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確信に触れる ⑺
「逃げる獲物を追いかけたくなるのは狩りと同じですね」
「野蛮ですのね」
「それが本能というものじゃないでしょうか?」
デストロイはさすが女慣れしているだけあって、リズの口の悪さもあっさりと受け流してしまう。
リズ自身、自分の言葉に可愛げがないことは理解している。それなのにこうも構ってくるあたり、デストロイの狙いが読めない。
リズがじっと見ていると、デストロイは柔和な表情で穏やかに笑った。
「庭園を見ませんか?リズレイン嬢、お手をどうぞ」
「………」
リズ自身、いつまでもこんな膠着状態を続ける気はなかった。ここで蹴りをつけなければ。
彼女が手を乗せると、デストロイの紫根色の瞳が緩んだ。
まるでリズを大切に思っているような目に、リズはぎくりとした。
(演技が上手いというか……)
ふたりが庭園に向かうと、デストロイは単刀直入に切り出した。
「まだヴェートル・ベルロニアが忘れられない?」
なんの前振りをなく突然ヴェートルの名を出されたリズは、わずかに硬直した。
しかしすぐに気を取り直す。
「……何のことでしょうか?」
「誤魔化さなくてもいいよ。社交界にいる人間なら誰もが知ってる。リーズリー家の令嬢とベルロニアの当主が婚約直前だったというのはね。だけど、きみたちの様子を見るにそれは偽りだったらしい。……いや、正しくはどちらかの片思い?リズレイン嬢?」
当たり前のように親しげに話しかけてくる男にリズは眉を寄せた。
思わず手を振り払う。
デストロイは大人しく、引き下がった。
「何を勘違いされているのか分かりませんが……私が婚約者を持たない理由にベルロニア公爵は関係ありません。そして、私は誰とも婚約を結ぶつもりもありません」
力強い瞳でデストロイを見ると、彼は意外にも楽しげに微笑んでいた。
得体がしれない。
気味が悪くなりリズが一歩後ずさると、手首を掴まれた。
「そうかな?きみは僕を拒絶するけど、王命ならどうしようもない」
「……どういう意味でしょうか?」
「リズレイン嬢。きみは僕が今まで出会ったどんな女性より魅力的だ。なにより、その瞳がいい」
(……瞳?)
目といえば、彼女の瞳は赤色だ。
確かに深紅の瞳は珍しいだろう。だけど全くいないというわけではない。
リズが眉を寄せると、デストロイがさらに一歩近づいた。顔が胸元に触れそうな距離だ。
咄嗟に後ずさろうとしたが、手首を掴まれていてそれは叶わない。
「……離して」
「嫌だと言ったら?」
「声を上げます」
「ご自由に。ここできみのドレスを破れば既成事実でも成るかな」
「……!!」
リズは弾かれたように顔を上げた。
そして、顔を顰めてデストロイを睨みつける。
やはり、デストロイは軽薄な人間なのだ。
リズが最初に感じたように。
「最低だわ」
「褒め言葉かな」
「離して!あなたなんかに触られたくない」
リズがなおも抵抗しようと掴まれていない方の手でデストロイの胸元を押す。
しかし、反対の手で腰を抱かれてしまって、離れることができない。筆頭補佐ということは文官のはずだが、デストロイの力は強くリズだけでは彼を突き放すことはできなかった。
あまりの無力さに涙すら滲んでくる。
でも絶対、こんな男の前でなど泣きたくない。
リズは唇を噛み、男の足を力の限り踏みつけた。
「っ痛!」
デストロイの手が緩む。
その隙にリズはするりとその手から逃れた。
すぐにデストロイの手が届かないくらいに離れると、リズは彼をきつく睨みつける。
デストロイはリズを見ると苦笑した。
ヒールで踏まれた足はかなり痛かったのか、立ち方に違和感がある。
「困ったな、きみは僕の想像以上のじゃじゃ馬だ」
「平手打ちされなかっただけ感謝して欲しいわ。デストロイ・アトソン次期伯爵様。あなたは未婚の淑女である私に何をしたか分かってらっしゃる?あなたは私の婚約者でもなんでもない。ただの知り合いという間柄にもかかわらずこの暴力。許されざる行為よ」
「暴力なんて、言い過ぎじゃないかな。少し抱きしめただけなのに」
「嫌がる女を力任せに思い通りにしようとしたのだから暴力で間違いないわ」
リズは真っ直ぐに彼を見上げた。
彼が魅力的だと称した深紅の瞳で見据える。
「私はあなたとは婚約しない。理由はただひとつよ、私はあなたを好きじゃない」
「言ってくれるね。きみを振り向かせるのは骨が折れそうだ」
デストロイがさらに近づいてくる。
今度近づいてきたら今度こそ平手打ちをしよう。
リズがそう思っていると、背後でがさりと物音がした。葉が擦れる音だ。
