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1部・第1章

これは今流行りの転生なのでは?5

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 まったくもってちびっ子に優しくない建築してるわねこの建物。
せめてもう少し低くしたり下に土台用意しておくなりしてくれたっていいと思う。
何度かその場で飛び跳ねて外を見られないか試しているんだけど、何も成果は得られませんでした。
これが推定4歳児の幼女体型の限界。
聞こえてくる人々の歓声や花火の様な音に、私は祭りへと思い募らせていた。

「お祭り、か……前世でもほとんど行ったこと無かった気がするなぁ。今世こそ行ってみたいな…誰か…友達と一緒に」

 今の私ならもしかしたら友達を作る事ができるかもしれない。
外側が変わっただけで何か変化があるのかと言われればそこまでだが。
異世界でなら、私だって変われるかもしれない。
愛してやまない夢の世界でなら──。

「きっと、私にだってできるよね。私にだって──友達を作ることくらい、もう許されるよね」

 ため息を地に落としてみる。
息の音、わずかに鳴る声が静かな世界に微かに響く。
他に誰もいない。またひとりぼっち。
たとえ慣れていても悲しいものは悲しい。

「あーあ…シルフまだかなぁ」

 ぽつりと呟いてみたその時。
目の前の空間にまるで鏡のような美しい7色に光り輝く歪みが生じる。
その周りにもまた先程まで私がシルフと呼び目にしていた光のようなものが無数に舞っていて。

「──ごめん。ちょっと待たせすぎたよね…?」

 歪みを割いてその鏡から姿を表したのはこの世のものとは思えない絶世の美青年だった。
青年は、柔らかい笑みを浮かべながら膝を降り目線を合わせてくれた。

「その顔…やっぱり驚いてるよね。そうだよね……ボクみたいな感じのやつが出てくるなんて思わなかっただろうし」

 青年が驚いてると言っていたが、その通り私はかなり驚いている。
開いた口は塞がらないし目も瞬きすらしていない。客観的に見たら、私は今、相当なあほ面を晒しているのだろう。
それはともかく、もっと大事な事がある。
この青年の正体についてだ。
私の予測が正しければ、この人は──。

「あなた、シルフ……だよね?」
「うん。そうだよ。この姿で人間界に来るの久しぶりだから色々調整してて時間かかっちゃったんだ。ごめんね」

 おおう、これはまたずいぶんと声が低く心地よいイケヴォになっていらっしゃる。
そんな風にさっきまでの可愛いショタボのショタが出てくるのではなく、とんでもないイケヴォのイケメンが出てきてしまったのだ。

「別にいいよ。待つのは結構慣れてるし。それよりもさ、シルフ。あなたってこの建物が何か知ってたりしない? さっきも言った通り私何もわからなくて…」
「ボクもそんなに人間界の事に詳しいわけじゃないから、詳細はわからないけど……ここはお城だよ。なんとかっていう帝国のど真ん中にあるお城。だから君って多分お姫様なんじゃないの?」
「帝国?! 姫!?」

 ここに来て急遽重要語句が現れた。
オタクうんぬんとか関係無しに驚いてしまう。
お金持ちなんだろうなとは思っていたけど、まさかお姫様とは。
……………ん?帝国に、姫に、この容姿。ちょーっと思い当たる節があるんですが。

「まてまてまて……なんかちょっと嫌な予感がしてきたんですけど…!」
「嫌な予感って?」

 異世界チート転生かと思っていた。
しかし、これはもしや別パターンかもしれないのだ。
近頃これまたラノベ界隈で流行りつつある新たなジャンル──乙女ゲー&悪役令嬢に転生するパターン!

「──ねぇシルフ。私、私の名前わかったかもしれないわ」
「えっ、そうなの? いい事…だよね? 何で君はそんなに暗い顔してるの」

 そりゃあ暗い顔もしたくなる。
私の心境は今常人には理解出来ないであろうレベルで複雑だ。

「──私の名前は、恐らくアミレス・ヘル・フォーロイト。この国フォーロイト帝国の第一王女よ」

 その名は大好きだった乙女ゲーに出てきた敵国とその国の王女のもの。
あぁ。異世界転生も、乙女ゲーや悪役令嬢に転生するのも別にいい。
 でも──どうしてよりによってこのゲームで、しかも最推しのヒロインちゃんをめっちゃ殺したキャラに転生したのよ!

 できればもっと──もっといい感じの、ヒロインちゃんと仲良くできるようなキャラが良かったんだけど!!
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