードと出会った。
彼女は初対面から僕に向かって無礼な口を聞いた。何だこの女、と思い牢に放り込んでやろうかと思ったが、彼女の言葉を聞いて足を止めた。
『品行方正で優しい王子様は、キスされたくらいでか弱い女の子を牢に放り投げたりしないわよね?』
挑発的な態度に、言葉。そんな態度を取られたのは初めてだった。彼女を牢に入れるのは挑発に負けたような気がして、結局放置した。
彼女は夜会で顔を合わせる度に僕を追いかけ回した。
そうこうしているうちに、僕とアデライードは結局友人という関係に納まった。アデライードに抱く感情は悪友のそれで、恋愛とは程遠かった。
ネアモネとは表面上穏やかな関係を続け、公務をこなす。
順調だった。全てが順調で、このまま僕はネアモネと婚姻し、この国を継ぐのだと思っていた。だけどある日、下町から女が尋ねてきた。僕にでは無い、陛下に、だ。
女の要件はひとつだった。
『王妃様には王太子殿下以外に、お子がいらっしゃいます』
あの時の衝撃は未だに忘れられない。
母は、浮気していたのだ。
いちいちそんなこと僕に聞いてくるなよ、と思いながら当たり障りない返答をしておく。何て言葉を返したのかは覚えていない。だが心のこもってない言葉でも相手は微笑んでいた。こういう時、この顔は便利だ。
『ネアモネは怒ると怖い子なのです。殿下になにかご迷惑をかけなければいいけれど………』
そういう彼女は、そのあともネアモネの話をした。そのどれもがネアモネをさりげなく貶めるもので、僕は遅れながらダリアの性格を理解した。なるほど、これまた花言葉にふさわしい令嬢だ。
そして、この時ネアモネの印象も少し変わった。何も知らない、新雪のような無垢さを持つ令嬢。
それがネアモネへの印象だった。だけど思ったよりも悪辣な姉を抱えていると知り、彼女は何ら普通の令嬢と変わりないのだと知った。
僕が十五になった時にはほとんどの公務を僕がこなしていた。十五になり成人の祝いを受ける。初めて参加した夜会では、令嬢たちの香水の強さに目眩がした。
誰も彼もが距離が近い。こんな時、威厳のないこの顔が恨めしかった。突き放すようなことを言うわけにもいかない。いい王太子であれ、とその言葉が呪縛のように僕を縛った。
ある夜会の途中。いつもより一際きつい香水をつけている令嬢が僕にひっついてきた。婚約者であるネアモネはまだ十二歳だから夜会には来ていない。それをいいことにうじゃうじゃとまとわりつく娘たちにいい加減限界だった。
夜会を抜け出し、そして僕はそこでアデライードと出会った。
彼女は初対面から僕に向かって無礼な口を聞いた。何だこの女、と思い牢に放り込んでやろうかと思ったが、彼女の言葉を聞いて足を止めた。
『品行方正で優しい王子様は、キスされたくらいでか弱い女の子を牢に放り投げたりしないわよね?』
挑発的な態度に、言葉。そんな態度を取られたのは初めてだった。彼女を牢に入れるのは挑発に負けたような気がして、結局放置した。
彼女は夜会で顔を合わせる度に僕を追いかけ回した。
そうこうしているうちに、僕とアデライードは結局友人という関係に納まった。アデライードに抱く感情は悪友のそれで、恋愛とは程遠かった。
ネアモネとは表面上穏やかな関係を続け、公務をこなす。
順調だった。全てが順調で、このまま僕はネアモネと婚姻し、この国を継ぐのだと思っていた。だけどある日、下町から女が尋ねてきた。僕にでは無い、陛下に、だ。
女の要件はひとつだった。
『王妃様には王太子殿下以外に、お子がいらっしゃいます』
あの時の衝撃は未だに忘れられない。
母は、浮気していたのだ。
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