飛び上がるほどリズは驚いた。
「野蛮ですのね」
「それが本能というものじゃないでしょうか?」
デストロイはさすが女慣れしているだけあって、リズの口の悪さもあっさりと受け流してしまう。
リズ自身、自分の言葉に可愛げがないことは理解している。それなのにこうも構ってくるあたり、デストロイの狙いが読めない。
リズがじっと見ていると、デストロイは柔和な表情で穏やかに笑った。
「庭園を見ませんか?リズレイン嬢、お手をどうぞ」
「………」
リズ自身、いつまでもこんな膠着状態を続ける気はなかった。ここで蹴りをつけなければ。
彼女が手を乗せると、デストロイの紫根色の瞳が緩んだ。
まるでリズを大切に思っているような目に、リズはぎくりとした。
(演技が上手いというか……)
ふたりが庭園に向かうと、デストロイは単刀直入に切り出した。
「まだヴェートル・ベルロニアが忘れられない?」
なんの前振りをなく突然ヴェートルの名を出されたリズは、わずかに硬直した。
しかしすぐに気を取り直す。
「……何のことでしょうか?」
「誤魔化さなくてもいいよ。社交界にいる人間なら誰もが知ってる。リーズリー家の令嬢とベルロニアの当主が婚約直前だったというのはね。だけど、きみたちの様子を見るにそれは偽りだったらしい。……いや、正しくはどちらかの片思い?リズレイン嬢?」
当たり前のように親しげに話しかけてくる男にリズは眉を寄せた。
思わず手を振り払う。
デストロイは大人しく、引き下がった。
「何を勘違いされているのか分かりませんが……私が婚約者を持たない理由にベルロニア公爵は関係ありません。そして、私は誰とも婚約を結ぶつもりもありません」
力強い瞳でデストロイを見ると、彼は意外にも楽しげに微笑んでいた。
得体がしれない。
気味が悪くなりリズが一歩後ずさると、手首を掴まれた。
「そうかな?きみは僕を拒絶するけど、王命ならどうしようもない」
「……どういう意味でしょうか?」
「リズレイン嬢。きみは僕が今まで出会ったどんな女性より魅力的だ。なにより、その瞳がいい」
(……瞳?)
目といえば、彼女の瞳は赤色だ。
確かに深紅の瞳は珍しいだろう。だけど全くいないというわけではない。
リズが眉を寄せると、デストロイがさらに一歩近づいた。顔が胸元に触れそうな距離だ。
咄嗟に後ずさろうとしたが、手首を掴まれていてそれは叶わない。
「……離して」
「嫌だと言ったら?」
「声を上げます」
「ご自由に。ここできみのドレスを破れば既成事実でも成るかな」
「……!!」
リズは弾かれたように顔を上げた。
そして、顔を顰めてデストロイを睨みつける。
やはり、デストロイは軽薄な人間なのだ。
リズが最初に感じたように。
「最低だわ」
「褒め言葉かな」
「離して!あなたなんかに触られたくない」
リズがなおも抵抗しようと掴まれていない方の手でデストロイの胸元を押す。
しかし、反対の手で腰を抱かれてしまって、離れることができない。筆頭補佐ということは文官のはずだが、デストロイの力は強くリズだけでは彼を突き放すことはできなかった。
あまりの無力さに涙すら滲んでくる。
でも絶対、こんな男の前でなど泣きたくない。
リズは唇を噛み、男の足を力の限り踏みつけた。
「っ痛!」
デストロイの手が緩む。
その隙にリズはするりとその手から逃れた。
すぐにデストロイの手が届かないくらいに離れると、リズは彼をきつく睨みつける。
デストロイはリズを見ると苦笑した。
ヒールで踏まれた足はかなり痛かったのか、立ち方に違和感がある。
「困ったな、きみは僕の想像以上のじゃじゃ馬だ」
「平手打ちされなかっただけ感謝して欲しいわ。デストロイ・アトソン次期伯爵様。あなたは未婚の淑女である私に何をしたか分かってらっしゃる?あなたは私の婚約者でもなんでもない。ただの知り合いという間柄にもかかわらずこの暴力。許されざる行為よ」
「暴力なんて、言い過ぎじゃないかな。少し抱きしめただけなのに」
「嫌がる女を力任せに思い通りにしようとしたのだから暴力で間違いないわ」
リズは真っ直ぐに彼を見上げた。
彼が魅力的だと称した深紅の瞳で見据える。
「私はあなたとは婚約しない。理由はただひとつよ、私はあなたを好きじゃない」
「言ってくれるね。きみを振り向かせるのは骨が折れそうだ」
デストロイがさらに近づいてくる。
今度近づいてきたら今度こそ平手打ちをしよう。
リズがそう思っていると、背後でがさりと物音がした。葉が擦れる音だ。
飛び上がるほどリズは驚いた。
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